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20 私の企み

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「お呼び立てして申し訳ないですわ。アレクシア様」

「いえ、嬉しいわ。シシリー様」

 私は王太子の婚約者であるアレクシア様にお手紙を書いて、王城へお勉強へ来る日に少しお時間を頂いたのよ。艶々の赤い髪に煌めく緑の目をした美しいお嬢様。まだ学園に在籍される年齢なのだけれど、もう女王の風格を漂わせていると言ってもいい。ぶっちゃけあの王太子に勿体ないわ。

 香りのいいお茶をノーシュガーで淹れて貰い、最近作って貰った琥珀糖を御茶請けに。ビジュアル大事ね!椅子をお勧めして、優雅に座り……一口二口、嗜んでから私は核心から行ったわ、アレクシア様に遠回しは必要ない。そう言う賢いお方だもの。

「アレクシア様。アイザックお兄様の事をどうお思いですか?」

「アイザック第二皇子様ですわよね?……聡明な方だと思っております」

 悪くない反応だわ、行ける気がする。

「アイザックお兄様の婚約者であるセシリア様が常日頃からおっしゃられている事を覚えておられます?」

「……ええ、困った方だと聞き及んでおります」

 第二皇子であり、お母様が一緒のアイザックお兄様の婚約者はセシリア・マートル辺境伯令嬢なのだけれど、このセシリア様がかなり癖の強い方で……。

「わわわわわわわたしいいいい第二皇子様の婚約者など無理、無理でございます!無理いい!!」

 と、いつまでたっても往生際が悪いご令嬢です。往生際が悪すぎて学園にも通っておらず、辺境から出てこようとしない。こんなことゲームで一言も触れられていないから、アイザックお兄様も困っている案件なのよね。全く交流を持てないのだもの。

「……ねえ、アレクシア様。アイザックお兄様に変更しません?」

「……」

 流石に返事が出来る事じゃないわよね。婚約者を王太子から第二皇子に変えろなんてさ。でも、そうしてもらいたいのよね。

「最近のアンソニーお兄様のは過ぎるわ……後、アイザックお兄様の授かったお力が素晴らしくてね?」

 お茶を一口含み何でもない噂話風に話す。この話は内密な話なのだが、アレクシア様のご実家でも情報は掴んでいるだろう。

「そういえばシシリー様が得られた癒しの力をアイザック様も受けられたと」

「ええ。伝説の聖騎士と呼ぶに相応しいって。今、神殿の方に極秘に問い合わせていますのよ」

 王太子アンソニーと第二皇子のアイザックお兄様は年も近くアイザックお兄様を次期皇帝に推す声が多い。だからゲームでは王太子のアンソニーが少し強引ともいえる手を使って聖女ルーナに近づき、ルーナの太陽の王子になった。
 唯一無二の聖女の庇護者は発言力も強く、それによってゲームのアンソニーの王太子の座は完璧なものとなったんだけれども、今現在聖女はルーナを入れて5人。私も入れれば6人となる。そんな中では太陽の王子は王太子の座を守る手札としては弱い。
 むしろ宝物を持たないシシリーより、その力が疑問視されているルーナでは手札と数える事は出来ないかもしれない。
 ルーナはサボり過ぎなのよ、だからいつまで経っても大きな力や魔法を使えないの。力を増幅させてくれる宝物もないのに、あの人は危機感がないのかしら?

「まあ……それは……頼もしい限りですわね」

「ええ、アイザックお兄様は浮気は致しませんし?」

 私はアイザックお兄様に皇帝になって貰いたい。そしてそんなアイザックお兄様の隣に立つお方は無理しか言わないセシリア様ではなくこの美しいアレクシア様であって欲しいと心から思う。
 そしてはっきり言えばアンソニーお兄様よりアイザックお兄様の方が皇帝に向いている。
 アンソニーお兄様は側妃様の子供だ。だから母親であるマチルダ様からの圧をかけられすぎて王太子に執着し過ぎている。それならば公平な目で物事を捉えるアイザックお兄様の方がこの国は安定する。

「シシリー様は……いえ、そうですわね。浮気は褒められる事ではございませんわね」

「ええ」

 私達はお茶を飲む。アンソニーは自分が王太子である為に一番強力なカードであるはずの聖女を取りに行った。大きな後ろ盾であるアレクシア・クリスホワイト公爵令嬢を蔑ろにしてまで。
 それがゲームなら良かった。でも今、私は許せない。

 アレクシア様はずっと王太子妃教育をこなして来た努力なしでは語れないし、淑女として完成されている。その努力を軽く見るアンソニーは許せない。
 そしてルーナは王妃にする事など無理な話だ。

 あの子はこの世界がゲームだと信じている。何かあればリセットボタンを押せば良いと。そんな子をこの国の王妃にする事は出来ない。この国にリセットボタンはないのだから。

「お忙しい中、貴重なお時間ありがとうございます、アレクシア様。また一緒にお茶をして頂けませんか?学園のおはなし、とても楽しかったですわ」

「ええ、私の話で良ければ幾らでも」

 私達は学園の話をしていた、と言う設定にした。学園に通っていないシシリーが聞きたがってもなんの違和感もないからね。
 それに、対してアレクシア様の答えは「いくらでも」だった。この話、乗ると言うことね。

「アレクシア様の事をお姉様と呼べる日が近い事を嬉しく思いますわ」

「よろしくお願いしますね、シシリー様」

 さて、お母様に話をつけておかなくちゃ。淑女には淑女の繋がりがある。私はこの話がスムーズに行くように手配しなくては行けない。

「まあ、エステで落ちないご夫人は居ないわ、ふふふ」

 私にも強い手札があるんだからね?



 

 


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