極悪魔女は英雄から逃亡する 〜勇者を求め逃げ続ける魔女と、彼女を溺愛し追い続ける英雄の、誤解から始まる攻防〜

望月 或

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13.魔女はドラゴンを追う

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 スティーナは現在、隣町に向かう馬車に揺られて景色を眺めていた。
 馬車には魔物除けの香水が掛けられている為、魔物との遭遇は心配する必要は無く、こうして移りゆく風景を楽しめている。

 勇者ラルスを捜す決意をしたのはいいが、どこの教会で彼が復活するのか検討も付かず、情報も圧倒的に足りない。
 なので、困った時のおかみさん――ドルシラに相談する事にした。

「勇者様が復活しそうな教会だって? アンタ、勇者様を一目見たいのかい? まぁ気持ちは分かるけど、そればっかりはアタシ達庶民には分からないよ。神託は大司教様以上の階級にならないと受けられないからねぇ。けど、勇者様が産まれた村なら知ってるよ。そこにも小さな教会があったはずだ。まぁ形だけの教会だから、そこでの復活は期待出来ないけどね」

 ドルシラはそう言ったが、他に行く宛も無かったし、ほんの少しの可能性を求め、スティーナはラルスが産まれた村に行く事にしたのだった。
 その村に行くには馬車を何度か乗り継いで行く必要がある為、ここから大体一ヶ月弱は掛かるらしい。

「本当に行くのかい? アンタ、しっかりしてるようで世間知らずで抜けてるとこあるから心配になってくるねぇ。分からない事があったら、町や村の神父様や衛兵に訊きな。魔物が現れたらすぐに逃げる! いいね? ちゃんと無事に帰って来ないと承知しないよ!」

 そう言って、ドルシラは特製サンドイッチをスティーナに手渡し、見送ってくれた。

(おかみさん、やっぱりとっても優しい……。好き……)

 念の為、自分の行き先は誰にも伝えないで欲しいとドルシラにお願いしておいた。イグナートが再びトーテの町を訪れた時の為だ。
 早速鞄からサンドイッチを取り出し、パクリと頬張り舌鼓を打つ。

(それにしても、馬車の移動は時間が掛かるなぁ。風魔法で飛んでいけたら楽なんだけど、結構魔力を消費する魔法はイグナートに居場所がバレちゃうから……)

 不便になるが、なるべく魔法を使わないようにするしかない。

 馬車は休憩と野宿を挟みつつのんびりと進み、四日間掛けて隣の町に到着した。

「ここがネークスの町ね……」

 規模はトーテの町と同じくらいだろうか。
 だけど、町の雰囲気が何だか暗い。町人達の顔も皆、心無しか沈んでるような――


「またドラゴンが来たぞーーッ!! 外にいる者達は全員家に避難しろッッ!!」

 
 その時だった。衛兵の怒声が辺りに響き渡り、周りにいた町人達が一目散に自分の家へと飛び込んでいく。

「ドラゴン……?」

 空を見上げると、山の方から黒い物体がどんどんと近付いて来るのが見えた。
 それは巨大なブラックドラゴンだった。口を大きく開け涎を垂らしながら、不愉快な咆哮を上げている。

(何だか様子がおかしい……? 我を失っているような――)

 そしてスティーナは、ブラックドラゴンの背後から、もう一匹ドラゴンが飛んで来ているのが目に入った。
 エメラルド色の鱗が、太陽の光を浴びてキラキラと輝いている。
 それを見た時、スティーナの脳裏にある記憶の蓋がまた少し開いた。


(……あのドラゴン、どこかで……? ――あっ! 思い出した、“あの子”だっ!)


 そのエメラルド色のドラゴンはブラックドラゴンに追いつくと、自分の尻尾で相手の胴体を力強く叩いた。
 ブラックドラゴンは動きを止め、そのドラゴンを唸りながら睨みつける。
 エメラルド色のドラゴンは誘うように尻尾を左右に振ると、山へと踵を返した。ブラックドラゴンも不快な唸り声を上げながら方向転換し、そのドラゴンを追い掛けていく。

「……あの!」

 スティーナは急いで衛兵達に駆け寄った。

「……ん? お嬢ちゃん、まだ外にいたのかい? 危機は去ったけど、念の為家の中へ避難しなさい」
「すみません、あのドラゴン達は……?」
「あぁ、あれらは最近出るようになったんだよ。ブラックドラゴンは縄張りから滅多に出ないのに、ある日突然この町に飛んできて炎を吹き出そうとしたんだ。もう駄目だと思った時、あの緑ドラゴンが現れてそれを阻止し、山へ誘導してくれたんだよ。それからそういう事が何度も続いてて、今回もそうだ。あの緑ドラゴンがいなかったら、この町はとっくに焼き尽くされてるな……」
「あの子が町を……」
「帝国に討伐要請を出してるんだけど、忙しいのか未だに討伐隊が来てくれないんだ。町人は皆怯えてるし、早く対処して欲しいんだが……っと、お嬢ちゃんにこんな愚痴を言っても仕方ないな。お嬢ちゃん、この町に来たばかりだろ? またいつドラゴンに襲われるか分からないし、安全を考えるなら、早々にこの町を出た方がいい」
「……分かりました。教えて下さってありがとうございました」

 スティーナはペコリとお辞儀をすると、町の外へ駆け出す。誰もいない場所まで来ると、小さく息をついた。

「鞄は邪魔になるから、この木陰に隠しておいて……。眼鏡も落とすと大変だからこの中に入れておこう。魔法を使ったら彼に居場所がバレちゃうけど……今はそんな事気にしていられないわ。早くあの子の所へ行かなきゃ! 『風よ、我に纏い空を舞う翼となれ』」


 瞬間、スティーナの身体が宙に浮かび、山に向かって飛び上がっていった。


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