【完結】乙女ゲームの推しだった勇者が続編では淫魔になっていたので、悪役令嬢に転生した私が錬金術で救ってみせます!

鬼ヶ咲あちたん

文字の大きさ
14 / 39

14話 夜の奇襲は夜這いです

【赤いクラゲが欲しかったのか? それなら一匹、お嬢ちゃんの脚に付いてたぜ?】



 ホレイショが指さした先には、べちゃりと床にへばりついている赤いクラゲがいる。

 どうやら海中でウェンディのふくらはぎをぬるりと掠めた物体は、赤いクラゲだったらしい。

 それがそのまま脚に張り付いて、ホレイショの瞬間移動で一緒にここまで来てしまった。

 ウェンディが号泣している間に剥がれたが、クラゲというものは陸地では満足に移動できない。

 赤いクラゲは誰にも気づかれず、床の上でじわじわと干上がるのを待つしかなかったようだ。



「可哀想なことをしたわ。すぐに海水の中に入れないと」



 砂浜の上に置いていたウェンディの荷物も、ホレイショが運んでくれていたので助かった。

 筒形の水槽の中に赤いクラゲをたぷんと入れると、しばらくじっと下に沈んでいたが、やがてモゾモゾと触手が動き出す。

 ウェンディが水流を起こすポーションを垂らすと、赤いクラゲは気持ちよさそうに渦巻く流れに乗った。

 

「良かった、復活してくれた」

「それは何だ?」



 揺蕩うクラゲを眺めていると、風呂から上がったらしきデクスターが、隣から覗き込んでくる。

 デクスターの体から立ち昇るほかほかとした湯気が、ウェンディの頬にも感じられて、距離の近さに心が騒ぐ。

 

「この赤いクラゲから採れる粘液で、ポーションの質感や粘度を変えられるんです。これまでは、デクスターさまにポーションを飲んでもらっていましたが――」

「待った。その先は、こいつに聞かせない方が、いいんじゃないのか?」



 デクスターが魔王の核がある下腹をさすって見せる。



「こいつは、意志を持っているのかもしれないのだろう? だったらウェンディの話を聞いて、何か対策を練るかもしれない」

「魔王の核には、耳があるってことですか?」

【あながち間違いでもないと思うぜ。大人しくしている間はただの核かもしれないが、デクスターの体を乗っ取ろうと動き出した今は、そいつはもうただの核じゃない】

「用心するに越したことはない。ウェンディの策は、俺に内密にした方がいい」

「そうすると、実験は奇襲のようになってしまいますが、いいんですか?」

【奇襲って! お嬢ちゃんはやっぱり面白いな!】



 ホレイショが歯を見せて笑う。

 ウェンディも、さすがに奇襲は言い過ぎたかなと思っていると、デクスターが真剣な顔をして宣う。



「それでいい。俺を襲うつもりでいてくれ。ウェンディになら、何をされても構わない」



 魔物姿になっているデクスターを相手に実験するのだから、奇襲とはつまり夜這いだ。

 ウェンディの顔が、ボッと紅潮する。



【あ~あ、無自覚でお嬢ちゃんを煽るんだから、デクスターは罪作りだなあ】

「デクスターさまは実験の許可を出してくれただけで、そんな、あ、煽るだなんて……」



 わたわたするウェンディと、意味が分かっていないデクスターを、交互に見ながらホレイショが口角を上げる。

 その顔には間違いなく、【これは絶対に面白いことになる!】と書かれていた。



 ◇◆◇



 赤いクラゲが雄であると確認できたので、ウェンディはホレイショに家まで送ってもらうことにした。

 筒形の水槽を持って突然現れたウェンディに、実験中だったダニング伯爵は驚愕して保護メガネがずり落ちる。

 どうやらホレイショが瞬間移動した先は、研究室だったようだ。



「ありがとう、ホレイショ。作戦実行のときには、またお願いね」

【おう! 試作ポーションが出来たら、デクスター宛てに連絡してくれ。デクスターに隙ができた夜を狙って、お嬢ちゃんを迎えにくるからよ!】



 ホレイショは悪い人相をしながら、揺れて消えた。

 ウェンディは持っていた水槽を机の上に置き、背負っていた鞄を床に下ろすと、ホッと肩から力を抜いた。

 そんなウェンディに、ダニング伯爵が間合いを詰めてくる。

 

