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第七章
第216話
しおりを挟む《 朝で~す。花にお水をあげましょ~ 》
水の妖精が小さな如雨露で、檻の中にいる男たちの頭に水をかけている。それはもう楽しそうに。
《 お日さまだよ~ 》
光の妖精が檻の中を太陽の光で明るくする。それはもう嬉しそうに。
檻の中は都長が黒こげになった二十一人目で打ち止めになったが、その頃から十二人も減って今は九人だけになっている。めでたく、隣の檻でエサになった……のではなく、『聖魔士ギルド』が引き取りに来たのだ。
「聖魔士はその特異性から問題に巻き込まれる者もいます。そこのみたいに『聖魔士くずれ』になるものも。そんな彼らを取り締まり、裁くのが我々聖魔士ギルドの存在理由です」
引き取りにきた『聖魔士ギルドの職員たち』との話し合いになぜか私まで呼ばれた。
「なんで私まで」
「エミリアじゃないと連中を引き渡せないだろ」
檻の封印をしているのは『聖魔士くずれ』だけだ。そう言ったが「あの頭の説明が必要だろう」と言われた。ちなみに妖精たちには『何があるかわからないから涙石から出ない』と約束済みだ。もちろん私の方も、都長補佐改め新都長から『何かあれば何をしてもいい』という大雑把だけど超強力で無敵な言質は取ってある。
「あの……聞いていますか」
「…………ウゼエ」
「え? ……あの」
「それで、その聖魔士ギルドから彼らの身柄を引き取りに来られたのですね。ですが、彼らは罪人です。追放処分という形だけで解放することはできません」
「ええ、わかっています。ですが、彼らは聖魔士ギルド所属です。我々でも厳しい罰を与えるつもりです」
職員の言葉に一瞬で機嫌が悪くなった私の代わりに話しかけるミュレイ。職員たちは私の様子を窺うようにチラチラと見ながらミュレイ相手に話を続けている。そんな私にシーズルが小声で話しかけてきた。
「エミリア。もうイヤか?」
「……斬り刻むか帰りたい」
「じゃあ、ダイバのところで待ってろ。今はダンジョン管理部にいる」
「わかった」
私が黙って席を立つと男たちも「待ってください!」と慌てて立ち上がった。
「彼女には急用ができて行ってもらうことになった」
「それは、我々との話し合いより大切なことですか!」
「当たり前 」
「人命に関わることだ」
シーズルの言葉に動きを止める男たち。自分たちのわがままで私を足止めして、もし人命が喪われたら賠償問題では済まなくなると思ったのだろう。
たしかに、このままここにいれば私は彼らを斬り刻み、『聖魔師を手に入れようキャンペーンの地獄ふたたび』が始まる。残念ながら今は初夏。しかし日中は三十度を超えている。深さ五メートルもあるガラスの中のプールは、温泉気分で気持ちいいだろう。ただし、塩水は蒸留を繰り返して塩分濃度が増していく。今まですべてが『塩分濃度増し増し』になった。そうなると傷口に滲みる痛みで気絶しても沈むことはない。『死海』の誕生だからだ。ただ見た目は死屍累々の惨劇の舞台になる。
……シーズルの言葉どおり、間違いなく人命に関わることだ。
「あとはよろしく~」
「はい。わかりました」
ミュレイの返事に左手をあげてから、話し合いの場所として提供されている守備隊の詰め所を出た。
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