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〖第4話〗
しおりを挟む「白、ま、導師さま」
声が、穢いと思っていた私のガラガラ声が綺麗な声に変わりました。
「何かね?」
「私の満月の涙をここに。私の命と引き換えに、塔の王子さまを銀の髪、碧い瞳にしてあげて下さい、お城に戻してあげて下さい、幸せにしてあげてください。お願いします」
私は何回も頭を下げました。
「随分と願いが多いね」
そう言い、白魔導師さまは豊かな髭を撫でながら苦笑いしました。ふわふわの白く長いお髭。笑い皺。
「お前は本当に良いのかい?」
私は小さく頷きました。たとえ自分が消えても、王子さまの記憶から私が忘れ去られようとも、私が王子さまをお慕いした事実、過ごした時間、例えば──タカタカの実を私がいつも頂いた事実は、真実なのです。それは消えません。
「こんなに泣いて、可哀想に。悲しいかい?怖いのかい?」
私は白魔導師さまの声に俯き、
「悲しいからでは、怖いからではありません。ただ、王子さまを……お慕いしていたのです。もう、春です。この国の短い春です沢山の花が咲きます。その美しい花を王子さまにお見せしたかった。私だけが知る花畑も……それはそれは綺麗なんです。一緒に行ってみたかった。そして、ずっとお慕いしていましたと、このことを告げてから逝きたかった」
私は蹲って泣きました。
「苦しい恋をしてきたんだね。毎日月の神様に祈っていただろう」
私は頷きます。
「ただひたすら王子さまの幸せを。私は声も姿も醜い。そんな私を見ても王子さまは儚げでしたが笑って下さいました。『やあ、よく来たね』と。もう、王子さまは生きることに疲れてしまわれました。私が塔に行っても悲しげに微笑むだけで……今はあのときのように笑ってくださらない。王子さまを助けてあげて下さい白魔導師さま」
不意に後ろから包むように抱きしめられました。抱きかかえる腕はひんやりと少し冷たく、王子さまに背を撫でられたような気がしました。抱きかかえる腕は言いました。
「もう、いいよ。私はこのままでいいよ。君がいてくれるなら、それで良いよ。塔に帰ろう。一緒に眠ろう。塔は寒いけど、君は暖かいから」
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