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24 マリーと言う令嬢について

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 この国は平和だ、そう王太子は思っている。人口はそれほど多くはないが、国の面積はそこそこに広く温暖な気候に支えられ農地は広い。海に面している街を有しているから物流も盛んだ。そして近年は大きな戦いもない。

 だからこそ、貴族は腐敗してゆく。気高い意思を保った者も多くいるが、私腹を肥やす事にのみ執着するものも増えているのが現状だ。何とかしたい、そう思いながらも手をこまねく現状。王家としても改革を進めたくても打つ手がない……。
 王太子自身の婚約者の家も疑わし気であるのにそれを調査できずにいた。しかし、今年の一年生にものすごい女子がやってきたと話題になった。

「ロンド子爵家の長女、マリー嬢が学園に来た」

「マルグリッド様のご息女か!!」

 箝口令、とまでは行かないがなるべく話題に出ないようにするべき出来事……それがマルグリッド様の事件だ。マルグリッド様がジェームス・ロンド子爵に一目惚れして事なきを得たが、これは国際問題に発展し、この国を潰しかねない事態であった事を王太子は知っている。
 その天下の剣聖マルグリッド様の血と薫陶を良く受け継いだマリー・ロンドが学園に入学するというのだ。

「力を……借りることは出来ないだろうか」

 過去の出来事を知る者達はそう思ったという。様々な人々の思惑があったものの、マリーは無事学園への入学を果たす。

「……普通……だな?」

 誰もがそう思う容姿のマリー。茶色の髪に茶色の目。これは彼女の父親であるロンド子爵と同じ色で母親であるマルグリッドの真っ赤に燃え盛るような赤髪は受け継がなかったようだ。そして騎士科を専科すると思われたのに、マリーが最初に向かった先は服飾科であり、期待に胸を膨らませていた王太子は愕然とした。

「……普通……?」

 普通とは何なのか、王太子以下彼の側近達はマリーが普通ではない事にどんどん気が付き始める。

「良くある茶色の頭髪に見えて、そうではない……一見華やかさはないように見えて、印象に残る人だ」

「ものすごくスタイルが良いと思わないか?立ち姿が恐ろしく美しい。あと父上が言っていたがあれは常人の足さばきではないと、達人、剣聖クラスの体術を身につけている」

「なのに敢えて一般に紛れ込む事が出来ているという事か?」

「ああ……これは相当恐ろしい使い手という事だ……」

 マリーが聞いたら「え……そんなつもりは全くありません。普通ですけれど…‥」と困惑した所だろうが本人はこの場にはいない。

「普通に見えて、彼女は違う。彼女ならこの国を救ってくれるに違いない……!」

 マリーは更なる深みへと巻き込まれてゆく。
 
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