チョート

第四話「シャンディガフ」

失格の裁定

雷撃で紅牙を倒した直後、黒服が冷たく告げる。
「……顔を傷つけるのはご法度。審査失格と見なす」
中三川は呆然としたままつぶやく。
「……顔を傷つけちゃダメなのか？」

和解と助言

よろよろと立ち上がった紅牙は、笑いながら言った。
「待てよ。……さっきはすまなかったな。
　お前の魅気を引き出したくて、わざとひどいこと言っちまった。
　こちらも殴って済まん。だが、いい一撃だったぜ」

紅牙は名刺を差し出す。
「魅気総合医療院」――チョート専用病院の名が刻まれていた。
「その腕の傷、ここへ行け。……院長は不在だから長引くかもな」

魅気の説明

中三川が問う。「……そもそも魅気ってなんなんだ？」
紅牙は肩をすくめる。
「俺も全部はわからん。
　ただ――ある一定の規模の場で、心からの指名を受けると現れる能力らしい。
　お前の場合は……あのマスターさんが心からお前を思ったんだろうな」

「魅気は出すコツを忘れると出なくなる。思うことはひとつ――『ここで俺が一番だ』。
　それを忘れるなよ」

アカペリ

紅牙はバックを漁り、赤い小瓶を取り出す。
「これ、俺が発明した酒――アカペリ。
　飲んでもよし、かけてもよし。魅気で負った傷なら治る」

「……俺は失格じゃないのか？」と問う中三川に、紅牙は笑った。
「そう思ったんだがな。マジックミラーの奥にまだ“お座りになってる方”がいるからよ。
　一度小山に戻って、準備して来い。……そうすりゃ、思ったより人は救えるぞ」

中三川は無言で小瓶を握りしめた。

マジックミラーの奥

中三川が去った後、紅牙はマジックミラーへ近づき声をかける。
「……どうでした？」

奥から低く響く声。
「いいんじゃないか。とりあえず仮合格ってことで――『シャンディガフ』で面倒を見てもらおう」

紅牙は眉をひそめる。
「シャンディガフ……？　あそこは過酷すぎる。下手したら死にますよ」
「……そしたら、それまでの男だったってことだ」

紅牙は小さく舌打ちした。

ゴールドチョートの夜

場面は変わり、夜の新宿。
両脇に美女を抱え、歩く男。整った顔立ちに、異様なちょんまげ。

チンピラ5人が銃と刀を突きつける。
「有名人さんよ、その女と金を置いて消えな」
「……ラリってるな。薬に銃に刀……闇の流通か」

「外じゃ魅気は使えねぇんだろ？　さっさと従えよ！」
嘲笑とともに襲いかかる5人。

だが男は腰を落とし、土俵の構えを取る。
「はっけよい」

・上手投げで一人を壁に叩きつけ、
・押し出しで一人をゴミ置き場へ、
・寄り倒しで一人を沈め、
・つり出しで一人を電柱に、
・ぶちかましで最後の一人を失神させる。

一瞬で全員が倒れていた。

「……新人君。魅気を頼っちゃダメだよ」
両脇の女性の頭を優しく撫でる。

胸元には金のネクタイ。

《チョートNo.1　小金井 烈央》