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53話 闇を使う転生者(前編)
しおりを挟む豪雪地帯グレイスノウ。
雪山の奥深く、ここにあると知らなければ見落としてしまいそうな小さな洞穴の中で、俺たちはパジャマ姿の男性と対面していた。
「どうしてパジャマなのよ」
「もう寝ようかと思って……」
それより一緒に連れてきている魔物みたいばものが何だと眉をひそめられたので、俺は大量に着込んだ布とかいろんなものの中から自己紹介した。
俺はレイニーの友達で、今年度の異世界転生者カドマツであると名乗る。
パジャマの男性はマキナという名前らしい。
人間だったのかと驚かれ、俺の見た目が本当にすごいことになっていることを改めて自覚。
「こんなに寒いんだから仕方ないだろ」
「お前らが集まってぞろぞろくるなんて俺を討伐でもしに来たのか?」
灰色の石でできたダンジョンを知らないかとウルフが質問する。
この地域は視界が悪くて、たとえ存在していたとしても見落とすかもしれない。
かつては最強と謳われた探索メンバーが揃っていて見落とすなんてありえるのかとマキナが首をかしげるので、記憶をいじる魔物がいる可能性を伝える。そして、俺たちが探している行方不明者がそこにいる可能性があることも。
「僕の妹がこのあたりにいるかもしれない」
「シャックの妹って、エレナのことだよな」
「アンタなら絶対に覚えていると思ったわ」
彼は心に影響するスキルを一切受け付けないらしい。
エレナという少女のことも当然覚えている、彼女はシャックの妹として確かに存在していたと証言した。
だが彼女と最後に出会ったのはずいぶんと昔のことなので、記憶は曖昧になっているらしい。
「ダンジョンの手がかりはどうやって手に入れたんだ?」
「俺のスキルでウルフさんの過去から」
そのスキルでメンバー全員の過去を見たのか、まだ見ていないメンバーの過去もあるのかとマキナに聞かれて、ティラノが見たのはまだウルフの過去だけだと答えた。
ダンジョンの詳しい見た目も知りたいし、ここで心に干渉するスキルの影響を受けないマキナも交えてスキルを使えば新しい情報が得られるかもしれない。
試しにティラノからテレポーターのスキルカードを受け取るが、俺のスキルは発動しなかった。
「発動ていないようだが……?」
「俺のスキルは俺への信頼がいるから……」
「ティラノはお前を信用して無いということか」
「こいつ、アタシの顔じゃなくて胸見て会話してくるから」
それは俺が悪いとしか言えないのだが、目の前に豊満な胸があれば視線を我慢するのは難しい。
新しい情報は無理そうで、怪しい場所にまずは実際に行ってみることに。
しかしマキナはパーティーに付いていくのは気が進まないと同行を渋った。
「俺も手伝ってやりたいが、俺は少しでも怒りを感じると暴れてしまうからな」
「暴れてもレイニーがとめてくれるってさ」
「俺のスキルには打ち消しとかが効かないうえに、何よりツラいと噂になったこともある」
そんなことどうでもいいから探索に協力しなさいとティラノ。
グレイスノウのどこにあるかもわからないダンジョンを探さなければならない。捜索範囲が広すぎて、ただでさえ人手が足りないのだ。
事情を分かってくれて、この寒さの中でも動けるマキナには土地勘もある。この洞窟の付近だけでいいから協力しろと檄を飛ばす。
「これは脅しよ? 断るならアンタを適当な国にテレポートさせて大騒ぎにする」
「相変わらず強引な女だな」
「嫌いじゃないでしょ」
交渉は成立。
俺は大量に着込んでいるのに凍えそうになっており、ここで焚き火をしてもいいかと聞く。
洞窟主の許可が取れたので、レイニーに頼んでスキルカードで小さめの炎を出してもらった。
焚き火のおかげでかなり温まり、俺はようやく魔物じみたの恰好をやめて大量の布とかいろんなものの中から顔を出した。
「お前は探しに行かないのか」
「寒いからやだ」
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