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51:最終話:家族4人でお出かけ

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マリーが屋敷へ戻った翌日、宣言通り一日中フリーにしたマストは、フリージアに行きたいところを尋ねた。
するとまた、例のケーキ屋と答えたのだ。

マリー達が支度をして馬車へ乗り込もうとしたその時、ローレルがやって来た。

「おはようございます、お義母様」

マリーの自分に対する呼び名が変わったことに、ローレルはピクっと眉を上げた。

「……おはよう、マリー」

そして次のローレルの行動にマリーはとても驚く。

「……フリージア、リリー、お婆様にもケーキを買って来てくれるかしら?」

優しい笑顔で子ども達にそう言ったのだ。
マストに抱かれているリリーはポカンとした顔で"ジーッ"とローレルを見ている。
フリージアはマリーの後ろに隠れて、顔だけひょこっと出して答えた。

「いいよー!」

フリージアの無邪気な笑顔にローレルがホッとした顔をしたのを、マリーは見逃さなかった。

「……ありがとう」

「……母上の好きな生クリームのケーキを買って参りますね」

マストも嬉しそうな柔らかい表情をしている。

「……ええ。気をつけていってらっしゃい」

そう言い捨てるとローレルは、屋敷へそそくさと戻って行った。

(お義母様、きっと恥ずかしいのね。けれど、勇気を出して下さったわ……)

マリーは嬉しくて仕方がなく、マストと顔を見合わせて微笑み合った。





「旦那様はどれになさいますか? 生クリーム? チョコ?……あっ」

「……」

「申し訳ありません。質問を重ねてしまいました……」

マストの嫌いな質問の仕方をしてしまったマリーは、しまったという顔をする。
マストは少し呆れた顔をして言った。

「もうそれはマリーの癖なのだろう? 私が妥協しよう。しかし、直す努力はしてくれ」

「はい……」

マリーは少しバツの悪い顔で言う。

(旦那様が譲歩して下さったわ……!)

しかし心の中で、マリーは小さく感動していたのだった。




「マリー、おいちー!」

やって来たケーキを早速口一杯に頬張って、フリージアはご機嫌だ。

「フリージア、ママだろ!」

「旦那様、すぐには難しいですよ。少しずつで大丈夫です。先は長いのですからね」

マリーの笑顔にマストもつられて微笑んだ。
マリーの腕の中では、リリーが手を伸ばしてケーキを食べたがっている。

「ふふっ。リリーにはまだ少し早いわね。もう少し大きくなったら一緒に食べましょうね」

マリーの笑顔に、リリーは意味はわかっていないが嬉しそうに笑った。


前回とは違いフリージアは、家に着くまで終始ご機嫌だった。
そしてずっとマリーの手を握り、側を離れないのだ。

(フリージア……きっと不安にさせていたのね……)

マリーは胸が痛み、フリージアをギュッと抱きしめた。

「フリージア、これからはずっと一緒よ。パパとママとフリージアとリリー、皆んなでずっと一緒」

「じゅっと、いっしょ」

フリージアもニコニコでマリーに抱きつく。

「マリー、今日は天気が良く風もない。そこの公園を少し散歩しないか?」

リリーと遊んでいたマストが、二人を微笑ましく見ながら近寄って来てそう言った。

「こうえんー!」

「ふふっ。ええ、そうしましょう」

フリージアはマリーの右手を取って走り出す。
するとマストも、すかさずマリーの左手を取って一緒に走り出したのだ。

「……だ、旦那様!?」

マストの意外な行動に驚いたマリーは、バッとマストの顔を見る。

「たまには、このようなのも良いな」

目が合ったマストは、ニカっと悪戯っぽい笑顔を浮かべながらそう言った。
マストの初めての表情にマリーはドキッとして、頬を赤く染める。 

(そのような表情もなさるのね……。これからどんどん、素の旦那様をもっともっと見ていきたいわ)

マリーもこっそり、ニンマリ笑ったのだった。



公園に着いたマリー達は歩きながら、ぐるっと公園を回った。
途中で立ち止まって草花や鳥を見ながら。

「今度皆んなで旅行しよう。どこか行きたい所はあるか?」


マリーは"ハッ"とした顔をし、ずっと気になっていることを打ち明ける。

「あの、実は……屋敷へ戻るお金を作るために、大事なペンダントを質屋に入れているのです……。それを取りに行きたいのですが……」

「……何っ!? 旅行はすぐにはいけない。ペンダントはすぐに取りに行かせよう。場所はわかるか?」

「はい」

マリーはホッとすると同時に、きちんと取り合って貰えたことが嬉しかった。
蔑ろにされるのではなく、大切にされているのを実感する。


「マリー……子どもの話だが、無理をする必要はない。もうフリージアとリリーがいるから十分だ」

「……私が、旦那様との子をもう一人欲しいのです。旦那様に似た男の子を育ててみたいのです。……駄目でしょうか?」

マリーは甘えるように上目遣いで言ってみたが、今のマストには効果があったようだ。
マストは恥ずかしそうに、一つ咳払いをした。

「……そうか、わかった。男の子は母親に似やすいと言うがな。マリーに似た男の子も可愛く、そして立派に育つだろう」

マリーはマストの返事にニッコリ笑顔を浮かべる。

「……ただ、授かりものだからな。責任を感じる必要はないぞ」

「はい、わかっています」

「子どもは親の道具になるために生まれて来るのではない。私たちは子どもの足枷になるような親にはならないでおこう」

「はい。私たちは子ども達に自由に羽ばたく羽を与えましょう」

笑顔のマリーの返事に、マストもホッと微笑む。

「……ところで旦那様、以前と別人のようですね?」

「……コツを掴むと案外いけるものだな」

マリーが悪戯な笑顔を浮かべて言うと、マストもノリよく返してくれる。

「ふふっ。コツを掴まれたのですか?」

「ああ。そういうマリーも、以前よりもとても穏やかだ」

少し対抗するように言うマストが、マリーの瞳には可愛く映った。

「ふふっ。今は幸せを感じていますからね。すれ違い出したら一気に崩れます。そうならないように、これからもしっかりと想いを伝え合うようにしましょう?」

「では、毎晩二人で一緒にお茶を飲んで話す時間を持つのはどうだ?」

「それはいいですね! そうしましょう!」

二人が笑顔で語り合う中、フリージアの明るい声が響き渡る。

「パパー、ママー、これー?」

「ふふっ、それは石よ」

するとフリージアはポイっと石ころを投げて、ケラケラ笑っている。

「……あ、そうだ、午後は洋服の仕立て屋を屋敷へ呼んでいるからな。痩せて以前の服は合わない物ばかりだと、侍女から報告を受けている」

「あっ、申し訳ありません! ありがとうございます……」

「今の方が健康的で良いのではないか? 維持するように頑張るように」

マストのその言葉に、マリーは少しムッとしてしまう。

(何よその言い方ー!)

マリーの膨れっ面を見たマストは、冷静に言葉を付け足した。

「太っていた頃も今も、それぞれの良さはあるがな」

無理矢理のフォローだが、以前なら絶対に有り得なかったフォローにマストの努力と気遣いを感じ、マリーはとても心が暖かくなった。

「はい。旦那様やフリージア、リリーのためにも長生きしないといけませんものね!」






寒さの残る中、タングール伯爵一家の周りは、とてもとても暖かい空気を纏っているのだった……ーーー





【完】

最後の4話はフライング投稿しちゃいました。。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました^ ^





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