49 / 139
49 皇帝の傷
しおりを挟む
「わっ」
無言で、何のフリもなく腕を引かれたのでバランスを崩す。俺はラムの上に乗っかってしまった。
「ラム……?」
「ああ」
微かに、しかしこれだけ密着しなければ気がつかない訳にはいかなかった。
「ラム……」
「過去、と言う物は中々変えられるものではないな」
ラムの手は暖かい方だ。それなのに氷の様に冷えて……小さく震えていた。
「何の支障もないつもりだったのに」
「……そうか」
ラムの母親は政敵の暗殺者にラムを庇って殺されたらしい。いくら皇帝となるべく帝王学を学んできたラムでも目の前で真っ赤な血を吹き上げた母親を見たらトラウマにならないはずがない。帝国皇帝にそんな弱点があってはならないと、必死で克服した。
「……ソレイユに頼んで赤いドレスを纏ってもらい、隣に立ってもらった事もあった……その時は大丈夫だった、だから、もう大丈夫かと思った」
俺を抱き寄せて、耳元でほんの小さい声で囁く。誰にも聞かせられないラムの弱気な言葉。帝国皇帝ラムシェーブルに弱音は許されない……だから俺を抱き寄せて耳元で喋っている内容は睦言であっても弱音ではない、そうでなければならないのだ。
「……お前は、暖かいな」
「そうだな」
慰めるのも違う気がする、否定するのも違う気がする。ラムは俺の知る限り「皇帝ラムシェーブル」を降りるつもりはなさそうだ。何があっても皇帝として生きていく覚悟を持っている気がする。だから無責任な言葉をラムにかけたくはない。もう決まっているラムの覚悟を俺は認めて尊重するだけだ。
「ところであのラフレシアみたいな令嬢を正妃にするつもりはないよな?アレを正妃にするなら俺は側妃なんてイヤだぞ」
流石のラムも一瞬きょとんとした顔をして、ほんの少しだけ笑う。
「らふれしあ、とは何のことかわからんが察するに巨大で異臭がする物体の事だろうか」
「大体正解。そして花らしいんだ」
「ディエスはアレの事も花と認識してやるとはなんと心が広く優しいのだろうな。流石私の側妃だけの事はある」
おおっと?褒められたのか?ラフレシアを花と呼んでいいのかどうかは分からない見た目だが、花だと分類されているんだから花なんだろう。だからあのリリシア嬢も令嬢だと自分で言っているから令嬢なんだろう。
しかし先日はちらっとしか見なかったけれど、今日はかなり近くからよく見たけど、まあ……凄い女性だったな。きっと蝶よ花よとちやほやされ、育てられてきたんだろうなぁ。何の苦労も挫折もなく、自分が思った事は全て現実にそうなる、そうと信じて一欠片も疑わず生きてきた、そんな気がする。
この国で一番偉いはずのラムですら、誰にも見せられない傷とトラウマを抱え、それを隠しながら生きているのに、あのお嬢様はそんな事もなく周りに守られ、甘やかされ……。比べるのもラムに悪いがラムがああじゃなくて本当に良かった。
「だろう?皇帝ラムシェーブルの側妃は心優しいからな」
「そうだな……側妃が優しくて私は本当に嬉しいよ」
その日の仕事は流石に全部やめにした。ラムが俺を離さなかったからだけれど、俺もされるがままになっていた。二人でくっ付いていれば、皆気を遣って近くに寄ってこない。
だから少し青褪めた顔とか、震える足先とか誰も気がつかないだろう。
上着だけ脱がせて部屋で布団に包んでやった。二人で閉じこもればやはり誰も声をかけてこない。
ラムの小さな震えが止まったのは夜もふけ、月が頂点に昇る頃だった。小さな寝息が聞こえて来て、やっと落ち着いたのを確認し、俺もそのまま隣で眠ってしまっていた。
無言で、何のフリもなく腕を引かれたのでバランスを崩す。俺はラムの上に乗っかってしまった。
「ラム……?」
「ああ」
微かに、しかしこれだけ密着しなければ気がつかない訳にはいかなかった。
「ラム……」
「過去、と言う物は中々変えられるものではないな」
ラムの手は暖かい方だ。それなのに氷の様に冷えて……小さく震えていた。
「何の支障もないつもりだったのに」
「……そうか」
ラムの母親は政敵の暗殺者にラムを庇って殺されたらしい。いくら皇帝となるべく帝王学を学んできたラムでも目の前で真っ赤な血を吹き上げた母親を見たらトラウマにならないはずがない。帝国皇帝にそんな弱点があってはならないと、必死で克服した。
「……ソレイユに頼んで赤いドレスを纏ってもらい、隣に立ってもらった事もあった……その時は大丈夫だった、だから、もう大丈夫かと思った」
俺を抱き寄せて、耳元でほんの小さい声で囁く。誰にも聞かせられないラムの弱気な言葉。帝国皇帝ラムシェーブルに弱音は許されない……だから俺を抱き寄せて耳元で喋っている内容は睦言であっても弱音ではない、そうでなければならないのだ。
