母獣列島

櫃間 武士

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〇スクランブル交差点。昼。
 大勢の通行人が行き交う。
 学生服姿の育人、高層ビルをボーと下から見上げている。
 警察官が、育人に職質をする。
警察官「君、何年生?こんな時間に何してる?」
育人「……社会見学」
警察官「ふざけるな!名前は?学校はどこだ?」
 そこへ、越智絵里香刑事が現れ、警察手帳を見せる。
 警察官、そのまま去ってゆく。
絵里香「中学生は平日の昼間、こんな所をうろついていないのよ。やっぱり、私がついてきてよかったでしょ?」
育人「まあな」
 絵里香、嬉しそう。
育人「今日はお祭りか?」
絵里香「都会では毎日、こんなものですよ」
育人「世の中にはこんなに人がいるのか!?」
絵里香「育人は10年間、島から出たことなかったのでしょ」
育人「部屋から出たこともない」
絵里香「可愛そうな育人!育人が驚くのも無理ないですね」


○駅のホーム。
 電車が停まる。
育人と絵里香、女性専用車両に乗り込む。
吊革につかまって立っている二人。
育人「なんだか、みんな、俺をジロジロ見ているぞ」
絵里香「ここは女性専用車両ですから。男が乗ってはいけないのですよ」
育人「ふーん。だったら男性専用車両に移動しようか」
絵里香「そんなのはありませんよ」
育人「なんだか、よくわからないな」
 周囲の女性がジロジロと非難の目で育人を見ている。
 育人、女性たちの顔を人差し指でサッと触ってゆく。
育人「文句あるか?」
女性客たち「いいえ!どうか、こちらにお座り下さい」

 電車の座席に並んで座った二人。
育人「やはり、島で勉強しているだけではわからないことが一杯あるな」
絵里香「実日子先生が、育人は天才だって褒めてましたよ。まるで砂が水を吸うようにあっという間に教科書をマスターしたって」
育人「教科書なんか丸暗記したって、社会では役に立たないさ」


○ドーム球場。
 男性アイドルのコンサートをしている。
 周囲は若い女性ファンだらけ。
育人「若い女ばっかりだ!?」
絵里香「人気の男性アイドルのコンサートですからね。女の子ばっかり、5万人ぐらい集まっていますね」
育人「ここに俺の血を散布したら、たちまち5万の保護者ガーディアンが産まれるな!」
絵里香「いっそ、育人がアイドルになったらどうです?」
育人「バカらしい!どうして俺が人前で歌ったり踊ったりして媚びを売らないといけないんだ!」
絵里香「育人ならすぐにトップアイドルになれるのに勿体ないなあ!」
育人「俺は別の意味でアイドルになるつもりだ」
絵里香「別の意味?」
育人「偶像アイドルだ!」
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