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14.子供ドラゴンと焦る魔女
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「――いた!」
高速で進んでいくと、開けた丘の上で、先程のドラゴン達が次々と鋭い爪や太い尻尾を繰り出し戦っていた。
エメラルド色のドラゴンは、ブラックドラゴンより身体が一回り小さい為、苦戦しているのが分かる。身体も傷だらけで血が滲んでいた。
ブラックドラゴンが町に下りないように、ずっと戦っていてくれたのだろう。
町に向かったら、すぐに追い掛けて山に誘導して、被害が及ばないように。
「エルドッ!!」
スティーナが叫び、最大級の回復魔法をエメラルド色のドラゴンに掛けた。
淡いピンクの光がドラゴンを包み込み、傷がたちまち治っていく。
『……その声は……スティ? スティなのっ!?』
元気を取り戻したエルドと呼ばれたドラゴンは、キョロキョロと辺りを見回し、空に浮かぶスティーナを発見すると喜びの咆哮を上げた。
『やっぱりスティだ!! また会いたかったよスティ!! ボクの傷はスティが治してくれたの? ありがとう! ちょっと危なかったんだ』
「私も会いたかった、エルド。こちらこそ町を守ってくれてありがとう。お蔭で町の人達全員無事よ」
『エヘへッ。スティの「人を守って」って約束、ずっと覚えていたよ』
「そう……。ありがとう、エルド。あなたはとっても格好良いドラゴンだわ」
スティーナはエルドの傍まで飛んで来ると、頭を優しく撫でた。エルドは気持ち良さそうに目を瞑る。
『ねぇスティ、このブラックドラゴン、誰かに操られてて自我を無くしてるんだ。可哀想で殺さないように戦ってきたけど、どうにか出来ないかなぁ?』
「操られてる……?」
グルルと唸り声を響かせながらこちらを睨みつけてくるブラックドラゴンをよく観察すると、首元に紙らしきものが貼ってあるのに気が付いた。
「あれかな……。呪詛の御札……のようね。何か禍々しい魔力を感じる。一体誰がこんな……ううん、それを考えるのは後だわ。まずはあれをどうにかしないと。試しに――」
風を起こし、その紙が剥がれないか試したがびくともしない。
「やっぱり少量の魔力じゃ駄目か……。エルド、危ないからちょっと離れててね。『風よ、彼の者を竜巻にて閉じ込めよ』」
吐いてくる業火の炎をサッと避け、スティーナは風魔法を発動させた。
ブラックドラゴンの巨大な身体を、更に巨大な竜巻が包み込んで締め上げる。
身動きが取れなくなったブラックドラゴンの前まで来て、スティーナは首元にある紙に、自分の魔力を塊にしてぶつけた。
瞬間、紙はバラバラに破け、地面へと落ちていく。
ブラックドラゴンが一際大きい咆哮を上げ、やがて大人しくなったので、スティーナは竜巻を解除した。
「もう大丈夫?」
「グルル……」
スティーナが訊くと、ブラックドラゴンが項垂れたように頭を下げる。苦笑した彼女は、彼にも回復魔法を掛けてあげた。
「操られてたから仕方ないわ。あなたほどのドラゴンが油断してた? これからは用心してね。あなたの棲み家に帰って、ゆっくり身体を休めてね」
「グルルルッ」
ブラックドラゴンは大きく頷くと、自分の縄張りへと飛び立っていった。
『やっと終わったー! ありがとうスティ! 漸く元の大きさに戻れるよー』
エルドが大きく伸びをすると、みるみるその身体が縮んでいき、鷹ぐらいの大きさになった。
「町で見た時、とんでもなく大きくなってたからビックリしたわ。身体の大きさも変えられるのね? すごい!」
『へへっ。大きくなるとすぐお腹減っちゃうから、危ない! って時にしかしないけどね~』
「あ、じゃあお腹空いてるよね。サンドイッチあるの。鞄置いてきちゃったから後であげるね。すごく美味しいんだよ」
『わぁいっ! 食べる食べるっ!!』
「うん。その前に……隠れようっ!」
『えぇっ!?』
スティーナはエルドを胸に抱きしめると、丘に降り立ち近くの茂みに転がり込む。
『どうしたの、スティ? コソコソして?』
「ちょっと見つかりたくない人がいて……。エルド、暫く喋らずに大人しくしててね。気配も消せる?」
『うん、出来るよ! 動かないでじっとしてるね!』
エルドはスティーナの腕から抜け出すと、地面に身体を伏せ、微動だにしなくなった。
「ありがとう。本当は今すぐにここを離れたいけど、魔力が殆ど残ってなくて遠くに飛べる魔法が使えないの。もうすぐここに来るだろうから、隠れてやり過ごして――」
「――捕まえた」
