溺愛魔王は優しく抱けない

今泉 香耶

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魔界召集の夜(1)☆

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 女性を抱くことは慣れているはずだった。だから、きっと初めてだろう彼女の体にあまり負担を強いずに出来るのではないかと、少しだけ自惚れていた。

 なのに、蓋を開けたら欲情の波にすべてが攫われて、それどころの騒ぎではなくなって。耳や胸を嬲れば、それだけで男を受け入れる準備が出来てしまう、未熟でありながらとっくに「女」である彼女の肢体。それが自分の手の中にあると思うだけで情欲が加速する。

「あっ、あ、あ……っ!」

 初めての快楽に泣きながら体を捩る彼女の姿に歯止めが効かなくなり、何度も「いやらしい女だ」と羞恥を煽るように囁いた。白い身体がベッドの上でのたうつ姿を見れば、ただただ「可愛い」「もっと可愛がりたい」「もっと」と、自分を止めることが出来なくなった。休むことなく快楽を与え続ければ、彼女は健気にもその全てに反応をする。

 淑女であれと言われ、公爵令嬢という肩書に恥じぬ女性になった彼女を辱めたい。欲情に混じるその加虐の心は、彼のものであって彼のものではない。

「いや……わ、た、しっ……いやらしくなんか、ないっ……違うっ……こんなのっ、こんなっ、あ、あ、あ、違うの。違うの……」

 彼の指に、舌に、唇に翻弄され、感じてしまう自分を否定したくて彼女はすすり泣く。だから、ついつい「受け入れろ」「身体が悦んでいると自覚しろ」と刷り込みたくなってしまう。

「違わない」

 その快感の果てに孕むことになると知っているからだろうか。乳首をこすりあげ、ねっとりと耳を存分に舐めれば、腰を跳ねさせながら彼女は片手を腹部に置いた。きっと、彼女自身はそれに気付いていないのだろう……そう思うとますます嗜虐心は高まり、もっと、もっと、と加減出来ずに彼女を嬲り続けてしまう。そうだ。これからそこに精が吐き出されて、お前は孕むのだ。その思いが彼自身をも煽り続ける。

「違う、こんなの……知らない、知らないものっ……」

「お前は、こうやって出会ったばかりの男に乳首を触られて、嫌だ嫌だといいながら快楽をねだって気持ちよくなるいやらしい女だ」

 恥ずかしがりながら、嫌がりながら、それでもどうしようもなく感じて、びくりと腰を浮かせる。彼女は鼻にかかった吐息を吐き出し、彼が送り込む快楽に負けて容易に股を開いてゆく。あまりにあっけなく高められて心は置き去りのまま、ただただ体だけが翻弄される。だが、心が伴わないからこそ、体が先走って達しようとする姿は煽情的だ。それを前にして、彼は自分を止めることが出来ず彼女を追い詰めていく。

「嘘、嘘、嘘、イっちゃうの? イっちゃうの……? わたし、わたしこんなの、何も、何も知らなかったのにっ……!」

 とめどなく溢れる彼女の愛液をクリトリスに擦りつけ、尖った快感を絶え間なく与えると彼女の声は高まっていく。それまで知らなかった熱に浮かされ、まるでうわごとを繰り返すように、彼女は焦点が定まらぬ瞳で子供のように首を振る。

「そうだな。初めてイくところを、きちんと見てやるぞ」

 その言葉と同時に更に彼女の快楽を追い立てる。何も知らなそうな、誰にも触れられたことがなさそうな彼女が泣きながら「イく」と言葉にするだけで、彼は得も言われぬ快感を得る。もっと。もっと恥ずかしい姿で、もっと恥ずかしい言葉を口にして、思う存分達する姿が見たい。喘ぎ声にかき消されぬように、彼は彼女の耳を甘噛みしながら囁いた。

「股を開いて腰を突き出して、どうしようもない恥ずかしい格好でいくといい」

「っ、あっ、ああ、あ、あ、あ、あ、あ!」

 彼のその言葉は快楽の後押しだ。絶頂に押し上げる快感が加速したように、そこから一気に彼女はびくんびくんと大きく体を跳ねさせた。

「……んんんっ! イっちゃうううううううう!!」

 腰をつきあげたまま爪先で体を支え、がくがくと震える恥ずかしい体。いとも容易く初めての絶頂を得た彼女の姿に興奮して、彼もまた自分の体が熱くなっていることに気付く。

 それから更にゆっくりと時間をかけて彼の欲情が彼女の中にぶちまけられるまで、ただただ2人は熱に浮かされただけのセックスをし続けるのだった。



 さて、話は数刻前に遡る。
 その日、魔界では「魔界召集」の対象になっている魔族が、ぞろぞろと魔王城に集結していた。待機室に案内された魔族達はそこここにあるソファや椅子に座り、飲み物を飲みつつ呼び出しを待つ。集まっている者はみな高位魔族の一族当主、あるいはほどなく当主になる者ばかり。短い時間ではあるが互いの近況を語り合う場になっていた。

「おお、久方ぶりだな」

「なんだ、お前も魔界召集の対象だったのか」

「ギリギリね。もう、俺が当主でいる間に魔界召集はないんじゃないかと思っていたが、今回の魔界召集は早くてラッキーだった」

「俺もだよ。頑張って子作りしないとなぁ」

「頑張りすぎて嫁を殺さないようにしろよ」

「それはお前の方だろう」

 現在、魔界と人間界は力関係がはっきりしている。その気になれば魔界はすぐにでも人間界を侵略出来るが、それを「お目こぼし」してもらっている。その代わり、人間界は魔界から「魔界召集」を命じられれば、即日各国のトップによって「魔界に嫁ぐ花嫁」が選出される。彼女達は魔界から渡された転移石によって、決められた時刻に一斉に魔界に送り込まれ、二度と人間界に戻ることが出来ない。

