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3 稀有で紳士な魔王ちゃん

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「なに?!何なの!」

「やっぱり!レイ!お父様、お母様!近くへ!みんなも寄って!魔石を使うわ!」

「ナナセ!」

 魔石は物すごく高いもので、でも力がある。レイがもしもの為にと大金を叩いて持たせてくれていた物だ。
 今使わずにどうしろと言うの!?

 どーーん!

 天地を結ぶような黒い瘴気の柱が吹き上がった!

「結界!!」

 神様との繋がりを切られた私の力では自分の周りにささやかな結界を張ることしか出来ない!

「うっ、くっ!」

 きつい、キツすぎる!それでも私は耐える。だって……

「わ、私の封印が壊れたのよ!やっぱりあれを浄化してなかったのね!」

「だ、だって!あれ、何回やっても浄化出来なくて!きれいにならないんですもの!」

 悲鳴に近い言い訳。そりゃそうだ!でもそれを浄化してこその聖女だろう!

「……ナナセ……約束と違うぞ?」

「ひ!」

 あちこちから悲鳴が上がり、気の弱い者から倒れて行く。そりゃそうだろう

「ごめん、魔王ちゃん!」

 真っ黒な髪に真っ赤な瞳の魔王が瘴気の柱からぬっと現れた。

 魔王だ。最優先で浄化して!って頼んだのは魔王が封じられていたからなんだ。

「お前が終わらせるから、ゆっくり眠って良いと言うから封印されてやったのに、約束が違うではないか?」

「仕方がないでしょう?こんな事になってるんだもん!」

「ふむ、神との絆が断ち切られたのか」

「そうよ!」

 私が封印し続けてきた封印キューブがぜんぶ壊れて中の魔物や瘴気が溢れ出たんだ。今この魔王の周りにもたくさんの魔物がいて、付き従っている。むしろ魔王ちゃんがいてくれるから魔物や瘴気が辺りに広がらずに済んでいると言っていい。

 鈴木さんはどんだけこの城に封印キューブを持ち込んで放置していたんだ??

「まあしかし、封印の中は悪くはなかった。ただゆっくり眠っているようなものだった。争いはもう飽きたしな」

 魔王ちゃんは、自ら封印してくれ、と言ってきた稀有な紳士魔王だった。もう争いはしたくないのだそうだ。だから簡単に封印されてくれた。
 それなのに!出してしまうなんて!

「誰かに繋ぎ直して貰え。神官がおるだろう?」

 存在するだけで、人が死ぬ。瘴気を撒き散らす。魔王ちゃんも分かってるんだ。だから教えてくれる。

「誰かいませんか!」

「私が!」

 私に力とは何なのかを教えてくれた神官さんが手を挙げる。

「神よ!愛し子ナナセに我らを救う力をお与えください!」

 神官さんの一条の祈りが天に届く。それに呼応して、神様から、道が繋がった。使える!力が使えるわ!

「ま、魔王ちゃん……」

 人が纏めて五人くらい倒れるようなうっそりとした笑みを浮かべた魔王の機嫌は悪くなかった。

「ああ、良いぞ、ナナセ。封印されてやろう。その代わり2つ。1つは浄化とやらを必ずする事」

「分かったわ」

 手にした魔石は砕け散ったが、神様から分けてもらっている封印と結界の力は使えるので、私の周り、そして後ろの人達は身を蝕む瘴気から守られている。

「もう一つは、少しおもちゃを貰って行くぞ」

「……そうしないと、ここら辺一帯が魔境になるのね?」

「ああ、この城が今日から魔王城になり、この大陸が私の支配下に置かれるな」
 
 ため息をつくしかない。この魔王は本当にそれができるモノだ。ほんの気まぐれで封印させて貰ったんだから。

 だから、これだけはしっかり浄化するようにと何度も何度も念を押したのに!!

「仕方がない、ですよね、王様……」

 存在感がほとんどないが、実は一番高いところに王と王妃がいた。今までウィル王太子の発言などを聞いても一切何も口を開かなかったが、いたのだ。はっきりいえばあの人は愚王だ。日和見で、自分では何も決められない。でもこの場で人間の中では一番偉い立場なんだ。あの人に聞かなければ後から何を言われるか……。

「あ、え?しかし、それは……」

 今更何を言っているのか分からないけれど、王は言葉を濁した。また何も一人で決められない、そういう人だ。時間がたてばたつほど人が死んでいくのに。私の封印結界に守られている人たちは、まあ大丈夫だろうけど。

「早くしないと、王や王妃様も死んでしまいますよ!」

「な!」

 私の結界は私の側にある。私と、私をクビにするといった王太子の間に魔王ちゃんは出てきた。だから、魔王ちゃんの奥にいる王様は守れない。

「数人の犠牲で、何百万の命が助かるのだ。安い物ではないか?」

 挑発めいた魔王ちゃんの視線に、王は心臓発作寸前だ。そりゃそうだろうな、魔王ちゃん、怖いもん。

「良いではないですか!民のためにその身をささげてこその聖女でしょう!」

 鈴木さんが叫んだ。大丈夫かな?あの人。

「さすがアイリだ!私の聖女よ!ナナセが魔王の生贄になれば良いのだな!そしてアイリがそれを浄化すれば問題ないではないか!」

 ウィル王太子が震える声で叫ぶ。

「ウィル様ぁ!」

「おお!聖女アイリよ!教皇もそう思うであろう!」

「殿下の御明察、頭の下がる思いであります」

 そしてウィル殿下、聖女鈴木さん、教皇が王を見る。さあ、決めろ!そう脅すような目で。

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