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9 これはないわー

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「行かねばならないか……」

 気乗りはしないロバート殿からの夜会の招待状。カルセニア伯爵は何かと人脈も太く、顔も広い。仲良くしておいて損はない家だ。

「……しかしなんでだ?ロバート殿は私に服を贈ってくるんだ?」

 夜会に行くのに男性が女性へドレスを仕立てる事、贈る事はままある。この服を着て一緒に行って欲しいと常套の誘い文句として。だが男性が男性へ贈ってどうするというのだ……。

「……はっ!?前回の私の礼服がイマイチ過ぎたのか?あれでは恰好悪すぎて伯爵家の客として格が合わんと事か??」

 我が家としては割と奮発して買ったのに……。一応ロバート殿から贈られた物に袖を通してみると思わず笑ってしまうほど不格好だ。

「ま、待て待て。これはない……!」

 上着からジレからほっそりとした作りすぎて貧弱な体が丸わかりだし、やけに尻回りも強調されているトラウザーズもちょっと勘弁して欲しい。ついでに言えば作り自体が若者向けで、私が着るよりもクリスティンやカイラスが似合うデザインだろう。

「叔父上、この書類なのですが……うっ!」

 鏡の前で「ないわー」と自分の姿を見ていたら、軽いノックと共に入ってきたカイラスがドン引きしている。

「ま、待て!私の見立てじゃないぞ!なんか知らんがカルセニア伯爵が贈って寄越したんだ」

「え……ろ……んんっ!そ、そうですか、叔父上には似合わないデザインだと思います。夜会に行かれるにしてもそれはやめた方がいいですね……何をされるか分かったもんじゃない……」

 後半はぶつぶつと口の中で呟いていたから何を言っていたのかよくわからないが、まあこれはない!という事が良く分かった。

「ったくカルセニア伯爵は冗談がお好きだ。こんな手の込んだ悪戯までして。」

 よく見れば差し色でヘーゼルが使われているな。自分の目の色を入れてくるなんてまるで婚約者に贈る服のようじゃないか。私も良くアージェに自分の瞳の色と同じものを一生懸命贈ったっけ。お陰でアージェの持ち物はほとんど水色になってしまって

「やーね、フレイったら」

 と、苦笑されたなあ……。でもいつも笑顔で

「貴方の瞳の色と一緒で嬉しいわ」

 と受け取ってくれるアージェが愛しくて愛しくて……ああ、私の目の色が水色で良かった。君はあの空の水色に光る場所で今日も笑っていてくれるだろうか……。

「叔父上、またアージェ叔母上の事を考えていらっしゃいますか?」

「あ、すまない。服に瞳の色を入れるなんてと」

 ヘーゼルの縦ラインパイピングが入った切り替えしを苦笑しながら見せる。

「……叔父上には茶色より……紫の方が似合いますよ」

「ん、そうだな」

 紫と言えばアージェの髪の色だ。そうかあ、私はアージェの髪の色が似合うかあ、嬉しい事を言ってくれるな、カイラスは。……そういえばカイラスの瞳の色は紫か……んん?

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