「い、今のは……? ホレイショに見えたけど?」

「うん、ホレイショの瞬間移動で送ってもらったの。デクスターさまのとこから」

「デクスターのとこから? ウェンディは、海に行ったんじゃなかったっけ?」

「あれ? お父さまが私の見守りを依頼したわけじゃなかったの? じゃあ、デクスターさまは自主的に……?」



 頼まれてもいないのに、ホレイショを海に寄こして、ウェンディを見守っていてくれたのだ。



(なんだか、それって、それって――!)

 

 デクスターから大切にされているようで、思わず緩んでしまった顔を、ウェンディは両手で覆って隠した。

 感極まっているウェンディの様子を、微笑ましそうに見るダニング伯爵。

 

「なんだか、聞かなくてはいけないことがたくさんありそうだけど、取りあえず無事に帰ってこれて良かったよ。おかえり、ウェンディ」

 

 ◇◆◇



 採集してきた赤いクラゲは、ダニング伯爵が素材を取るために管理している、大型水槽へと移された。

 その中には、雌の赤いクラゲがいるので、きっと寂しくはないだろう。

 元気そうにしている赤いクラゲに、ウェンディが胸を撫で下ろしていると、ダニング伯爵からの質問攻めが始まった。



「それで海で何があった? どうしてデクスターのところに? ホレイショの力って一体――」

「順を追って説明するわ。きっと、お父さまには衝撃を与えてしまうでしょうけど」



 ウェンディは、話が長くなると見越して、ダニング伯爵に着席を勧める。

 王家から依頼があったポーション制作を横にやり、ダニング伯爵は大人しく座って聞く姿勢を見せた。



 海で溺れてしまったこと、そこをデクスターに助けてもらったこと、ホレイショの持つ瞬間移動の力で山小屋に戻ったこと、デクスターに内容を明かさず実験すると決めたこと。

 ウェンディの話題のひとつひとつに、顔をしかめたり輝かせたりしたものの、ダニング伯爵は最後まで口を挟まなかった。



「なるほどねえ」



 一通りの説明が終わり、未熟さを叱られるかもしれないと思っていたウェンディだったが、ダニング伯爵の見解は違った。



「親心から言わせてもらうと、危ない目に合った海には、もうウェンディを行かせたくない。けれど、ウェンディが一人前の錬金術士になるためには、それではいけない。今回の失敗を教訓として役立てるように、というのが先輩錬金術士としての、私からの助言だね」

 

 ダニング伯爵はそこで足を組みかえる。

 ウェンディへの苦言はここまで、ということだろう。



「デクスターがしてくれた配慮には、感謝しかない。ホレイショの力を活用して、よくぞウェンディを助けてくれた。デクスターにこっそり、泳げないウェンディが海へ採集の旅に出て心配だと、憂いを吐露した甲斐があったよ」

「いつの間に連絡を取り合っていたの?」

「王家から急ぎで、ポーションの制作を依頼されただろう? それに関してちょっと、昔のことを思い出してね。デクスターも憶えているかどうか、尋ねたんだ」

 

 まあ、そちらは杞憂に終わったんだけどね、とダニング伯爵は締めくくる。

 ウェンディは、先ほどまでダニング伯爵が使っていた融合釜を見やる。

 隠すつもりはないのか、使用した素材の残りも並んでいるので、ウェンディにはそれだけで、ダニング伯爵が制作したポーションが何なのか分かった。



(王家が依頼したのは、媚薬ポーション?)



