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14、もとの姿に戻った魔王
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「ひゃあっ」
柱を抱きしめて美紗は息を止める。
急に静かになった。恐る恐る目を開けると目の前に、銀髪を揺らして黒い服の男が立っていた。腕には黒革の本を抱いている。
「魔王――ちゃん?」
なぜだか緊張してしまう美紗に、彼は少し笑ってうなずいた。
「デイヴィーだ。私の名は魔王ちゃんではない」
どこか見覚えのあるいじわるそうな、いたずら好きそうな金色の目に湾曲した角、血色の悪い頬と、特に変わってはいないのだけど、大きくなると雰囲気が違う。視線をそらせずにいる美紗に、魔王は気軽に近付いて革袋に目を向けた。
「この時計のことを知りたいのだろ?」
「あ、そうだった」
まぬけな返事に魔王がまたにやりとしたので、美紗は頬を赤くしてにらんだ。魔王は美紗の足下に腰掛けると、マントをはずしてネグリジェの肩に掛けてくれた。地上は蒸し暑い七月だけど、こちらの朝夕はかなり涼しい。
「これは『恣意の時計』と言ってな」
と、透明な時計を手に取る。今までさわれなかったぶん七つ道具が恋しいのか、いとおしそうに撫でている。
「しいってなに?」
「欲しいままに、という意味だ。私の気まぐれひとつで、そのものの時を進めたり戻したりできる」
「そのものの?」
意味がよく分からず、美紗は眉根を寄せる。
「どうやって使うの」
魔王は立ち上がると、
「待っておれ」
と部屋から出ていった。美紗は指先で、三本の針のうちの一本を、ちょんと動かしてみる。あたりを見回すが、何も変わったふうはない。
ほどなくして魔王は戻ってきた。だがその手に持ったものを見て、美紗は目を丸くして叫んだ。
「あたしの色鉛筆! どうして? どうしてここにあるの!」
「これが、美紗の一番大切なものだからだろう?」
そっと美紗の膝の上に置く。丘の上で銀の魔笛を吹いたとき、木にぶつかって向きを変えた竜巻に襲われたことを思い出す。だけどあたしは、一番大切なものは自分自身だと思っていたのに。
(本当は違ったんだ)
口ではそう言っていても、表の意識ではそう信じ込んでいても、魔王の七つ道具は裸のままの美紗の心を知っていたのだ。
(今のあたしだって、ひとりぼっちじゃなかったんだ)
誰も愛せないふりをしていただけ、そうと思い込んでいただけで。
色鉛筆の蓋をあけようとして、美紗は胸の痛みに手を止めた。息が詰まって見られない。蓋の上に乗せたまま動かせない美紗の手を魔王は静かに握って、色鉛筆の缶を布団の上に置き、その上に「恣意の時計」を乗せた。
「こうして使うのだ」
と一番太くて長い針を、ぐるりぐるりと反対側へ回し始めた。見た目には何も変わらないが、花の香りがいよいよ強くなってきた。のぞきこんでいた美紗は、目が回りそうになって顔を離した。三周くらい戻したところで、
「もうよいだろう」
と魔王は手を放し、宙からお日様柄の包み紙を取り出した。階段のたくさんあった「時と絆の部屋」の、美紗の石段と同じ絵だ。
「なになに、どうやったの」
美紗は思わず、きょろきょろとあたりを見回したり、恣意の時計をのぞきこんだり。
「これは時計の力ではない、私の魔力が戻ったのだ」
魔王は長い指で器用に色鉛筆を包むと、今度は金色のリボンを取り出し十字にかけて花結びにした。
「美紗、十二歳の誕生日おめでとう。これは私からのプレゼントだ」
と美紗に手渡した。
「え、ありがとう」
贈り物を受け取るときは、いつでもどきどきする。
「あけてみなさい」
なんだかもったいないなと思いながら、美紗はリボンを引き包み紙をあけた。セロハンテープも何も使わずに、きれいに包んである。ゆっくりと色鉛筆の蓋をひらいた。
