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37.パーティーへの招待状
しおりを挟む――夜。
セリュシオンの部屋にて。
フレイシルはベッドの上で、セリュシオンのキス攻撃を受けていた。
顔や唇だけでなく、身体にもだ。お蔭でネグリジェは大胆にはだけ、身体を隠す役割を殆ど放棄していた。
「……っ」
敏感な場所に口付ける度ピクピクと動く身体と、微かに聞こえる息を呑む音に、セリュシオンの情欲がかき立てられて止まらない。
「……あー……ヤッベェ……。一晩中出来るわコレ」
顔を上げ、熱い息を吐いたと同時に呟かれた言葉に、フレイシルは涙目でセリュシオンの口を震える両手で塞いだ。これ以上は駄目だ、と。
その手のひらさえも悪戯にペロリと舐められ、彼女は声の出ない悲鳴を上げた。
「悪ぃ、調子に乗り過ぎちまった」
セリュシオンは、身体中を上気させ、瞳を潤ませながらプクリと頬を膨らませるフレイシルに「ふはっ」と笑うと、ネグリジェを直して彼女の身体を抱きしめた。
「すまねぇ、お前が可愛過ぎて止まんなかった。――そうだよな……。まだ怖い、よな? 毎晩ゆっくり進めて、少しずつ慣れてこうな?」
セリュシオンが六年前の“あの事件”に対して気を遣ってくれていることが分かり、フレイシルは彼の広い背中に両手を回し、ギュッと抱きしめ返す。
未だ身体に染み込むあの時の恐怖を早く払拭させる為に、荒療治に近いこの行為をしてくれているのだと彼女は思っていた。
恋愛事情にかなり疎いフレイシルは、これらの行為が“恋人同士”がするものだということに全く気が付いていない。
ちなみに二人はまだ“恋人同士”ではない。
「あー……クソッ、マジで可愛過ぎるだろ……。――フィーア、もう一回いい?」
再びフレイシルの首筋に顔を埋めてキスしてきたセリュシオンの身体を、慌ててグイグイ押す。
彼のキス魔は今も健在のようだ。そんなこと、フレイシルは知る由もないが。
*****
――セリュシオンとメルローズの【王命】の婚約が取り消されて一週間が経っていた。
メルローズは、『聖女』と偽り王族を騙した『詐欺罪』、【王命】で決められた婚約中に複数の相手と何度も不貞をした容疑、セリュシオンに二種類の薬を盛って逆強姦しようとした容疑で牢に入れられている。
どれも重罪なので、このままいくと彼女は【処刑】の道に進むことになるだろう。
メルローズが不貞をした相手に関しては、彼女がセリュシオンの魔物姿にすっかり怯えてしまい、牢の中で、
「悪魔に殺されちゃう……恐ろしいあの悪魔に殺されちゃう……。セリュシオン様もあの悪魔に取り込まれてしまったんだわ……。私の運も尽きちゃったの……? いずれ私もあの悪魔に……。いや……嫌よ……。そんなの絶対嫌っ!!」
と、切迫した表情で親指の爪を噛みながらブツブツ言い続け、どの質問に対しても上の空で答えてくれないので、慎重に調査中だ。
王国公認の聖女認定の前に、『魔力測定器』でメルローズの魔力を測ることを怠った神官は、大神殿の責任者と共に一年間の減給となった。
そして、彼女のお腹の子だが、初期の段階で自然に流れていたと、妊娠証明書を発行した医者が話したそうだ。
赤ちゃんも、自然と流れ出たので痛みも苦しみもなかったのが救いだったと。
メルローズがセリュシオンに妊娠の報告をした時点で、彼女のお腹の中に赤ちゃんは既にいなかったのだ。
騙してでも、彼と一緒になりたかったと――
そこまでして主(様)と結婚したかったのか……と、話を聞いてカイとアディはその執念にゾッとしたのだった。
