113 / 791
第五章
第126話
しおりを挟む・・・ミリィが『壊れた』。
ヤスカ村で発覚した屍食鬼による襲撃。それは後の調査で『魔物の襲撃』だと判明した。その頃から、エアちゃんが自分の精神を限界まで衰弱させてまで『何か』をしていた。・・・だから、エアちゃんにそのことは言えなかった。そんなことを話す時間があるなら、エアちゃんを少しでも休ませたかった。
食堂に入って来たエアちゃんはひどい状態だった。今にも倒れそうなエアちゃんの様子にミリィが必死に止めた結果「1時間後に寝る」と約束した。1時間だけ作業をしてからテントで寝ると。約束した1時間が過ぎて私とキッカがエアちゃんの研究施設に入ると、何時ものように結界を張って中にテントを置いていた。
休憩室の机の上には『みなさんで つかって』と書かれた銀のリングが置いてあった。使い方は簡単。指輪として使うのはもちろん、全員が持っている収納カバンに入れているだけでもいいし、チェーンや紐に通して首から掛けてもいい。
「エリー。その効果は?」
「・・・魔物の瞬殺」
私の言葉に全員が驚きで声を失った。それはそうだろう。鬼才のエアちゃんが繰り出す奇想天外なアイデアや商品に慣れたはずの私でも詳細を見て驚いたのだから。
「通常の状態では起動しない。『状態異常』に陥った魔物に遭遇した場合・・・『あらゆる襲撃』が起きたと判断された場合、に・・・・・・必ず」
「エリー。・・・どうした?」
気が強い方の私が涙を落としたことに、キッカたちが慌て出した。アクアとマリンが駆け寄ってきて「「 エリー。どこかイタイ?」」と心配された。
簡単だけど、エアちゃんに『魔物の襲撃でキッカたちの知り合いパーティが死んだ』話をしたことを伝えた。そして・・・。
「オークに『知識の高いヤツがいる可能性』を聞いて、私が取り乱したことがあった。・・・エアちゃんと魔物の話をするために応接室に閉じこもった時よ」
「・・・あの、俺たちが駆けつけてもエアさんが扉を開けてくれなかった時、ですね」
「そう。あの時、エアちゃんの声で我に返ったけど憔悴しきってて・・・。エアちゃんは、そんな私を見せないために」
「そうだったんですか。あのあと見たエリーは疲れた表情でギルドに向かったから、何か大変な話を聞かされたんだと思ってました」
「ああ。あのあと『ヤスカ村と連絡が取れない』と騒ぎになったから、そのことを仮説で聞かされたんだと。それで青褪めていたんだと勝手に解釈してたな」
アルマンがそう言って、エアちゃんが作った銀のリングをひとつ手にした。
「エリー。これはエリーがこれ以上苦しまないように。そして、俺たちが『アイツらと同じ道』を辿らないように。その願いを込めて作ってくれたんだろうな。・・・あんなに倒れそうになりながら、それでも気力だけで」
そう言いながら、私の手にリングを乗せてくれた。銀色の無地になっている表面は私の顔を歪めて、まるで泣いているようだ。
「エリー。エアちゃんが急いでコレを作ったということは、いま起きていることが『魔物の襲撃』だと思って行動した方がいいってことね」
「アンジー隊長、それなんですが・・・。エアさんが考えた仮説を読んで下さい」
キッカが指輪と共に置かれていた『仮説』の書かれたメモを見せる。それをアルマンが声を出して読みだした。食堂内は息を飲む音すら大きく聞こえる。・・・それほど静まり返っていた。
「・・・エアさんの考えたことが、一番筋が通っているな」
アルマンの呟きが、私たち全員の気持ちを表していた。
私たちも色々な仮説を立てていた。
しかし、その何れもが『その場面のみ』だけで、全体を通してみると矛盾していたのだ。
『何故、屍食鬼がヤスカ村に現れたのか』
『屍食鬼の目的は?』
『屍食鬼は何処へ行ったのか』
エアちゃんの仮定は、そのすべてに答えていた。
「だとすると、彼女は屍食鬼ではなく『眠りを妨げられた死者』」
「それも死の瞬間に『夫と引き離された』ため、心を残してしまった・・・」
「安らかな眠りに導くには、『旦那が埋葬された場所の特定』だけど。フィシス、旦那の墓が何処にあるか分かる?」
何やら考え込んでいるフィシスに声を掛けると「たぶん」とだけ答えた。
「たぶん・・・彼処よね」
「私も・・・たぶん同じ場所を思い出してる。・・・だけど、彼処に墓はない」
シシィとアンジーも顔を見合わせている。
「其処は何処!」
「・・・晦がり渓谷」
ミリィの答えに誰もが眉間にシワを寄せた。
『晦がり渓谷』
王都に続く街道の脇道に岩場がある。昔は其処に渓谷があり日中でも薄暗かった。それを良いことに、盗賊団が隠れ家を作って街道を行く旅人を襲っていた。人々は遠回りをしていたが其方を行けば半月以上多く日数がかかる。そして、この道を行けば必ず襲われる訳ではない。2~3ヶ月の内、1回か2回。当時の人たちの感覚では『運がなかった』で済まされる回数だった。
しかし、それが災いした。
領地に帰っていた領主が王都に向かう馬車を襲って殺してしまったのだ。それも『王族』を。
時の国王は晦がり渓谷の盗賊を根絶やしにするように命じた。命じられた討伐隊は皆殺しにした。
・・・身代金目当ての人質と、攫われてきた女性たちも一緒に。
そして、討伐隊は渓谷を壊して証拠を隠滅した。
「追い詰められた盗賊が人質たちを道連れに渓谷を爆破した」
彼らは王都に戻るとそう報告した。しかし、そんな嘘はあっさり見破られた。
「人質がいるなど聞いていない」
「お前たちは『人質が何人いる』と何故分かったんだ?」
「人質のフリをした盗賊の可能性は?」
連日の取り調べで、討伐隊のひとりが自供した。そして、自供通り岩を取り除いた下から『炭化した骨』がいくつも見つかった。しかし、盗賊と人質たちの骨の判別がつかず、さらに触れれば崩れてしまうため回収を断念し、その地を埋めて『合同墓』とした。
・・・今でも被害者の残留思念が残り、時々姿が現れるといわれている。
133
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
貴方が側妃を望んだのです
cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。
「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。
誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。
※2022年6月12日。一部書き足しました。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
史実などに基づいたものではない事をご理解ください。
※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。
表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。
※更新していくうえでタグは幾つか増えます。
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
よかった、わたくしは貴女みたいに美人じゃなくて
碧井 汐桜香
ファンタジー
美しくないが優秀な第一王子妃に嫌味ばかり言う国王。
美しい王妃と王子たちが守るものの、国の最高権力者だから咎めることはできない。
第二王子が美しい妃を嫁に迎えると、国王は第二王子妃を娘のように甘やかし、第二王子妃は第一王子妃を蔑むのだった。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。