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高校進学編
反目くんのクエスト
しおりを挟む「おい、このタコ糸誰のだ。使わないだろ持って帰りな!!名乗り出ろてめえの首に巻くぞ」
「兄貴」
「口じゃなくて手を動かせネコバス政策班!溶接が甘いんだ貸せはんだゴテはこう使うんだ」
「兄貴」
「看板政策班『ジヴリ』じゃない『ジブリ』だ『ジブリパーク貴船支部』!!唇を軽く噛むな余計な縦棒を付け足すな帰国子女はEUに帰れ!!」
「兄貴」
「差し入れのゴリゴリ君ここ置いとくから。溶けないうちに食───ゥッ」
背後から強めにヘッドロックをかけられた挙句、口にこぶし大の何かを突っ込まれる。こぶしだった。弟が背後から俺の口にこぶしを突っ込んでいた。
「いい加減にしろよ、兄貴」
まれに見るガチギレだった。
「ば、まがが………」
「嫌だね。兄貴が口を閉じるまで離さない」
「もがもがもが」
「は?兄貴がマネジメントの何を知ってるっていうの?やるにしても自分のクラスでやってくれないかな」
穏やかな声音にも、確かにとげがある。弟は、俺の首を締め上げる力を強めながら「見なよ」と言った。
「みんな引いてるでしょ。1年の文化祭準備に出しゃばってくる2年が兄だなんて、俺恥ずかしさでどうにかなっちゃいそう」
悪目立ちするな、これ以上喋ったらあなたを殺しますよと言いながら、弟は無駄に長い指がぐるりと回す。それに倣って視線を動かすと、こちらに集まる群衆の視線は、確かに完全に変質者に向けるそれだった。
────一日前。
「協力してあげよう」と言った反目が俺に出した指示は、シンプルに二つ。
ひとつ、弟から極力離れずかつ好意的に接すること。ひとつ、極力多くの人の目に触れること。
純粋に俺個人としても嫌だし、まずもって指示の意図がわかりにくすぎる。
けれどもこの助言はあの反目優介からのもの。あの悪名高い偏屈名探偵の物である。
頼らないという選択肢こそあれど、指示に背くとなるとわけが違う。推理小説では、探偵に逆らった奴から死んでいくのだ。
故に俺はこうして四六時中弟に付き纏っては、1学年下の文化祭準備でエリアマネージャーのような真似をしているのだけれども。
「ま、まあまあ明希。落ち着けよ。お兄さんだって悪気があるわけじゃないだろうし?」
……アイスは美味いし。
俺の差し入れたゴリゴリ君を齧りながら、同級が弟を宥めてくれる。俺は取り敢えずで解放するが、顎の骨は外れたままだった。
庇ってくれた後輩の背後に隠れて、顎骨をカポカポ言わせながら頷く。微笑んだままの弟のこめかみに青筋が浮かんだ。
やばい。この調子だと誰を助けるとか何とかいう前に俺が殺される。この弟に。
「椎原に迷惑かけないで」
「……?俺は別に迷惑じゃ…」
「ほらおいで、兄貴。兄貴はこっち」
襟首を掴まれて、椎原くんの背後から引きずり出される。遮蔽物を失った俺は、頭を抱えてガタガタ震えるしかなかった。
「……とにかく兄貴はあっちで俺と、じっくりお話しようね」
「たすけて…たすけて……」
「明希、お兄さんのことマジで大好きじゃん……」
呆然と呟く椎原くん。何をどうエキサイト翻訳してそうなったのか小一時間問い詰めたいところだが、今は何より俺をたすけて。
「え?そうだよ」と早口で答えた明希に、縮み上がりながらも引き摺られて。
「…………先輩」
水を打ったように静まり返る教室内。
そんな、どこか強張った弟の声に、俺はそっと頭を抱える手を下ろした。
そこにいたのは、俺と同学年のガチムチ。確かアメフト部だったか。俺より背の高い明希よりもさらに10センチくらい背が高い。
なるほど、こんなやつにケツを狙われたら確かに一溜まりもない。
「高倉、今良いか?」
「はい!俺でよければ!」
明らかに弟に向かっての呼びかけに、俺は勢いよく答えた。眼前のガチムチ含め、周りの生徒達は皆、異常者を見るような目でこちらを見ていた。
そんな顔をしないでほしい。俺だって間違いなく高倉なのだ。かっこよくない方のだが。
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みんなの感想(3件)
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この話すごく好きです!
サイコパス攻めってことから
とても素晴らしいのにそれにて
兄弟という点がほんとっ!
イイですねぇ...
あなたの作品をこれからも
長々と待っております!
とても好きな作品なので完結まで
お見送りしたいですね!
ではァ死体と共におさらば〜
こういうの読みたかったです!本当にありがとうございます。これからの2人の未来が気になって仕方ないです。次回も楽しみにしています!
こちらこそ、拙作をお読みいただきありがとうございました!面白いかどうかビクビクしながら書いてる節があるので、この先が気になると言っていただけてとても嬉しいです〜ありがとうございました😊
とても面白くて、毎話毎話次の展開にワクワクしながら読ませていただいています。
とても素晴らしい作品を生み出してくれてありがとう。更新楽しみにしています。
システムが分からず、お返事が遅くなってしまいました!申し訳ございません!
返信はできませんでしたが、感想を頂けたことが大きなモチベーションになってました。温かな感想を、本当にありがとうございました😊