Another World

第一章

水と容器

最初は、普通の夫婦でした。
それがいつからでしょう。
些細な喧嘩は、激しさを増していったのです。
「私と仕事と、どっちが大事なのよ？」
奥様は怒りからか、涙をため叫びます。
「俺が働かないと、生活していけないだろ？」
旦那様のおっしゃる事は、もっともです。
旦那様がいなければ、日々の生活も奥様のエステも困ってしまうでしょう。
ですが、奥様の耳には届きません。
「そんな事いって、浮気してるんでしょう!?」
奥様は叫び続けます。
あいつはヒステリーを起こすと、手がつけられない。
あいつの気が済むまで、時間が早く過ぎるのを祈るだけさ。
そう、旦那様がおっしゃっていたのを、私は思い出しました。
おまえみたいな、物静かな奴がいいよ、そうおっしゃって下さった事も。
奥様は怒り続け、気の済むようになさいました。


そして、私は旦那様を手に入れたのです。
誰でしょう？
私の事を移り気だと言ったのは。
奥様のほうが、よっぽど移り気です。
ご安心下さい、旦那様。
私は一途なのです。
奥様によって、私の元に埋められた旦那様が、骨になり土にかえっても愛し続けます。


庭に埋められたアジサイは、鮮やかに色を変えていく。