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枯れたジキタリスの花
〖最終話〗──枯れたジキタリスの花《完》
しおりを挟む高校生のあの、霧降高原の『先輩』と同じ顔をした先輩は、泣きながら僕を抱きしめて僕の名前を呼んだ。
『相模。相模。君を傷つけたね。一番傷つけたのは俺だった。君の傷を抉ったのは俺だった。君を忘れて、君を泣かせて。傷つけた。相模。許してくれ……』
ジキタリスを見に行こう。 心臓を止めてしまう、強力な毒草。 心臓の病を治す、気難しい薬草。
「俺を恨んで………憎んでるんだろ、相模」
「ええ。恨んでいます。嫉妬もしました。憎んでいました」
「だって、相模、ならどうして………」
再会してから、恋人になった?身体を許した?
カミングアウトしたら、絶縁された実家。やっと出来た友達も奇異の目で僕を見て離れていった。
「あなたが、また僕を見つけてくれた。愛してくれた、僕も信じたくなった。あなたを、信じたい。それだけでいいんです。先輩、僕のこと………好きですか?」
「好きだよ。愛してるよ。ずっと一緒だ。………死ぬときも、一緒がいい。ジキタリスを、食べようか」
「え?」
「何でもないよ」
そう言って先輩は周りを確認してから軽く僕に口づけた。
「ごめんな………相模、好きだよ」
先輩は切な気に目を細める。
──────────
愛することを試してもいいだろうか?だって僕はあのとき確かに先輩が好きだった。 お寺のつり鐘のような花が恋しい。
フォクス・グローブ。狐の手袋。そして毎年あの花を見て笑う僕の隣に、このやさしい顔があって欲しい。贅沢すぎる願いに苦笑いする。
「行こうか、明彦。手を繋ごう」
不意にかけられた僕を呼ぶ声『明彦』と僕を呼ぶ、キスの上手な口唇。悪戯っぽい口調と均整のとれた笑った顔。ヒヤリと冷たい手。 雲間から光が差した。先輩は眩しそうに空を仰いで、言った。
「あの日と同じ雲みたいだ」
先輩は空を仰いだ。
「え?」
「今も思い出すんだ。相模を初めて抱きしめた日に出てた入道雲 。パールみたいだった………」
思い出だけは、綺麗なまま。 あの夏は二人の不可侵のサンクチュアリ。
──────────
今の左手の光はパールの雲より眩しい。
僕はきらきら光る薬指にやさしくキスをした。
──────────Fin
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