柱を抱きしめて美紗は息を止める。
急に静かになった。恐る恐る目を開けると目の前に、銀髪を揺らして黒い服の男が立っていた。腕には黒革の本を抱いている。
「魔王――ちゃん?」
なぜだか緊張してしまう美紗に、彼は少し笑ってうなずいた。
「デイヴィーだ。私の名は魔王ちゃんではない」
どこか見覚えのあるいじわるそうな、いたずら好きそうな金色の目に湾曲した角、血色の悪い頬と、特に変わってはいないのだけど、大きくなると雰囲気が違う。視線をそらせずにいる美紗に、魔王は気軽に近付いて革袋に目を向けた。
「この時計のことを知りたいのだろ?」
「あ、そうだった」
まぬけな返事に魔王がまたにやりとしたので、美紗は頬を赤くしてにらんだ。魔王は美紗の足下に腰掛けると、マントをはずしてネグリジェの肩に掛けてくれた。地上は蒸し暑い七月だけど、こちらの朝夕はかなり涼しい。
「これは『恣意の時計』と言ってな」
と、透明な時計を手に取る。今までさわれなかったぶん七つ道具が恋しいのか、いとおしそうに撫でている。
「しいってなに?」
「欲しいままに、という意味だ。私の気まぐれひとつで、そのものの時を進めたり戻したりできる」
「そのものの?」
意味がよく分からず、美紗は眉根を寄せる。
「どうやって使うの」
魔王は立ち上がると、
「待っておれ」
と部屋から出ていった。美紗は指先で、三本の針のうちの一本を、ちょんと動かしてみる。あたりを見回すが、何も変わったふうはない。
ほどなくして魔王は戻ってきた。だがその手に持ったものを見て、美紗は目を丸くして叫んだ。
「あたしの色鉛筆! どうして? どうしてここにあるの!」
「これが、美紗の一番大切なものだからだろう?」
そっと美紗の膝の上に置く。丘の上で銀の魔笛を吹いたとき、木にぶつかって向きを変えた竜巻に襲われたことを思い出す。だけどあたしは、一番大切なものは自分自身だと思っていたのに。
(本当は違ったんだ)
口ではそう言っていても、表の意識ではそう信じ込んでいても、魔王の七つ道具は裸のままの美紗の心を知っていたのだ。
(今のあたしだって、ひとりぼっちじゃなかったんだ)
誰も愛せないふりをしていただけ、そうと思い込んでいただけで。
色鉛筆の蓋をあけようとして、美紗は胸の痛みに手を止めた。息が詰まって見られない。蓋の上に乗せたまま動かせない美紗の手を魔王は静かに握って、色鉛筆の缶を布団の上に置き、その上に「恣意の時計」を乗せた。
「こうして使うのだ」
と一番太くて長い針を、ぐるりぐるりと反対側へ回し始めた。見た目には何も変わらないが、花の香りがいよいよ強くなってきた。のぞきこんでいた美紗は、目が回りそうになって顔を離した。三周くらい戻したところで、
「もうよいだろう」
と魔王は手を放し、宙からお日様柄の包み紙を取り出した。階段のたくさんあった「時と絆の部屋」の、美紗の石段と同じ絵だ。
「なになに、どうやったの」
美紗は思わず、きょろきょろとあたりを見回したり、恣意の時計をのぞきこんだり。
「これは時計の力ではない、私の魔力が戻ったのだ」
魔王は長い指で器用に色鉛筆を包むと、今度は金色のリボンを取り出し十字にかけて花結びにした。
「美紗、十二歳の誕生日おめでとう。これは私からのプレゼントだ」
と美紗に手渡した。
「え、ありがとう」
贈り物を受け取るときは、いつでもどきどきする。
「あけてみなさい」
なんだかもったいないなと思いながら、美紗はリボンを引き包み紙をあけた。セロハンテープも何も使わずに、きれいに包んである。ゆっくりと色鉛筆の蓋をひらいた。
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