「……お前は、暖かいな」
「そうだな」
慰めるのも違う気がする、否定するのも違う気がする。ラムは俺の知る限り「皇帝ラムシェーブル」を降りるつもりはなさそうだ。何があっても皇帝として生きていく覚悟を持っている気がする。だから無責任な言葉をラムにかけたくはない。もう決まっているラムの覚悟を俺は認めて尊重するだけだ。
「ところであのラフレシアみたいな令嬢を正妃にするつもりはないよな?アレを正妃にするなら俺は側妃なんてイヤだぞ」
流石のラムも一瞬きょとんとした顔をして、ほんの少しだけ笑う。
「らふれしあ、とは何のことかわからんが察するに巨大で異臭がする物体の事だろうか」
「大体正解。そして花らしいんだ」
「ディエスはアレの事も花と認識してやるとはなんと心が広く優しいのだろうな。流石私の側妃だけの事はある」
おおっと?褒められたのか?ラフレシアを花と呼んでいいのかどうかは分からない見た目だが、花だと分類されているんだから花なんだろう。だからあのリリシア嬢も令嬢だと自分で言っているから令嬢なんだろう。
しかし先日はちらっとしか見なかったけれど、今日はかなり近くからよく見たけど、まあ……凄い女性だったな。きっと蝶よ花よとちやほやされ、育てられてきたんだろうなぁ。何の苦労も挫折もなく、自分が思った事は全て現実にそうなる、そうと信じて一欠片も疑わず生きてきた、そんな気がする。
この国で一番偉いはずのラムですら、誰にも見せられない傷とトラウマを抱え、それを隠しながら生きているのに、あのお嬢様はそんな事もなく周りに守られ、甘やかされ……。比べるのもラムに悪いがラムがああじゃなくて本当に良かった。
「だろう?皇帝ラムシェーブルの側妃は心優しいからな」
「そうだな……側妃が優しくて私は本当に嬉しいよ」
その日の仕事は流石に全部やめにした。ラムが俺を離さなかったからだけれど、俺もされるがままになっていた。二人でくっ付いていれば、皆気を遣って近くに寄ってこない。
だから少し青褪めた顔とか、震える足先とか誰も気がつかないだろう。
上着だけ脱がせて部屋で布団に包んでやった。二人で閉じこもればやはり誰も声をかけてこない。
ラムの小さな震えが止まったのは夜もふけ、月が頂点に昇る頃だった。小さな寝息が聞こえて来て、やっと落ち着いたのを確認し、俺もそのまま隣で眠ってしまっていた。
903
あなたにおすすめの小説
殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?
krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」
突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。
なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!?
全力すれ違いラブコメファンタジーBL!
支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。
フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」
可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。
だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。
◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。
◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか
まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。
そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。
テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。
そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。
大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン
ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。
テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる