悪役令嬢、猛省中!!

***あかしえ

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学園編

16.寄付金は湧いてこない2

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「怪我は大丈夫なのか?」
「え? ええ、はい。すぐに冷やしたので、大事には至りませんでした」
 運ばれてきた珈琲を飲みながら、パトリックはこちらを心配そうに見てきた。治癒能力のことを、遠回しに探ろうとしているのではないよね? 隠し事をしている上に、パトリックに心配されているなんて……申し訳なさ過ぎて落ち着かない。
 大体、男同士の友情なんて分かるか。女子同士であれば、これは絶対に黙っていた方が良い案件だ。学生同士なら普通にイジメに発展するし、成人していれば殺人事件になっている事案なのだから。

 自分の家族が壊れたのは恋敵のせいで、その恋敵は手厚い保護を受けていて、なにも知らない幸せそうな顔をして、最後の希望……愛する人まで奪い、最後には己を見殺しにする――。

 菊原菜々美の基準で言えば、そこに友情なんて存在しない。
 ミーシャ・デュ・シテリンで言えば、そこにあるのは主従関係のみ。

「あの場に残ったデリア嬢がなぁ……シテリン二号になってたぞ」
「えっ?! あ、あの、それはどれ程…………!!!」
 そう言えば、マリー・トーマンと去って行くクリストフ殿下を見送った後、私は確かパトリックと会ったような……。なにした、私!?
「あいつ、まだクリスに執着してたんだな」
「デリアが?!」
 幼少の頃から、パトリックはデリアの悪行について、私に訴えていた。話半分で聞いていたつもりはないのだけれど……あんな風になっているとは思いもしなかった。完全に盲点だった。想定の範囲外だ!
 どこかでデリアを侮っていたのだろうか。彼女にできることなどたかが知れていると。デリアは私がいなければ、殿下の婚約者となっていたご令嬢だったか。
 マリー・トーマンにおかしなことをさせるわけにはいかない。

「デリアは……クリストフ殿下のことが、好き……だと?」
「女心なんか俺が知るかよ。それは、お前の方が分かるんじゃねぇのか?」
「え……」

 ――それは、どういう意味……?? 私が、クリストフ殿下を……と? いや、そんなことはない。

 パトリックはなぜ、そう思った? そう見えるような行動を私は取っていた?
 ……医療室へ行ったこと? いや違う。治癒能力を隠していることが、そう見える……のか、な?



「それにしてもお前、グニラ・オレーン嬢をどうやって懐柔したんだ?」
 人が先程の発言に動揺していたというのに、パトリックはさっさと話題を変えてきた。私も先程の話題を引きずりたくはなかったから、それに乗った。

「平和な話し合いをさせていただいただけです! 彼女の中流階級者に対する嫌悪感には……ある意味根拠と申しますか、そういうものがあったので……。
 だれかれ構わず、貧民全て死すべき! とかそういうタイプではないかと……」

 彼女は、根が素直なのだろう。私のあれだけの言葉で、彼女は冷静に状況を判断することができていた。根付いてしまった不信感は、そう簡単に拭うことはできないだろうけれど――。

「ふぅん?」

 少し、グニラ・オレーンの肩を持ちすぎてしまったかもしれない。彼女は、マリー・トーマンに危害を加えようとしていた令嬢だ。パトリックは納得しないかも……と思ったのだが、目の前の彼は私の意見に反対する素振りは見せない。

 そう言いながら、パトリックはこちらに目を向けるのだが――。
 最近するようになったというか、昔から時々は見せていた――こちらの反応を窺うような、内面を見極めようとしているような視線。落ち着かない……だから、そんなパトリックの視線から逃れるように、窓の外を眺めていると、眼下に見知った顔を発見した。


「マリー・トーマン?!」
「は?」

 さすが美少女。お約束のように風体の悪い男に、付き纏われている。







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