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64 元宰相さん

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「我が国、強くなりましたよー!ふっふー。ていうか未来の帝国妃の故国を攻める国なんてないですし」

 宰相さんは宰相職を辞めて顧問になっているらしい。そんな宰相さんはルーセン国と帝国を行ったり来たりして忙しそうだ。

「実は我々がウィルズ家に嫁入りしたんです、書類上」
「そうなんです。書類上」

 俺の所に尋ねてきた宰相さんには必ずリッツとオリーが付き添っていて、二人はオリー・ウィルズ伯爵夫人とリッツ・ウィルズ伯爵夫人ということらしい、書類上。その帝国きってのエリート二人がルーセン騎士団をボコボコ……違った、一から鍛え上げているんで最近はとても強くなったらしい。

「本当は父上はあの二人を国外には出したくなかったんだけど、シャトをこっちに引き止めておくにはそれくらいしないとって」
「あはは……高く評価して貰ったみたいだね」
「そりゃそうだよ。私のシャトだからね! それに帝国民はこれと決めたら絶対に譲らない頑固さもあるし」

 どれくらい頑固なのかは個人差はあるけれど、目の前のホランを見て押して知るべしだ。もちろん俺にもホランが24時間張り付いている。昔はそうじゃなかったはずなのにとよく思い出してみると……いや、気が付くと視界にいつもいた気がしてきた。爽やかな笑顔でたまたま偶然奇遇だね、って顔してたけどもしかしてずっとそばにいた??オリーやリッツの付き纏いも中々激しそうだけれど、宰相さんは中々上手くやっているみたいだった。

「私個人はまあ……色々なものを失いましたが、我が国的にはプラスですよ、ええ。リッツとオリーの騎士としての腕は流石ですし、それに将来的には帝国を乗っ取ったも同然でしょう?シャトルリア様。ホルランド様は貴方が一言いえばなんでも下さいますよ」
「へ?」
「だからあなたが帝国をルーセン国に……逆じゃないですよ?ルーセンの下に帝国をつけろと一言いえば、喜んでそうしてくださるでしょう?」
「……えぐい事考えてるねぇ……」
「良いじゃないですかっ! それくらい! 」

 わあっと両手で顔を覆っているけれど、今日俺を訪ねてきたのはきっと体調のせいだろうな……ついて来たリッツとオリーが滅茶苦茶いい笑顔だし。

「どうですか?シャトルリア様。かなりではないかと思っているのですが」
「どうですか?シャトルリア様。絶対だと思っているのですが」
「多分、だと思いますよ……」

 次の仕込みが早いなあと思ったけれど、年子と言うものはそんな感じなんだろうね。

「子供は可愛いねぇ、宰相さん」
「可愛いですね!もちろんうちの子が一番可愛いですよ! もうね、手とかプニプニしてるし、笑ったら天使だしあーもー最高です。所で私、宰相職は辞めてますけど」

 最近、宰相さんの「わあああ」は泣き真似だって気が付いた。この人、そんなに弱っちい人じゃないや。なんせ何年もあの弱いルーセン国を他の国に食いつぶされないように守ってきた凄腕なんだ。この程度でどうこうなるような心臓の持ち主じゃないや。

「可愛い子供が増えるのは嬉しいよねえ……」
「ああ、神の采配とかいう奴ですか……可愛いですけど、私達人間のことも考えて欲しいですよね」

 あれ?俺、宰相さんに神様の話したっけ?フン、と腕を組んで踏ん反り返り気味の宰相さんをまじまじと見つめた。



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