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夜会(クラウディア[セレスティア]視点)

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 私は父母と一緒に夜会に来た。

 デビュタント以降父母にくっついて精力的に夜会やお茶会に顔を出している。

 今日はアカデミーで仲良くなったミランダと会場で合流し、一緒に夜会を楽しむ約束をしていた。


 ミランダは苦虫を噛み潰したような顔をした。

「ティア、あれ見て」

 扇子がさす方向に目をやると、あの男がいた。

 私の記憶にあるあの男よりかなり若いが間違いない。

「ルブラウン侯爵の子息よ。いや~ね。こんな場に男爵令嬢なんか連れてきて。マナーがなってないから浮いているわ」

「男爵令嬢は恋人なの?」

「そうみたいね。真実の愛と言って婚約者にあの令嬢を虐めたと無実の罪を着せて婚約を解消したのよ。学園のパーティーで断罪したらしいわ」

 馬鹿じゃないのか? いや馬鹿だな。

 ミランダは話を続ける。

「でもルブラウン侯爵家って落ち目だから、後ろ盾がほしいのに、裕福な男爵ならともかく、パッとしない家の令嬢なんてもっての他だと親から反対されて、まだ婚約できないみたいよ」

 それでお祖父様は裕福で爵位が下のうちと縁を持ちたかったのね。

 あの男は母がいなければキャサリンと結婚できたと言っていたとミッシェルは言っていたけど、そもそも無理ね。

 逆恨みも甚だしいわね。
「ティア狙われるんじゃない?」

「狙われる?」

「だって、ティアの家は由緒ある伯爵家で裕福でしょう。しかも爵位は下だから強く出るかもしれない。早く誰かと婚約しといたほうがいいわよ。例えば……」

 そりゃそうね。巻き戻す前の世界では私は存在しないからブランシュに話が来たのね。

 共同事業を始めるのはまだ先だわ。とにかく関わり合いにならないのがいちばんね。でも、私と婚約すればブランシュは逃れられるわね。それも面白いかもしれないわ。
「どうしたの? なんだか悪い顔してるわよ」

 ミランダに指摘されてしまった。

「ミランダ、友達かい?」

「あら、お兄様、紹介するわね。こちらアカデミーで同じクラスのティア。セレスティアよ。シューナアス伯爵家の令嬢なの」

「お初にお目にかかります。セレスティア・シューナアスでございます」

 私は綺麗にカーテシーを決めた。

「ハワード・ランディスです。妹と仲良くしてくれてありがとう。妹とふたりでいるところを見ると、婚約者はまだいないのかな」

「はい。まだおりません」

 ミランダがハワード様の腕をは引っ張る。

「まぁ、お兄様、いきなり婚約者がいないか確認するなんてお行儀が悪いですわ」

「あまりにも美しかったので、まだ決まった人がいないのなら、私が申し込もうかと思ったんだ」

 ハワード様は少し赤い顔をしている。
どうやら全くの嘘ではないようだ。

「まぁ、ご冗談を。私は伯爵家の娘、公爵家の妻など務まりませんわ」

 私は控えめに奥ゆかしく見えるようにはにかんだ笑顔を作った。

「お兄様、ティアは私の大事な友達です。そのような冗談はおやめ下さい」

 ミランダは怖い顔をしてハワード様を睨みつけた。

「冗談ではないよ。シューナアス嬢、不快に感じられたのなら謝る。でも私も選択肢に入れて欲しい。もし嫌でなければ一曲踊ってもらえますか」

 ハワード様が手を差し出した。

 私はミランダを見た。ミランダは微笑む。

「ティアが嫌じゃなかったら踊ってあげて。私からもお願いするわ」

 ミランダにそう言われたら踊らない訳にはいかない。

 私はハワード様の手を取った。エスコートされてホールに出る。

 巻き戻った後の世界では、まだデビュタントしたばかりなので、父としか踊ったことがない。

 前の世界では社交界の花(それはちょっと言い過ぎかな?)と呼ばれた私。
 
 ダンスは得意なのよ。

 ハワード様は次期公爵。美丈夫で女性に人気があるようだ。踊っていると突き刺すような視線を感じる。

「シューナアス嬢、私もティアと呼んでもいいだろうか?」

「はい」

「私のことはハワードと呼んでもらえると嬉しいな」

 ハワード様はいきなり名前呼びを要求してきた。

「まだ、私達はなんでもありませんわ。そんな呼び方をしていると周りから誤解されてしまいます」

「誤解じゃなくすればいい」

 こっちから粉かけようと思っていたのにこんなにグイグイこられるとは想定外だ。

 ランディス公爵とは巻き戻す前に夜会等で何度か会ったことがある。確か若い時に奥様を亡くされて、そのあとずっとひとりを貫いてらしたような。

 妹の子供をひとり養子にしてランディス公爵家を継がせたような記憶がある。

 まさか、私が亡くなった奥さん?

 巻き戻してしまったので、未来は変わる。

 私達だけ、何もなかったように記憶を失い、また母の子供として生まれてくるなんて卑怯者かもしれない。

 私は母の幸せのためにミランダやハワード様に近づいたけど、2人は私がそんな人間だと知らない。

 私は後ろめたさを感じながらハワード様と一曲踊り切った。




「セレスティア、ランディス公爵家から婚約の打診が来たがどうする?」

 父が私を執務室に呼び、そう言う。

「それに共同で事業の話もあるんだ。まぁ共同事業の話とお前の縁談は別の話だから、嫌なら断ってもいいんだぞ」

「少しお時間をいただいてもよろしいでしょうか」

 私はどうすべきか悩んでしまった。

「姉上、何を悩んでいるのです。姉上らしくありませんね。夜会の前は子息を落とすと意気込んでいたのに」

 ヘンリーは口の端を上げる。

「ええ、そうなのだけれど、なんだかうしろめたいの」

「良かった。姉上はやっぱり姉上だ。ランディス公爵子息は良い人だったのですね。姉上が公爵家に嫁げば、ブランシュにルブラウン家から縁談が来ても突っぱねることができます。ルブラウン家がうちに目をつける前にランディス公爵家と共同事業をやり、姉上も縁を繋ぐのがベストです。姉上、よろしくお願いします。これも母上の幸せの為です」

 ミッシェルはやっぱり策士だわ。私に逃げ道を与えてはくれない。

「わかったわ。私は未来の公爵夫人になるわ。お母様がアカデミーを卒業してクロヴィス様と結婚するまで8年ね。その間、あの男を潰す為に動きながら、私も幸せな夢を見せてもらうわ。ハワード様には本当に申し訳ないから尽くさせてもらうことにするわね」


 それからしばらくして私とハワード様の婚約が決まり、我がシューナアス家とランディス家の共同事業が立ち上がった。

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