勝手に召喚して勝手に期待して勝手に捨てたじゃないの。勝手に出て行くわ!

朝山みどり

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第15話 王妃として

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そうやって、五日が過ぎた。所謂ハネムーンだ。世界がとても綺麗に見えた日々だった。
トニーが溜まっていた執務をこなすために忙しくなった。
わたしは執務を手伝うことを申し出たが、それは断られた。王妃としても仕事があるのでは?の質問ははぐらかされた。

そこで提案されたのは、孤児院の視察だった。なるほど、福祉ってこと?得意分野よ。要はお金を使えばいいのよ。

それで、直近五年の帳簿を持って来るように命じた。

「帳簿ですか?」と侍女のミントが言うのを

「そう、帳簿を借りて来て頂戴。予算がいくらか、それをどのように使っているか確認しないとね」と言うとなんだか頼りない歩き方で出て行った。

あの部屋の侍女長の話の通りなら、田舎出だけど侍女長のお仕込みを受けた子のはずだけど・・・この程度?

まもなく文官と一緒に侍女は戻って来た。

「帳簿だということですが、回覧は出来ません」と文官は言った。

「なぜですか?」

「その・・・規則です」と文官が目を泳がせながら言うのを見て、いじめてやるかと思い

「では、その規則を見せて」と言った。

黙ってうつむく文官がちょっとかわいそうになって

「いいわ。わたしが見に行く。案内して。先ず、規則の閲覧ね」と立ち上がると

「あの・・・王妃様・・・わたし嘘ついて・・・その帳簿は」と文官は必死に言い募った。まぁ言わされたんだろうから、ここは解放してやるか・・・

「わかりました。無理は言いません。孤児院に慰問にでも行きましょうかね」と言うと文官は目に見えて顔色が良くなって
「王妃殿下、それがいいと思います」と言った。侍女のミントに目配せすると
「お疲れ様、お送りします」と行ってドアを指した。

こういうところはよく仕込まれてるのよね。あの侍女長は嫌いだけど、いい腕よね。

侍女のラベンダーに孤児院の慰問に行くから手配するように言いつけた。ミントにはお菓子の用意をするように言いつけた。
「あの、聖女様・・・」
「ない?質問があるの」とマリカがミントを見た。
「いえ、その慰問に持って行くお菓子は、気持ちを込めてご自分で作られるのが良いかと」
「は?いやよ。面倒。そういうのをやらせる為に使用人がいるのでしょ。さっさと行きなさい」

そう言いながら、マリカは本を手にソファに座った。

本に目を落としながら、マリカは孤児院でどうやって過ごそうかと考えた。本を読んだりするのがいいのだろうが、マリカは子供が嫌いだった。言葉が通じないしすぐ泣くし、手がべたべたしてたり・・・
人形劇でも見せるか・・・あのクマの縫いぐるみが踊るあれを見せよう。

そこで縫いぐるみを用意しようと街へ買い物に行った。おおげさにならないように、わたしも護衛も町の金持ちのような格好で、途中からは馬車を降りて街をゆっくりと歩く。

「そうだ。これからはいつもお城でも町でもわたしのことはマリカと呼びなさい。他の呼び方では面倒なことになるから」と言うと、お互いに顔を見合わせていたが
「「はい。マリカ様」」と返事をした。

お目当ての店で縫いぐるみを買った。クマとウサギ。あとは犬とか羊もあったので全種類を購入した。
どの縫いぐるみも裸だったので、服を着せたいと思って、店主に相談したらすごく驚いて、わたしをまじまじと見た。
この世界では縫いぐるみに服を着せるのはタブーだったのか?と心配になったら、

「それを真似してもいいですか?」と手を握らんばかりに言われたので
「どうぞ。可愛くしてあげて」と営業スマイルを振りまいた。
「今日買い上げた物の服は急いで仕上げて欲しいの。デザインはまかせるわ。どれも同じサイズだから服の貸し借りもできるから、便利ね」と言うと
「あぁーーさようでございますね」とあちらも負けずに笑顔の大サービスで、
「明日の夕方にはお渡しできます」と請け合った。

縫いぐるみは今日持って帰り、服は後日、取りに来ると決めた。

その後ものんびりと街を歩いていると食料品店があった。
どんなのを売ってるのかと店に近づいたところで、女性が二人話しながら出て来た。
「高くて買えないね。小麦が入ってこないから・・・毎日の」と聞こえた。

そうだった。小麦の収穫・・・はもう終わった?とにかく畑の人手がなかったんだ。いや、戦争が終わったから、戻った?

調査しないと。

帰りの馬車では縫いぐるみが麦畑で働いていた・・・
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