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25 王太子がまずいですわ

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「マリー・ロンド子爵令嬢、私と愛し合ってくれないか」

「薬草は頂きます、ではさようなら」

 偉い人の冗談に付き合っているほど私は暇ではありません。今は小さな子でもあまり嫌がらずに飲める熱さましの調合に忙しいんです。水状ではなくもはやゼリー程に濃くしてつるんと飲み込んでしまえば良いのでは!?と昨日イザベラとプリンを食べながら閃いたところでしたからね。早く作ってみなくては。

「頼む!少しだけでも話を聞いてくれないか!?」

「少し聞いたら抜けられなくなることではないですか?それに私に何か良い事はありますか?面倒ごとしかない予感がします!」

「鋭いな!マリー嬢」

「よく言われます、それではごきげんよう。王太子殿下」

「待ってくれー!」

 高級ゼラチンと薬草たっぷりそして

「お話を聞いても頷けない事もあります。強制的に巻き込まない事を御約束ください」

「分かった」

 言質を頂いてから仕方がなくお話を伺う事にした。

「私の婚約者の事は知っているだろうか」

「ええ、コリアンナ・セルウィッチ公爵令嬢ですね。1年高位クラスを牛耳っておられます」

「その通りだ」

 コリアンナ様は自ら動かない。間接ないし、直接的に他の生徒に指示を出し事を成す事を好む。今はやんだけれど私にインクをかけたのは大半はコリアンナ様の指示。そして汚れた私を見て

「あらあら……大変ね」

 と、呟く。そうすると彼女の取り巻き令嬢達が

「子爵の出ですものぉ。新しい物を買う余裕がないのですわあ」

「ホント、身の程をわきまえて欲しいですわぁ!」

 と、クラス全員に聞こえるように喋る所まで指示していたようでした。なんというか彼女は王太子妃に相応しい人物かと言われたら首を傾げたくなるような方なのです。

「しかし、公爵家の中で私と年齢的につり合いが取れている令嬢は彼女しかいない上に、セルウィッチ公爵家の発言力は強い」

「そのようでございますね」

 誰も彼女を諫める事なんて出来ないようですし。

「そして彼女は……国政にも無関心であり、王子妃教育もままならず、更にマナーは講師を脅すか金を握らせるかの2択だ」

「さようでございますか」

「しかしセルウィッチ公爵の力は強い」

「そのようでございますね」

「そんなコリアンナ嬢を私の婚約者、ひいては未来の王妃にすることは些か、いや相当よろしくない」

「さようでございますか」

「そこでだ、彼女に全て勝るような女性が現れたら皆納得するのではないかと、私は思うのだ」

「そのようでございますね」

「そこで君だ。マリー嬢、国の為……」

「ではさようなら」

「そこはせめて、そのようでございますね、と言ってくれたまえ……」

「お断り致します」

 まったく失礼な方だわ。

「国の為というなら王太子自らコリアンナ嬢の更生に勤めれば良いではありませんか。ご実家のセルウィッチ公爵家が怖い?それでも王太子ですか、嘆かわしい!」

 ちょっと不敬かと思いましたが、王太子殿下相手に啖呵たんかを切ってしまいました。だってこのような情けない方がこれから王位につくなんて、一国民としても由々しき事態だと思うのです。すると、殿下は怒る事はせず、何かにじーんと感動していらっしゃるご様子です……ど、どうしたのでしょうか??

「ああ、なんてなんてまともな反応なんだ……そう、私が求めていたのはこういう事だ。腐敗しつつある政治、気の弱い父上……やはり王家たるもの、毅然としたこういう態度でなければいけないのだ……」


 まずい、相当不味いですわ。私は持てる力の全てを使って気配を消し、そそくさと逃げ出したのです。これ、巻き込まれると相当まずいやつですわ!!


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