大人で子供な師匠のことを、つい甘やかす僕がいる。

takemot

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第五章 弟子

第129話 私を……

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「これで、杖のないお前は魔法を使えない。観念するんだな」

 ケタケタケタと笑う男性。勝利への確信。その感情が、状況を傍観するしかない僕の方にもありありと伝わってきました。

「……言うとおりにしたのに、まだ彼を解放してくれないの?」

 冷たい師匠の声が、倉庫内に小さく響きます。

 そう。師匠がここまで男性に従ったのは、ひとえに人質である僕を解放させるためです。ですが……。

「は! 何言ってやがる。解放なんてするわけねえだろ!」

「そんな!」

「…………」

 男性の返答に、思わず情けない声を発してしまう僕。しかし、そんな僕とは対照的に、師匠は無言で男性を睨みます。

「やっとだ。やっと、俺の復讐が……」

 男性が持つ杖の先。そこから灰色の光が放たれます。次の瞬間、杖の周りを囲むように数本のナイフが現れました。ギラリと怪しく輝く刃先。ひとたび男性が杖を振れば、それらは師匠に向かって飛んで行ってしまうのでしょう。

「じゃあな、くそ野郎。あの世で後悔……」
「ねえ」

 不意に、師匠が口を開きました。言葉を遮られた男性の顔が、ほんの少し歪みます。

「けっ、命乞いか?」

「あなた、勘違いしてない?」

「は? 急に何言って……がああああ!」

 倉庫内に響き渡る叫び声。自らの右目を押さえながら地面に倒れこむ男性。傍には、床に転がされた師匠の杖。その先に付着した、赤黒い血。

 それは、ほんの一瞬のうちに起こった出来事でした。床にあった師匠の杖がひとりでに動き出し、男性の右目を勢いよく突いたのです。

 ほとんどの魔法は、杖を使わなければ使用できません。ですが、僕は知っています。杖を使わずとも使用できる魔法も存在するということを。そして、師匠がそれを習得しているということを。

「私を……」

 脱兎のごとく駆け出す師匠。床に落ちている杖を素早く拾い、のたうち回り続ける男性に向かって魔法を放ちます。

「私を怒らせると、こうなる」

 そんな、冷たい言葉とともに。
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