私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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第十章

第478話

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「これからも……呼ばせてください。お義父とうさん、お義母かあさんと」
「……シエラちゃん」

ここにいびつな家族関係が誕生した。
ノーマンの裏切りがなければ知らずにいたであろうこと。いまシエラの隣で寄り添っているのは、もちろんノーマンではない。それは竜人が長命だからこそ。竜人と短命の人間が結ばれても、残されるのは竜人だ。先に死んでいて、残された竜人に「自分を思って再婚しないでくれ」と言えるはずがない。そんなことを言えば種別差別で魂が穢れる。

「シエラは竜人だ。当然っちゃあ当然だな」

スワットが納得したように頷く。

「そうね。この先長い人生をノーマンだけ想って生きてくれなんて言えないわ」
「それもそうだ。先に裏切ったのはノーマンだ。遅かれ早かれだろう」

スワットの妻、彼女はノーマンのことを怒っている。怒っているというより暴走しかけていた。

「女神に誑かされて私たちを裏切っただとー!!! それにシエラまで裏切っただって! なにい、ダイバとエミリアにプロポーズの協力を頼んだその足で女神の尻についていったというのか!!! 見つけ出して八つ裂きにしてやる!!! ええい、邪魔するなぁぁぁ!」
「アカエラ、外は冬だ」
「……仕方がないわね」

スワットのひと言で暴走は止まった。アカエラは寒さに弱い、だから暴走は止まった。息子たちはそう思っている。ただ、息子たちに気付かれていないがアカエラは寒さに弱くない。弱いのはスワットの方だ。しかし、アカエラはスワットを立てて『自分が弱い』と思わせている。惚れた弱み、というものだ。

「それにしても……胎のその中にノーマンがいるのか?」

ノーマンの従弟シューマンがシエラの下腹部に目を向ける。まだ目立たないから実感はないのだろう。

「ええ。すでに『エルフの祝福』は受けました」
「ついでにまた女神が現れてホイホイついていかれると迷惑なんで、鑑定不可のブレスレットもつけてもらった」
「そこまで……バカか」
「ええ、バカです」

シエラの一貫とした厳しさに苦笑しかでてこない。一度女神の手にかかっている以上、その危険性は言わずもがな。

「で、いいのか? こんなバカが息子として生まれてくるんだぜ」
「かまわない。いいじゃないか、アイツは息子で俺はシエラの夫。これからも俺には敵わないのさ」

シューマンの言葉にふと引っかかったため、そばにいたダイバに確認する。

「ねえねえ、ダイバ。ノーマンはハーフになる?」
「まあ、そうなるか? オヤジ、どうなるんだ?」
人間ひとの魂に竜人シエラの魔力が混じるだけでハーフではない。数十年程度長生きできるかもしれんが」
「魂がリセットされてないから、使い古しのままならノーマンとして使った年月が差し引かれて短くなるよね」
「そこに竜人の分が加わるから、ちょうど差し引きゼロになるか」

シエラに想いを残して生まれ変わるノーマンだから、シエラに対する記憶が戻るのではないか? それこそ生まれ変わってシエラにプロポーズの続きを……新婚生活を始めようとか。そんなことを考えていたとしたら……

「マジでキモいんだけど」
「大丈夫、大丈夫。成人までの間に弟妹きょうだいをたくさんつくって、入り込む余地を叩き潰しておくから」
「ふふふ。その分稼いで養ってくださいね、シーズル」

ノーマンが誕生と同時に地獄に叩き落とす算段はつけられた。

「ノーマンも、恋のライバルシーズルと約束してたんだぜ。『人間の自分の方が先に死ぬから、そのあとのシエラを頼む』って」
「その二人の子供として生まれて、ラブラブのイチャイチャを一番身近で見せつけられるのって……究極の嫌がらせだよね」
「……ああ」
「ねえ、ダイバ」

声をひそめてダイバに呼びかける。

「なんだ?」
「もしかして、その嫌がらせのためだけにとか言わないよね。でも、それだったらあのときノーマンが言った『俺をうんでくれ』に対しての即答とか……納得できちゃうんだけど」
「そういえば、シーズルも大人しかったよな」
「もしかして…………共犯?」

新生ノーマンが旧ノーマンだった頃の記憶を思い出さないことを祈ろう。
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