 今日、魔王城に集まった高位魔族は、これから転移して来る令嬢の中から1人「自分の嫁」をこれから選ばなければいけない。呑気な会話をしているが、もし、複数人が同じ令嬢を気に入れば嫁争いが発生する可能性もあるため、貪欲な魔族同士は少しばかりピリピリしている。逆に、そこまで気合が入らない「仕方なくやってきた」者は、気乗りしない様子で座っている。

「人間の女には興味ないが、一族のためだしな……」

 魔族はみんながみんな人間型というわけではない。人間型ではない魔族は「まったく違う形の生き物」を娶ることになるため、気が乗らないのに選べと言われても……と後ろ向きな気持ちで臨む。他にも「産ませたらどうせ必要なくなるからどんな女でも良い」などと思っている魔族もいるし、魔界召集に対する在り方は様々だ。

 そうまでして、人間の女性を彼らが娶ろうとするのは、魔族ではなく人間の女性の方が「強い後継者を産める」からだ。詳しくはのちのち語るが、高位魔族の当主となる者は「父親側の魔力を受け継ぐ」ことが大切で、そのためには魔力を持つ魔族の女性よりも、魔力をまったく持たない人間の女性に産ませることが望ましい。そのため、この「魔界召集」という仕組みが出来上がったというわけだ。

「おい、見ろよ。今回はジョアン執務官もいるのか……」

「サテュロス族当主もいるぞ……」

 話題にあがった2人は、室内の魔族の中でも相当若い部類に入る。ジョアンは額に3つ目の瞳を持つ一族の当主。そして、もう1人、ダリルは黒い山羊角を持つ一族の当主だ。彼らは話しながら室内に入って来ると、ソファには座らず壁に背をもたれかけて、他の魔族から距離をとっている。

「魔王様側近の2人も対象か。少しばかり若すぎるが、次があるとは限らないしな」

「今回は魔王様も対象だと聞いたぞ」

「魔王様とダリルの母親は魔族だしな。今回はさすがに人間の女に産ませたいところだろう」

「今の魔界のトップにいる者達が一斉に後継者を作ることになるとはな」

 そんな話題であちこち数名のグループで盛り上がっていると、また1人、人間型の若い魔族が部屋に入って来た。その顔を見ずとも誰が入っていたのかみな気付き、室内の空気が一気に張り詰めた。座っていた者たちも一斉に立ち上がり頭を下げる。

「いい。ここではそれは意味がない。今、お前たちと俺は同じ立場だしな。座ってくれ」

 そう言い放ったその人物は、今の魔界を統べる者、魔王アルフレドだ。黒髪に切れ長の青い瞳。美しい鼻筋に少し薄い唇。エルフのように尖った耳。いつもは黒い角や黒い翼、時には尻尾も出しているが、今日は人間の女性を怖がらせないようにとの配慮なのか、それらは全て隠している。

 彼にそう言われたからと言って同じような噂話を続けられるはずもなく、人々は一気に言葉少なくなり、そわそわしだす。やがて、狼獣人の若き当主やらスライムのような不定形な一族の当主など、数名が室内に入ると、係の者が「巨人族当主はこの部屋に入れませんが、到着していらっしゃいます。これで全員です」とアナウンスした。

 アルフレドは壁側でにやにやと笑っているダリルとその横で無表情のジョアンの元へ近づいて「アルロの嫁の件、くれぐれも頼んだぞ」と声をかけた。それは、この魔界召集の対象になっているのにわけがあって「来られない」上に代理も立てられなかった者の名前だ。

「俺は、他の者にかまっている暇はないのでな」

「わかっております」

 とジョアンは頭を下げる。ダリルは気安くアルフレドの胸を拳でトントンと叩いて

「さっさと連れ帰ってマーキングしねぇといけないし、自分を優先すりゃいいよ。『例の彼女』がいるといいな」

と小声で笑う。

 ダリルが「いるといいな」と言ったのは、魔界召集で「国から選ばれているといいな」という意味だ。

 魔界召集が発生すると、魔界側は人間界の各国に対してその国の選出人数を伝える。国のトップは、たとえ国王の葬儀中であったとしても何よりも魔界召集を優先して、即日花嫁を選ばなければいけない。人間界側としては魔界にとって唯一「上質な貢物を捧げることで誠意を見せ、魔界からの侵略を防ぐ手段」なので、爵位が高い未婚の令嬢を中心に選ばれ、当人、あるいは家門の長に通達が行く。

 魔界側は指定も出来ないし前もって誰が選ばれるかは知らされないが「どの国から何人選出させる」かを決めるための事前調査で、大まかに「候補にされるだろう」令嬢は把握している。そして、今回は『例の彼女』が対象になっているのではないか、とアルフレドは推測をしていた。

「ああ」

 アルフレドが緊張の面持ちで頷いた直後「そろそろ転移が始まる時間です。皆様、広間にご移動ください」と声が響いた。集まった魔族達は、我先に……と急ぐのはさすがに品性が疑われるため、みなゆったりと歩き出す。実際には「はやる心を抑えながら」も、それを顔に出さないように、令嬢達が転移をしてくる広間へぞろぞろと向かうのだった。
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