 眉根を寄せたウェンディの顔に、ダニング伯爵が苦笑を漏らす。

 

「どうして? と、思うだろう? 私もそう思った。そして昔のことを思い出したんだ。魔王討伐パーティを結成して、旅立ってからしばらくした頃だった。私は自分が誰かに、媚薬ポーションを盛られたかもしれないと感じた」

「え……?」

「ほんの僅かだが、媚薬ポーションと同じ作用が身心に現れたんだ。すぐさま、媚薬効果を打ち消すポーションを作って飲んだよ」

「それで、大丈夫だったの?」

「私はね。念のためにデクスターにも尋ねたんだが、彼は童て……いや、純真だから、何も感じていないようだった。でも一応、打ち消すポーションは飲ませておいたよ」



 そこでウェンディは、恐ろしいことに思い当たった。
感想 0

あなたにおすすめの小説

死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」 前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。 ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを! その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。 「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」 「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」 (…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?) 自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。 あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか! 絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。 それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。 「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」 氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。 冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。 「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」 その日から私の運命は激変! 「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」 皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!? その頃、王宮では――。 「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」 「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」 などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。 悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

【完結】成り上がり令嬢暴走日記!

笹乃笹世
恋愛
 異世界転生キタコレー! と、テンションアゲアゲのリアーヌだったが、なんとその世界は乙女ゲームの舞台となった世界だった⁉︎  えっあの『ギフト』⁉︎  えっ物語のスタートは来年⁉︎  ……ってことはつまり、攻略対象たちと同じ学園ライフを送れる……⁉︎  これも全て、ある日突然、貴族になってくれた両親のおかげねっ!  ーー……でもあのゲームに『リアーヌ・ボスハウト』なんてキャラが出てた記憶ないから……きっとキャラデザも無いようなモブ令嬢なんだろうな……  これは、ある日突然、貴族の仲間入りを果たしてしまった元日本人が、大好きなゲームの世界で元日本人かつ庶民ムーブをぶちかまし、知らず知らずのうちに周りの人間も巻き込んで騒動を起こしていく物語であるーー  果たしてリアーヌはこの世界で幸せになれるのか?  周りの人間たちは無事でいられるのかーー⁉︎

10回目の婚約破棄。もう飽きたので、今回は断罪される前に自分で自分を追放します。二度と探さないでください(フリではありません)

放浪人
恋愛
「もう、疲れました。貴方の顔も見たくありません」 公爵令嬢リーゼロッテは、婚約者である王太子アレクセイに処刑される人生を9回繰り返してきた。 迎えた10回目の人生。もう努力も愛想笑いも無駄だと悟った彼女は、断罪イベントの一ヶ月前に自ら姿を消すことを決意する。 王城の宝物庫から慰謝料(国宝)を頂き、書き置きを残して国外逃亡! 目指せ、安眠と自由のスローライフ! ――のはずだったのだが。 「『顔も見たくない』だと? つまり、直視できないほど私が好きだという照れ隠しか!」 「『探さないで』? 地の果てまで追いかけて抱きしめてほしいというフリだな!」 実は1周目からリーゼロッテを溺愛していた(が、コミュ障すぎて伝わっていなかった)アレクセイ王子は、彼女の拒絶を「愛の試練(かくれんぼ)」と超ポジティブに誤解! 国家権力と軍隊、そしてS級ダンジョンすら踏破するチート能力を総動員して、全力で追いかけてきた!? 物理で逃げる最強令嬢VS愛が重すぎる勘違い王子。 聖女もドラゴンも帝国も巻き込んだ、史上最大規模の「国境なき痴話喧嘩」が今、始まる! ※表紙はNano Bananaで作成しています

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。

香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。 皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。 さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。 しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。 それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?

気配消し令嬢の失敗

かな
恋愛
ユリアは公爵家の次女として生まれ、獣人国に攫われた長女エーリアの代わりに第1王子の婚約者候補の筆頭にされてしまう。王妃なんて面倒臭いと思ったユリアは、自分自身に認識阻害と気配消しの魔法を掛け、居るかいないかわからないと言われるほどの地味な令嬢を装った。 15才になり学園に入学すると、編入してきた男爵令嬢が第1王子と有力貴族令息を複数侍らかせることとなり、ユリア以外の婚約者候補と男爵令嬢の揉める事が日常茶飯事に。ユリアは遠くからボーッとそれを眺めながら〘 いつになったら婚約者候補から外してくれるのかな? 〙と思っていた。そんなユリアが失敗する話。 ※王子は曾祖母コンです。 ※ユリアは悪役令嬢ではありません。 ※タグを少し修正しました。 初めての投稿なのでゆる〜く読んでください。ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください( *・ω・)*_ _))ペコリン