【完結】神を赦さないと言った救いの神子は巻き戻った世界で婚約者から溺愛されています。

神の采配

「レティシア……レティシア……」

　私は自分の名前を呼ぶ声がするような気がしてゆっくり目を開ける。

　ここはどこだろう。

　霧のようなモヤのような白くふわふわしたものに囲まれ、眩しい光の中にいるようだ。

「レティシア、気分はどうだ」

　私は目の前に立っていた白い服を着た男に声をかけられた。

　誰だろう？　

「悪い夢を見た気分か？」

　悪い夢？　何を言っているんだろう？　まさか、今までの出来事は夢だと言うのか？

「お前は死の間際に神を赦さないと言ったな。そのまま逝かせるのは神として忍びないので、お前の望みを叶えてやろうと思うのだ」

　神？　神なのか？　

「あなたは神さまなのですか？　私が殺されたのは悪い夢だとおっしゃるのですか？」

　私は頭が混乱していた。

　神であろう、白い服の男は私に向かい言葉を発した。

「お前は私が選んだ救いの神子だ。年を重ね次の神子にバトンタッチするまでランソプラズム国とともに幸せに過ごすはずだった」

「だったら何故あんなことになったのですか？」

「間違いだ」

　間違い？　間違いで済まされない。

「あなたの間違いで酷い目に遭った私の人生はどうなるのですか！　神だから間違ってもいいのですか！」

　私は神に怒りをぶつけた。

「間違えて設定を変えてしまったのだ。私がそれに気がついた時はすでに遅かった」

　神ならばすでに遅かったで済まされるのか？　神を睨みつけた。

「そう怒るな。間違いに気づいてから、色々な神と話をした。どうにかして、修正する事はできないかとな」

　神は無表情で話を続ける。

「神の謝罪として、お前にこれからどうするか選ばせてやろうとここに呼んだのだ」

　神は謝罪と言いながら、選ばせてやると言う。私は腹立たしかったが、神だから上からなのは仕方ないかと思った。

「お前は私がこれから言う３つの中からひとつ選べる。さぁ、どれにするか決めるが良い」

　神は私に向かい、指を３本立てた。

「まずひとつ目はお前はこのまま死んで、何百年か先に全く違う人間として生まれ変わる。もちろん今の人生の記憶は無い。次は違う人間だが、また救いの神子として力を持ち生まれる。

ふたつ目はこのまま死なないで続きを生きる。お前が生きているので国は滅びない。ただ、ほとんどの者が亡くなってしまい親や兄弟もいない世界だ。救いの神子を中心に国を建て直すことになる。建て直すために今の3倍の力をつけてやろう。魔法も使い放題だ。そして国を建て直し、お前が女王になる。そして寿命を全うしたあとは、また救いの神子として生まれ変わる。これが本来のお前の人生だった。

そしてみっつ目、みっつ目は私の手を離れ、女神スパリーナの神子になる。生まれるのはランソプラズム国だが、いずれスパリーナ国で女神の神子として女神をサポートする為に膨大な魔力をふるうようになる。救いの神子としての役目は無くなり、今後一切、私と関わり合いになることはない。そしてもう金輪際、救いの神子として生まれ変わることはない」

　神はそう言う。

「さぁ、どれを選ぶ。どれを選んでもお前はお前の人生を生きるだけだ。私としてはふたつ目を勧めるがな。救いの神子らしい人生になるだろう」

　どれを選ぶかなんてもう決まっている。

「私はみっつ目を選びます！」

　神は驚いた顔をした。みっつ目を選ぶとは思っていなかったのだろう。

「それでいいのか？　ふたつ目を選べば国を作り、女王になれる。魔法も権力も使い放題だ」

　私は神に向かって声を上げた。
「私はあなたを赦さない。信じられない神の神子などできません」

　救いの神は残念そうにふっと笑った。

「後悔はしないか。それでいいなら、もうこの先お前と会うこともない。私は救いの神だからな。私の手を離れ、行ってしまうのだな。レティシアよ、私が勧めたふたつ目を選ばなかったのを後悔するがいい。天からお前の生き様を見ておるぞ。さらばじゃ」

　そう言うと救い神は消えた。
周りの色が華やかな色に変わった。金色ね光が降り注いでいる。
その光の中から虹色の長い髪を持つ美しい女性が現れた。
「レティシア、やっと姿を見せることができたわ」
女神だろうか？　その女性は私に近づき、手を取った。

「あなたは救いの神の手を離れ、私の神子になった。あなたが本来の人生を選ばなかった時は私の庇護下に置くという取り決めがあったのよ」

　神同士の取り決め？　自分の知らないところでそんなことがあったのか。

「あなたには、これからは私の神子として、私の手足となり動いてもらうことになるわ」
　
　私は今の状況がよく飲み込めていなかった。

　要するに担当する神が替わっただけか？　そしてランソプラズム国にずっといなくてよくなったのか。
　救いの神子だった頃は国をはなれることはできなかったが、その縛りから解放されるのか。私は心が軽くなるような気がした。

　女神スパリーナは私の肩を抱き、話を続ける。

「私はある者に時間を巻き戻す魔法を使わせて、あなたが生まれた時に時を戻すことにしたの。しばらくはランソプラズム国でのんびり暮らしなさい。そしてその時がきたら私の元に呼び戻すわ」

　そう言うと女神スパリーナは私の頭に右手を置き何か呪文のようなものを唱えた。すると七色の光が溢れ出す。眩しい光に包まれた私は意識を失った。