メルローズが『聖女』ではなかったとすると、「では教会の子供達を治して回っていた『真の聖女』は何処にいるのか」、という疑問が当然出てきた。
けれどフレイシルの、
『オーガステッド邸でメイドを続けたい。皆と一緒にいたい』
『子供達の毒の“浄化”は、今まで通りコッソリと治していきたい』
――の希望を、勿論三人全員一致で汲み、セリュシオン達はその件に関して何も知らないことにした。
そしてこの一週間、枷が取れたセリュシオンは“王子様モード”が復活し、宣言通り積極的にフレイシルを口説いていた。
所構わず姿を捉えた彼女を抱きしめて唇にキスをし、「大好きだ」と耳元で囁く。フレイシルはその度に耳まで真っ赤になって、その反応に調子に乗ったセリュシオンが顔中にキスをする――という日課が出来ていた。
カイとアディが目も当てられないほどの連日のイチャつきっぷり(セリュシオンが一方的にだが)に、とうとうアディの堪忍袋が切れた。
「仕事中はイチャコラと口説くの禁止っ!! 夜に部屋の中でやりなっ!!」
「……おい。何で正座させられてんだ。オレ、ここの主――」
「問答無用っ!! 主がちょっかい掛けまくるから、フレイシルが仕事出来なくて困ってるだろ!! 全く、盛りのついた猫じゃあるまいし!!」
「…………それは悪かった」
セリュシオンは床にキチンと正座をさせられ、アディからキツくお叱りを受けたのだった。
*****
「そうだ、フィーア。王城からパーティーの招待状が届いたんだ。国境付近の大量の魔物が全ていなくなり、国の平和が保たれたってことで、【祝賀パーティー】を行うんだとさ。オレは功績者の代表として強制参加だ、ったく……。――でさ、お願いがあるんだけど、オレのパートナーとして参加してくれねぇか? オレはお前じゃないとイヤなんだ」
頭を優しく撫でられ、セリュシオンの腕の中でウトウトとしていたフレイシルはそれを聞き、ボラードと一緒に舞踏会に参加して酷く嫌な思いをしたことを思い出した。
「…………」
「……イヤ、か?」
反応無しを否定と捉えたセリュシオンが、眉尻を下げながらフレイシルの顔を覗き込み、再び訊いてくる。
彼女はそれに、首を左右に振って答えた。
「シオンさんと一緒ならきっと大丈夫だろう」と信じて。
「良かった、ありがとな。当日着てくドレスはどうする? オレが決めてもいいけど、折角だし自分で決めるか? 金なら気にしなくていいぜ。お前がいなければ魔物の『頭領』を倒すことも、オレの疑惑を晴らすことも出来なかったんだ。オレからの礼だと思って、遠慮しないで使ってくれ。装飾品もどんどん買っていいぜ」
フレイシルはセリュシオンのお言葉に甘えて頷くと、彼の手のひらに文字を書いた。
「ん? 『前にデッセルバ商会の息子と舞踏会に出た時、その母から一昔前のドレスを着させられて嫌な思いをしたから見返してやりたい』……? チッ、クソが! あそこん家マジで滅んで欲しいわ。だからお前、参加に少し躊躇したんだな……」
怒りの形相をし鋭く舌打ちしたセリュシオンは、フレイシルの頭を撫でながら頷いた。
「あのクソ家族んとこも、一応『準男爵』っつー爵位持ってるから、招待状が届いてるかもしれねぇな……。よっしゃ、参加者全員が腰を抜かすくらいすっげードレスで見返してやれ。アディの力も借りな。お前を今よりもっとキレイにしてくれるだろうよ」
フレイシルはコクリと頷くと、セリュシオンの胸に顔を埋めて目を閉じた。
――飲み物を頭から思いっ切り掛けてきて罵ってきた、あのどこかの令嬢も参加するのだろうか……と、ボンヤリと思いながら。
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