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枯れたジキタリスの花
〖第11話〗
しおりを挟む先輩はそう聞いた。その質問に僕は、
「僕にはもう、あのときの輝きはありません。イギリスでも、遊びましたし『引っ込み思案』の『良い子』の僕なんか何処かへ行きました。そうじゃなきゃ胸が真っ黒になって早川さんと微笑みながら話をするあなたに嫉妬して、辛くて、辛くてまともではいられませんでしたから。あの場所は僕の場所だったのに……大学に入って先輩に話しかけて、高校時代、僕以外のひとを底冷えするような瞳で見る意味が解りました。先輩にあるのは、先輩にとって一番か、そうじゃないか。──みんな、僕を忘れていきます。家族もあなたもみんなみんな僕を要らないものにする!まあ、僕は所詮ゴミみたいなものですから!」
そういい、僕は笑う。一生懸命笑う。
「こんな冴えない子供みたいな僕のことなんて、みんな忘れる。先輩も忘れたんですから、他のひとが、憶えているはずないんです。先輩みたいな素敵な人、みんなほっとかないし、先輩もたくさん素敵な人に出会っているはずなのに。………あの頃大学一年生で、髪なんか切って浮かれてたんですね。やっぱり僕はバカだなあ」
バカだなあ。もう一度言い、そう、小さく自嘲すると、あの頃の自分が甦る。この人のことしか心になかったバカな自分。なんてバカな自分。
僕は涙がポロポロとまらなくなった。先輩は僕を抱きしめる力を強めた。先輩は泣いているようだった。
「もう、忘れないで………」
掠れた声で僕は言った。
「ずっと憶えてる。くるくるの可愛い巻き毛が西洋の彫刻みたいだ、相模」
先輩は涙を長袖のカーキ色のシャツの袖口で拭いた。
「今、相模が蝶々なら、俺は羽根を傷つけてしまうかもしれない。籠に閉じ込めて自由を奪ってしまうかもしれない。他の花に行ってしまったらと、有りもしないものに不安になって、嫉妬して。君を平然と見てられるほど俺は人間が出来てはいないよ。そのくらい、相模は可愛らしくて、魅力的だよ………傍にいて。俺の、傍にいて。相模、君が好きだよ。本当だから、疑わないでくれ。相模………」
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