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阿呆王子、帝国へ

19 令嬢って凄い

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 恐ろしい速度で駆け抜けて、俺は帝国の王都に7日もかからずについた。普通の半分以下だよね?
 流石に人が多い王都は速度を落として……それでも凄い速度で王宮の大門を潜った。振り返る人達の視線が痛い!

「はぁ、俺どうなっちゃうのかな……」

 馬車の扉が開き、制服を着た宮廷騎士らしき人物が手を差し出した。

「お待ちしておりました。ナルジェル・リグロード様」

「……ありがとう」

 手を取り、なかなか快適に過ごした馬車から降りて地に足をつけた。見上げれば立派な王宮が立っていて、人々がこちらを見ている。
 国に不利益になってはいけない。にこりと愛想笑いを浮かべる。自分でいうのもなんだが、ナルジェルほどの美形ともなると、愛想笑い一つで人心などいとも簡単に掴めるのだ。
 きやぁっ!と黄色い悲鳴があがる。もうメイドの心はがっちりキャッチよ!

「お支度後、お迎えにあがります」

「……分かりました」

 客間に通される。中に入ると何人いるか分からないメイドが手ぐすね引いて待っていた。

「よ、よろしく頼む……」

 それしかいえなかった。


 世の令嬢とはいつもこういう事をして、夜会や舞踏会、パーティに出かけるだろうか?だとしたら、何という胆力の持ち主なのであろうか?

 有無を言わさず風呂に漬け込まれる。
 長旅の疲れは取れないが、長旅中の汚れは浮き上がったらしい。よく分からんが。一斉に体中を磨きあげられ、香油を塗られ、髪も複雑に編み込まれる。
 爪には色を塗られ口には薄いながら紅をひかれた。

「待て!待て!私は女性ではないよ?!」

 慌ててメイド達を止めようとするが、不思議そうな顔をして

「分かっていますよ」「大丈夫ですよ、ナルジェル様」

とか

「こんなに背の高い女性はいませんよ」「男性なのにつやもち肌ですね!」

とか

「男性だから良いんじゃないですか」

とか、よくわからない事を言われまくって……結局言い負けた。何というか勝てる気が全くしなかった。

 最後にズボンは履いているのに、後ろはドレスのように膨らんで裾を引きずるような訳の分からん服を着せられた。

「……どうなってるの?これ」

「マダム・ホワイトフラウの新作ですよ。ナルジェル様からヒントを得たとかで大人気ですわ!」

 まったく分からなかった。ついでに自分で脱げる気もしない。なんなんだこの腰回りの編み上げとか?苦しくは無いが意味が分からない。

「お迎えに上がりました」

 計ったかのように先ほどの騎士が現れた。俺は騎士の後を無様に見えないように背筋を伸ばして歩く。後ろから見たら背のでっかいドレスの女性が歩いているように見えるんじゃないか??
 靴にはかかとがなかったので歩き易いのはありがたい。

 俺の姿を見て、脇に避けた人々の反応は悪くない。歩き方一つ、指先にまで品が出るのだと言われているから、もう緊張しっぱなしだ。小さい頃からの訓練が足りない!

背筋を伸ばして遠くを見る!集中集中!

 何かヒソヒソと話している気配もするがそれどこじゃない。多分、間違いなくこれから偉い人の前に通されて謁見なんだ。
 粗相してリグロード潰そうって思われたら、全国民に申し訳が立たない!頑張れ俺!頑張れ俺!やればできるぞ!俺!

「リグロード国、第二王子。ナルジェル・リグロード様がお着きでございます!」

 朗々と声が響き、一段と豪華な扉が音も無く開いてゆく。


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