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 ルイフトは知っている。アナスタシアはこの婚約が、王子である自分の遊びであり、新しい高位の貴族令嬢が見つかるまでのつなぎであり良い家柄の令嬢が見つかれば早急に破棄、または解消をしてそちらと婚約を結ぶための、物だ。と、思い込んでいる事を。
 だからアナスタシアはあまり深入りしないために極力話もしないし、デートにもいくとは言わない。いくらしつこく誘ってもうんと首を縦に振らないのだ。

「ルイフト、それは君の怠慢だよ。アナスタシア嬢が喜んでいきたくなる場所を選ばないのが悪い」

 兄のスチュアートに堪えかねて相談すると、非難されてしまった。悔しいがぐっと堪えて、兄に助けを求めた。

「お願いです兄上!なにとぞお力をお貸しください!」

 素直に頭を下げる弟をスチュアートは微笑みで肯定する。そしてちょうど自分の机の中にあったルイフトの為に取ってあったチケットを渡す。

「これなら確実です。私とリンデールも行くつもりですので」

「これは……なるほど」

 兄からチケットを2枚受け取って、ルイフトは顔を明るくする。そうか、こういう事かと。


「アナスタシア、デートに行こう」

「いえ、私はその日は……」

 やはり断りの言葉を口にするアナスタシアに、例のチケットを見せる。途端に目の色が変わるのが面白い。リンデール嬢もこうやって兄上の手のひらの上で踊らされているんだろうか?とルイフトは思う。

「デートに行くよな?」

「で、デート……ってそんな所にデートなのですか!?」

「二人で行けばどこでもデートだろう?」

「うう……い……行きたいです……!」

「決まりだな!」

 流石兄上だ!とルイフトはにんまりする。ルイフトの手に握られていたのは「王都農業学会主催・農作物新品種展示会」のプレミアムチケットだ。新作野菜や新作果物を試食できるアナスタシアやリンデールにとっては垂涎のチケットだった。
 無論、アナスタシアも一般入場で行くつもりであったが、その辺は流石王族である。プレミアムチケットを持ってやってきた。

「アナスタシア、デートだからな?少しは着飾っておくれよ?」

「うっ!服なんて……持ってないです」

 やっとこの言葉を引き出した!とルイフトは内心喜びで拳を握った。

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