聞き覚えのある低い声がすぐ耳元で聞こえたかと思うと、スティーナの身体が後ろから強く抱き竦められていた。
高速で進んでいくと、開けた丘の上で、先程のドラゴン達が次々と鋭い爪や太い尻尾を繰り出し戦っていた。
エメラルド色のドラゴンは、ブラックドラゴンより身体が一回り小さい為、苦戦しているのが分かる。身体も傷だらけで血が滲んでいた。
ブラックドラゴンが町に下りないように、ずっと戦っていてくれたのだろう。
町に向かったら、すぐに追い掛けて山に誘導して、被害が及ばないように。
「エルドッ!!」
スティーナが叫び、最大級の回復魔法をエメラルド色のドラゴンに掛けた。
淡いピンクの光がドラゴンを包み込み、傷がたちまち治っていく。
『……その声は……スティ? スティなのっ!?』
元気を取り戻したエルドと呼ばれたドラゴンは、キョロキョロと辺りを見回し、空に浮かぶスティーナを発見すると喜びの咆哮を上げた。
『やっぱりスティだ!! また会いたかったよスティ!! ボクの傷はスティが治してくれたの? ありがとう! ちょっと危なかったんだ』
「私も会いたかった、エルド。こちらこそ町を守ってくれてありがとう。お蔭で町の人達全員無事よ」
『エヘへッ。スティの「人を守って」って約束、ずっと覚えていたよ』
「そう……。ありがとう、エルド。あなたはとっても格好良いドラゴンだわ」
スティーナはエルドの傍まで飛んで来ると、頭を優しく撫でた。エルドは気持ち良さそうに目を瞑る。
『ねぇスティ、このブラックドラゴン、誰かに操られてて自我を無くしてるんだ。可哀想で殺さないように戦ってきたけど、どうにか出来ないかなぁ?』
「操られてる……?」
グルルと唸り声を響かせながらこちらを睨みつけてくるブラックドラゴンをよく観察すると、首元に紙らしきものが貼ってあるのに気が付いた。
「あれかな……。呪詛の御札……のようね。何か禍々しい魔力を感じる。一体誰がこんな……ううん、それを考えるのは後だわ。まずはあれをどうにかしないと。試しに――」
風を起こし、その紙が剥がれないか試したがびくともしない。
「やっぱり少量の魔力じゃ駄目か……。エルド、危ないからちょっと離れててね。『風よ、彼の者を竜巻にて閉じ込めよ』」
吐いてくる業火の炎をサッと避け、スティーナは風魔法を発動させた。
ブラックドラゴンの巨大な身体を、更に巨大な竜巻が包み込んで締め上げる。
身動きが取れなくなったブラックドラゴンの前まで来て、スティーナは首元にある紙に、自分の魔力を塊にしてぶつけた。
瞬間、紙はバラバラに破け、地面へと落ちていく。
ブラックドラゴンが一際大きい咆哮を上げ、やがて大人しくなったので、スティーナは竜巻を解除した。
「もう大丈夫?」
「グルル……」
スティーナが訊くと、ブラックドラゴンが項垂れたように頭を下げる。苦笑した彼女は、彼にも回復魔法を掛けてあげた。
「操られてたから仕方ないわ。あなたほどのドラゴンが油断してた? これからは用心してね。あなたの棲み家に帰って、ゆっくり身体を休めてね」
「グルルルッ」
ブラックドラゴンは大きく頷くと、自分の縄張りへと飛び立っていった。
『やっと終わったー! ありがとうスティ! 漸く元の大きさに戻れるよー』
エルドが大きく伸びをすると、みるみるその身体が縮んでいき、鷹ぐらいの大きさになった。
「町で見た時、とんでもなく大きくなってたからビックリしたわ。身体の大きさも変えられるのね? すごい!」
『へへっ。大きくなるとすぐお腹減っちゃうから、危ない! って時にしかしないけどね~』
「あ、じゃあお腹空いてるよね。サンドイッチあるの。鞄置いてきちゃったから後であげるね。すごく美味しいんだよ」
『わぁいっ! 食べる食べるっ!!』
「うん。その前に……隠れようっ!」
『えぇっ!?』
スティーナはエルドを胸に抱きしめると、丘に降り立ち近くの茂みに転がり込む。
『どうしたの、スティ? コソコソして?』
「ちょっと見つかりたくない人がいて……。エルド、暫く喋らずに大人しくしててね。気配も消せる?」
『うん、出来るよ! 動かないでじっとしてるね!』
エルドはスティーナの腕から抜け出すと、地面に身体を伏せ、微動だにしなくなった。
「ありがとう。本当は今すぐにここを離れたいけど、魔力が殆ど残ってなくて遠くに飛べる魔法が使えないの。もうすぐここに来るだろうから、隠れてやり過ごして――」
「――捕まえた」
聞き覚えのある低い声がすぐ耳元で聞こえたかと思うと、スティーナの身体が後ろから強く抱き竦められていた。
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