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第八章

第142話

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「ご主人・・・彼処あそこ

スゥの目線の先にはテントがあり、先客がいるのが分かった。
しかし、特に反応がない。

「誰か・・・いますか?」

スゥが近付くと、女性が2人出てきた。
双子だろうか・・・そっくりな顔から姉妹だとわかる。
だが、2人はひどく衰弱してる様子だ。

「な、何か、食うものを・・・」

「・・・水だけでもいい」

スゥが心配そうにさくらを見上げる。

「ご主人。この人たちにポトフを・・・」

「ダメだ」

「アレはまた『作ればいい』ですから・・・」

「そんな理由ではない」

さくらの言葉にスゥは必死になるが、さくらは左右に首を振るだけだ。
必死に涙を堪えるスゥの様子に、さくらは大きく息を吐く。

「スゥ。彼女たちはあの様子から何日も食事をしていないだろう。
そんな彼女たちにポトフ・・・固形物、それも魔獣肉を食わせるのは『殺すことと同じ』だ。
親切や優しさを正しく使いなさい」

〖 とりあえず『くず湯』を用意しました。
これが食べられるかどうかですね 〗

ハンドくんがお椀にスプーンを入れて現れた。

「スゥ。渡しておいで」

「はい!」

ハンドくんからお椀を受け取り、2人の女性に近付く。
そこで改めてスゥの存在に気付いたのだろう。
驚いた表情を見せたが、「食べて下さい」と渡されたお椀を受け取ると小さい声で「ありがとう」とお礼を言った。

「スゥ。戻ってこい。
目の前にいたら食いづらいだろ」

「はい。すみません」

さくらに注意されると、女性たちに頭を下げてさくらの側に戻る。

「お前たちがそいつを食えるかどうかで、いまの状態が分かる。
食事云々はそれからの話だ」

「ああ。ありがたい・・・」

2人は座り直すと一匙口に含む。
ドロリとしたものを少しずつ飲み込んでノドを通していく。

「大丈夫そうか?」

「ええ。お腹も痛くないし吐き気もありません。
ジョアンナ。貴女は?」

「わたしは・・・すこしノドが痛いけど、それ以外には何も」

「それは『炎症』だな。
回復薬はあるか?」

さくらの質問に『ジョアンナ』と呼ばれた方が首を左右に振る。

「私たちの荷物は、このテント以外全部奪われた」

「奪った連中は?」

「ボス戦に向かって行った」

「・・・このダンジョンの広さなら、もしボス戦に勝っていたら20日は封鎖されていたな」

「勝ったかどうか分かりません。
パーティから追放されたので・・・」

『パーティから追放』という言葉に、スゥの身体がビクリと反応した。

〖 スゥ。この回復薬を渡してきなさい 〗

「ついでに『正義の味方』をしておいで」

ハンドくんから回復薬を2本受け取ると、女性たちの元に向かう。
回復薬を1本ずつ渡して、2人に浄化クリーン魔法を掛ける。
生活魔法はレベルがないけど、結構上達したな。


・・・ハンドくん。

『すでに『残留組』が葉物野菜のスープを作っています』

さすがだね。・・・じゃなくてだねー。

『いまは『知らないフリ』をしていましょう。
・・・それとも、彼女たちを置いて立ち去りますか?』

それは『スゥ自身』が嫌がるだろうね。

『スゥの良さを十分知ってから、事実を明るみにしても良いでしょう。
だいたい『彼女たちは悪くない』ですからね』

シーナたちはどう思うかな?

『アレらのことはどうでもいいです。
『主人の決めたこと』に従うのですから。
イヤならこのまま『サヨナラ』しましょう。
主人さくらの言葉に従えない者は、私たちの旅に必要ありません』

ハンドくんの物言いはキツい。
でも『従者』や『奴隷』などの場合、自分たちのあるじに意見する・歯向かうなど、『あってはならない』のだ。
さくらは、たとえ『主従関係』でも相手の意見を尊重しようとする。
本来なら主人に『話しかける』など許されないことだ。
聞かれたことには『はい』か『いいえ』で答え、質問されても事実だけを話し、決して『自分の意見を言ってはいけない』。
シーナとルーナは、それを逸脱している。
ダンジョンの外に『捨てられた』時も、本来の主従関係ならすぐにダンジョンの中へ駆け戻り、主人であるさくらに謝罪して許しを乞うのが『当たり前』だ。
元々、主従関係ナシでも『何方どちらが悪い』のか?
それは『自我を失い暴走しかけた』シーナと、『指示を無視して勝手な行動を取ろうとした』ルーナの方だ。
「自分が悪かった」と反省しているのなら、すぐにでもさくらの元へ戻り、許しを乞うのが普通だ。
「迎えに来てくれる」と考えて、待っている時点で『何も反省していない』。
さらに、結界の解除にパーティからの追放と武器の変更と様々な罰を受けても、彼女たちは動こうとしなかった。
・・・『従者失格』。
彼女たちがステータスを確認していれば、すでに職業から従者が消えていることに気付いただろう。
そして、一度『失格』となったら、二度とその職業に就く事は出来ない。
彼女たちは、二度と『従者』を名乗ることは出来なくなったのだ。
・・・そのことは最初に説明された。
さくらとハンドくんから。
そして神殿で『主従契約』をする前に神官から。
2人には『契約不履行』という罪状がつく。
それは町に入るときに弾かれるような重い罪ではない。
しかし、商人の場合や新たな『主従契約』をする際に不利益となる。
『約束を破ったことがある』と記録が残るからだ。
商人の場合、契約内容にもよるが『保証金』として契約相手に『最低でも金貨100枚』を渡す。
その保証金は相手のものになるそうだ。
それを『銀馬亭』の部屋で聞いたさくらは『お代官様と越後屋』をイメージしたのか、「お主もワルよのう」「お代官様こそ」「フッフッフ」とひとり遊びを始めた。
それにあわせて、ハンドくんが〖 お代官様。此方コチラをどうぞお納めください 〗とデザートのイチゴババロアを差し出すと、さくらは嬉しそうに笑い「越後屋。お主もワルよのう」とノッた。
もちろん、その後は声を揃えて笑いあったのは言うまでもない。




神の館に残ったハンドくんたちが作ってくれた『葉物野菜のスープ』を女性たちに出すと、2人はよほどお腹が空いていたのかあっという間に完食した。

「おかわりはダメだ。
いままで水も入れていなかったハラの中に、一度に大量の食べ物を詰め込んだら・・・あとが『苦しい』ぞ」

さくらの言葉に、女性たちは物足りなさそうにしていたが、『言ってることは正しい』ので従うことにした。

「今日はもう休むんだな。
スゥ。戻ってこい。結界を張るぞ」

「はい」

スゥは2人からスープ皿を受け取り、さくらの元へ戻る。
それを確認してから、ハンドくんが『魔石の結界』を張った。
それにあわせて『覗き防止』も掛けられた。
これから食事をするさくらたち。
弱っている女性たちは料理を食べられない。
そんな彼女たちの前で『美味しそうな料理』を見せる訳にはいかない。
実際は『美味しそう』ではなく『ほっぺたが落ちるくらい美味しい』のは、今のスゥの表情が物語っている。
もちろん、さくらに至っては『ハンドくんの料理はいつも美味しい』と喜んでいる。
それは神々・・・最上位神である創造神から『お墨付き』もある。
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