チョート

第五話「帰還」

帰宅と戸惑い

気づけば自宅に戻っていた中三川。
どうやって帰ったのかも覚えていない。
散らかった部屋を片付けながら、ポケットから赤い小瓶「アカペリ」を取り出す。
傷口に塗ると、裂けた腕がじんわりと温かさに包まれ、いつの間にか治っていた。

「……なんだよこれ。よくわからねぇ」

夢か現実かも判別できないまま、足は勝手に瞳さんのクラブへ向かっていた。

瞳の店へ

扉を開けると、カウンターの奥でテーブルを拭いていた瞳さんが気づき、微笑む。
その仕草に胸が熱くなり、泣きそうになる。

心臓が高鳴りながら、中三川は口を開いた。

「……瞳さん、話があって。
　頃合いが良いところで俺をやめさせてください。
　……俺、歌舞伎に行きます」

背中を押す言葉

瞳さんは一瞬だけ手を止め、すぐに優しい笑顔に戻る。
「……頑張って決意したね。
　なら、気持ちが変わらないうちに――今すぐ行きなさい」

胸が締めつけられるように痛む。
本当はここに残りたかった。
だがその言葉は、自分の背を強く押してくれていた。

思い出と別れ

頭を撫でられた日を思い出す。
『あなたはここでくすぶるような男じゃない』

扉に手を掛け、心の中でつぶやく。
《某漫画にもあったな……。俺なんかが言わないと思ってた》

振り返り、深くお辞儀をする。
「……今まで、ありがとうございます」

瞳の決意

だが瞳さんは不思議そうに笑った。
「なに言ってんの？　私も行くわよ」

「……え？」
驚きで固まる中三川。
その瞬間、二人の未来は思いもよらぬ方向へ動き出していった。