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第六章
第173話
しおりを挟むある日の朝、ダンジョン都市に長い行列ができていた。不定期かつここ数ヶ月休業していたエミリアの店が、開いていたからだ。
……そう、過去形。すでに終了している。店内に入れるのが五人までという入場制限に加えて、一点につき一人一個という購入個数制限までかけられたにもかかわらず、開店から一時間で『本日終了』となったのだ。
完売したからではない。
「購入制限を撤回するか、私には多めに売れ!」というバカが現れたからだ。それに同調して「まとめて買ってやるんだから安くしろ」という者まで現れた。
この二人は店の外に街灯よろしく吊り下げられている。逆さまになっていないため、守備隊も警備隊も助ける気はない。街灯代わりになっているのは植物のツタが集まったものだ。それだけで「これは地の妖精による罰だ」と誰もが把握した。吊られた女性二人は、定期的に上下に振られたりグルグル回されている。しかし、ひと言も謝罪を口にしていない。気絶しているのではなく「早く終われ」と願っているだけで、自分が悪いと反省していないからだ。
そんな様子を二階の部屋から見ている集団がいた。
「ミリィ……アレっていつもなの?」
「そう。エミリアちゃんはこの大陸で守られるべき聖魔師なのに、見下す連中が多くて。妖精たちがエミリアちゃんを守ろうとして過激になるのはそれが理由なの」
フィシスの問いにミリィは説明をする。
「この国の王都に行ったけど、城門の中は酷かったぞ」
「ああ。セイマールのようだった」
ユージンとサリーが、ひと月前に調査で行った王都を思い浮かべた。王城ですら簡素化されたものだった。
「ああ、アレか。あれはエミリアに対してバカなことを考えた貴族たちがいてな。そいつらが送った強盗団が捕まった時に「貴族に歯向かう方が悪い」と言ったらしい。まあ、王都の連中も、何度も悪事を繰り返しては反省しなかったから、怒った妖精たちが王都を砂にしたんだ」
「でも、大事な記録だけ残したみたいよ。あとのものは砂と共に消えたって」
「……国王は若いんじゃないの? 男性も女性も、髪が綺麗になくなっているけど」
「それも妖精たちの仕業さ。ピピンたちを盗撮にきた連中がエミリアにケンカを売って捕まったが、さらに詰め所でエミリアを襲ったため、妖精たちを怒らせたんだ。それまでのこともあったから報復で……王城が砂になったのはあの時が最初だったな。ついでに、落雷が雨のように降り注いで、止んだら今度は水没。あれから何ヶ月もたっているが、王都の連中は今でも悪夢で苦しんでいるようだな」
「……それでいいのか?」
ルーバーの言葉に驚きの声をあげるエリー。
「エリー。ここは国から独立した都市だ。手を出さなければ問題はない。逆に下手なことをすれば滅ぶ」
「昨年、隣の国が滅んだ。理由は『妖精たちを捕まえて消滅するまで妖力を使わせてきたから』と言われている。そして、それに聖魔師が関わっているらしい。それがエミリアか、最近になって大陸を離れた男性かはわからない。だが、聖魔師が現れて、妖精たちが救われたのは間違いない」
「そういえば、記憶をなくして倒れていた男が昨年保護された。今は守備隊に入っているが……。妖精は記憶を消せるらしいがそんなことが可能だろうか」
「ありえるが、その場合『妖精に害意がない』ことが最低条件だ。……あの国にそんな者がいたとは思えないが」
「いや、いたかもしれない。だから、エミリアちゃんが関わった王国に記憶を消して送った可能性もある」
ルーバーの言葉を否定するように、ミリィが言葉を紡ぐ。たしかに、ミリィの言う通りかもしれない。
「エミリアちゃんが関わっているなら、遠く離れたエイドニア王国に送られたのも納得できるわね」
アンジーの言葉の後、「わぁ‼︎」と言う声が聞こえてみんなの視線がエミリアの店に集中した。吊り下げられた女性たちがグルグルと激しく振り回されていた。そしてそのまま『ぽーん』っと投げ飛ばされた。
「あれは警備隊の詰め所に飛んだな」
ルーバーが女性たちが飛んでいった方を見て呟いた。警備隊の方でも、魔導具のネットが空に大きく広げられて、飛んできた女性たちを受け止めていた。
「反省しなかったから飛ばされたんだ。連中はこのまま罰金刑、もしくは懲罰を受ける」
「その差は何?」
「商人や職人の身内の場合。エミリアちゃんってポンタと契約しているはずよ。だから同業者に迷惑をかけたと判断されるわ。あとは、エミリアちゃんが録画したのを送ってるはずだから、それを確認した警備隊や守備隊が悪質と判断した時。そして、そこに貴族が関わっていた場合、もっと酷い結果になる」
「ここでは貴族は嫌われ者だからな。貴族が関わっただけで徹底的に潰される。王都でも、今は貴族たちのせいで砂にされたことは知られているから、ただではすまない」
エミリアちゃんの店に並んでいた人たちが列を崩し出した。
「ああ、閉店した状態で昼になったら、今日はもう開けない。それは前からの決まり事だ」
「混乱は起きないの?」
「そんなことしてみろ。エミリアは二度と開けないぞ」
開けた窓からは人々の不平不満の声が聞こえたが、その相手はエミリアではなく、警備隊詰め所に飛ばされた女性たちへ向けてだった。
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