【完結】闇暗殺者と入れ替わった社畜の俺を聖騎士様が離さない

鏑木 うりこ

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46 いやぁー来ないでぇ〜(大根

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「ううっ……」

 令嬢達は最後に俺を噴水に突き落として高笑いをして去っていった。背も高くて結構体重もある俺を突き落とすのは凄く大変だっただろう……最初は何をしているか気が付かずぐいぐい押してくる令嬢達をぼーっと見ていたけれど凄く頑張っていて可哀想だったから自分から落ちてやった。
 あんな無茶なダイエットで枯れ枝みたいな腕……フロウライトに近づいただけで折れるんじゃないのか?あいつの圧力でさぁ。

「冷たい……」

 けれど大した事じゃない。何時間も氷雪が吹き荒ぶ街角で気配を消して立ち続け、やって来たターゲットを仕留める事もあった。氷の大地で小山程巨大なマンモスを何日もかけて狩ったこともある。
 季節も震えるほど寒い訳じゃないし、ついでに言えば筋肉量が多いから平熱はかなり高いので風邪もひかないと思う。

 それでも濡れた髪をかきあげながら、パシャリと音を立て噴水から上がって来ると今度は若い男達がにやにやしながら立っていた。どこかの令息かその取り巻きか。

「こいつ?」
「ああ、間違いない」
「こいつをにしてやれば良いんだな?」
「ああ、冴えない男だが抱き心地は良いんだろう?」
「そりゃそうだ! あの聖騎士団長を骨抜きにしたんだからな」

 また面倒くさいの来た。

〈そりゃ最高に決まってるじゃないですか!〉
〈見てわからんのか! あのぱつぱつのおっぱい!〉
〈ぷりんぷりんのお尻も凄いんだから!〉
〈いや、やっぱり顔だよ、顔! 色っぽい上に可愛かったりー!〉

 面倒くさいのまだ居た。

「だ、誰ですか……あなた達」

 マークならこう言わなきゃならないからな。怯えた顔で逃げ回らなきゃならん……めんどくさいけれど、ゆっくり駆け出す。

「ひいっ」
「逃げるぞ追えっ!」

 しかもぶっちぎりで引き離してもだめだし、消えてもだめだし、非常に面倒くさい。そして途中で哀れっぽい声を出して助けも呼ぶのだ……できるだけ遠くには届かないくらいの大きさで。本当に助けが来たらそれはそれで厄介だからね。

「誰かっ、誰かーっ」
「人気のない方へ行ったぞ! 好都合だ」

 わざとだがな。人目のない暗がりが多い所に誘導すればわいわいきゃあきゃあ騒いでる元弟子達が適度に殴って気絶させてくれるだろ。
 息を切らしたふりをして低木の間を走り抜ければ追っ手は無くなっていた。本当に面倒くさい……どこかの木に登ってフロウライトが出てくるまでやり過ごした方が早そうだ。

「はぁ、はぁ……」

 息切れをしてるふりをしつつ辺りをキョロキョロ見渡す。人の気配が無ければこのまま姿を消す所だがそうも上手くいかないようだ。近くに誰かいる……失敗した、会場から離れれば誰もいないと思ったのに。わざと音を立てて植えられた香りのいい花の咲く低木を掻き分ければ気配の持ち主と顔を合わせることになった。

「あ……」
「おや……君は」

 やけに豪華な服装。煌めく白銀の髪に、薄い水色の瞳の線の細い美形。胸には大振りのレインボークリスタルのブローチ。その石を身に付けるのはこの国の王族だけ。王太子だ……まあマークにそんな事分かる訳ないから知らないフリをする。

「す、すみません」
「迷ったのかい?」
「えっと……はい」

 無難な受け答えは得意だ。そう言うと王太子は王太子らしく笑う。

「そうか、ではパーティ会場へ案内しよう……こちらだ」
「あ、ありがとうございます」

 ついて来てという背中を見ながら歩き出す。王太子……ウィントン・クリスタニア、だっけな。すべてが合格点の男。政治力、統率力、武力など今の国王をすべて上回っている能力値を持っている。ついでに顔も。
 国王より劣っているのは国王であろうという意識だけ。ウィントン王太子は王太子の癖に積極的に国王になろうとしていない。だからあんな人気のない場所で人脈づくりをサボってたんだろ……第二王子に巻き返されるぞ??かといって親切な申し出を断る訳にもいかず、大人しくウィントン王太子の後をついて歩きだす。早く帰りたいな~。
 



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