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学園編
76.潜入、リナウド邸
しおりを挟むやると決めたグニラ・オレーンの動きは速かった
翌日には父親に話を付け、正式に協力をこぎつけた。
学園内を跋扈している、礼儀のなっていない衛兵もどきの目を掻い潜りつつ、グニラ・オレーンの父、オレーン伯と女子寮内で作戦会議。男子禁制はこの際、父兄ということで見逃してもらおう。
何度目かの話し合いで、結論が出た。
リナウド家の使用人として働くのはあまりにも危険、というわけでオレーン伯が贔屓にしている商人として、リナウド邸に潜り込むことになった。邸に泊まり込むことはなく、近くの店から通う形で。
その間の私の護衛は、オレーン伯が手配した職人の皮を被った傭兵がしてくれることになっているらしい。過去のバイト仲間に、似たような経歴を持つ者もいた気がする。慣れずに緊張……なんてことにはならないだろう。
それにしても、公爵家の令嬢である私自ら、体を張って捜査しなければならないとは……無念。この世界にも頼れる警察のような組織が欲しかった。
「作戦の決行日は?」
女子寮内、グニラ・オレーンの隣で気配を殺しながらこちらの相談に応じていたオレーン伯が問う。
「思い立ったが吉日! 私は何時でも大丈夫!」
格言は若干通じなかったらしいが、まあいい。
「リナウド夫人が週に二、三度は服職人を自宅へ招きます。明日、貴女を数いる商人の一人としてリナウド邸へご案内します」
行程の再確認か。オレーン伯の緊張っぷりに申し訳なくなってくる。
「リナウド夫人は貴女のことを知らないでしょうが、御息女は貴女のことをご存じです。当方もお二方に距離を設けるべく、立ち回らせていただきますが、ミーシャ様もくれぐれもお気をつかれますよう」
◇◆◇ ◇◆◇
当日の朝は早かった。
学校正門から少し離れた場所に停めてあるオレーン伯が手配した、行商風の馬車に乗り、王都へ向かう。女子寮から出て正門へ向かうまで、案の定、面倒な衛兵擬きにからまれたが、逆セクハラで黙らせた。
……想像力豊かな中年たちに合掌。
王都につき、今度こそ正真正銘、服職人と共に行商の馬車に乗った。オレーン伯も共に。
「ミーシャ様、くれぐれもご無理はなさらぬようお願いしますよ」
……オレーン伯も、緊張のあまり私をその名で呼ばないように気をつけてね……とは言えない。
目的地はリナウド侯爵夫人の町屋敷。数十分で到着した。王都内・貴族街にある屋敷。ミーシャ・デュ・シテリンとして、何度か訪れたことがある。
緊張した面持ちのオレーン伯、そして正真正銘の服職人と、傭兵が化けている『なんちゃって服飾人』のさらに背後に姿を隠すようにして、私はリナウド邸への侵入を果たした!
行商人などの客人を迎えるのは、どこの家でも執事だった!
今の私たちは来賓ではないので、案内されたのは使用人区画一歩手前の待合室。リナウド侯爵夫人と直接やり取りをするオレーン伯や、代表服職人とは、ここで別れることになった。
質素な待合室に通された私の目の前には、沢山の使用人がやってきた! 誰がメイドで商人だか分からないなくなるような混乱が齎される。
座敷で雇われている使用人は、全員が全員ではないが、好きな時に王都に買い出しに行けるような状況にない。主人の感覚が、田園邸宅にいる時の延長なのか、使用人達に対しても商人を招いて、日用品を買わせるのが普通だ。シテリン家もそうだった。
今の私の肩書きは、そんな使用人用の細かな日用品などを扱う商人だ! そして、今の私の格好はどこからどう見ても、どこにでもいるメイドA! この混乱に乗じて、屋敷内を調査!
使用人達の目を欺きながら屋敷内を散策していたが、早々に使用人と遭遇した! ――まずい! と思ったのも一瞬のこと。目を合わせないよう視線を下げ、うつむき加減に会釈をして足早に通り過ぎる……ということをしていたのは私だけではなかった。
使用人達の人間関係が良くない場合……入れ替わりが激しいような職場だと「こういうことはよくある」というような話を聞いたことがあるような気がしないでもない。
でもこれはちょうど良かった。
この調子で、きな臭い場所を……秘宝をすんなり探し出すことはできないだろうけど、何かしらのヒントくらいは……!
3階建ての屋敷の場合、大体1階と2階は家族の領分。地下と3階は使用人の領域が一般的。最上階を好むようになるのは、エレベーターが設置されるようになってからかな? 学院の寮も、エレベーターがなければ最上階に公爵令嬢を入れたりはしなかっただろうし。
オレーン伯と代表職人の皆さんが、家主の気を惹いてくれている間に、リナウド侯爵の執務室を家捜しだ。1人だったら骨が折れる作業だけど、私の声を務めている例の彼とその同僚やら部下やらも加え、総勢四名。
彼らは手際がいい。
物色の手際が良いと言うと、一見すると空き巣のようだ。
けど、彼らは空き巣というよりも、日本で言うところの秘密警察……所謂、公安のような、統率が取れた特殊な訓練を受けている一団のように見える。
なんでそんな一団をオレーン伯が率いているのか……あまり深くは考えないようにしよう。
うん。ご協力、感謝。
感謝したのだけれど、書斎に目的の品はなかった。
目的の品なのだけれど、私は実物を見たことがない。彼らは見たことがあるのだろうか?
「書斎以外で考えられる場所はありますか?」
……ない、とは言えない。何となく。プロの彼らの目から見て、怪しい場所はないのだろうか?
「そうですね……盗人は、通常下部から物色します。それを承知している者が隠すとすれば、上ですね。三階の使用人区画か、屋根裏部屋……でしょうか。スペースがあるのならば、ですが」
盗人というのはこの場合、リナウド侯爵のことか。
助言に従い、リナウド侯爵の書斎から引き上げ、3階の使用人区画へ急いだ。時間は無限にない。急がないと!
この時ほど、使用人用の階段と家人用の階段が分かれていて良かったと思ったことはない。
誰に咎められることもなく、三階の使用人区画へ足を踏み入れ――。
「お前! こんなトコで何してる!」
――なんでここに……パトリックがいる?!
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