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異世界
始動
しおりを挟む本格的に鞄の販売を始めるにあたり、鞄を少々改良することになった。
あれからルーペリさんと話し合いという名の助言を貰い、サイズはもう二回りほど大きく、革もハックボアからアンティークボアに、糸もオルダースパイダーの育み糸からマユリダの錦糸に素材に変更して《収納》の容量を3倍ほどまでに増やした。
紐を巻き付けていただけの鞄の開閉もベルト式に変える事にし、耐久性も上げた。
素材をかなりいいもの変えたお陰で完全に赤字になったのだが、ルーペリオさんはここは絶対に初期投資をするべきと力説し、ジンクスさんに掛け合って出資をしてもらった。
作り方は変わらないので、それから3日かけて同じ物を五個程拵えた。
当然、出資者のジンクスさんには鞄の完成報告をしに行った。
その時、ジンクスさんは驚きで顎を外しかけ、ルーペリオさんの反応はあれでもかなり冷静だったのだと知った。
一番大変だったのは値段設定と販売方法だった。
諸経費に関してはザッと金貨10枚。
そこに諸々の雑費も上乗せし、利便性と需要の高さを考慮した金額を足す。
ただし、アホな輩に転売されないような金額で、今後偽物が出回っても私に何の影響も出ない金額にする必要があるのだとか。
「なので、金貨100枚は妥当だと思われます」
「…」
「いや、それだと店頭販売が難しいと何度も言っているだろう!」
「そもそも、店頭販売が妥当ではないと思いますが」
「じゃあ、どうするっていうんだ!」
こんな感じの押し問答が1日中続き、夜になっても終わらない問答に見兼ねたリンリンさんが素晴らしい適任者を連れてきてくれた。
「リザさん、お困りのようですね?」
「フィオデナルドさん!」
「二人ともリザさんを困らせないでください」
「「申し訳ございませんでした」」
双子ばりに声を揃えて、梨沙に謝罪する二人に思わず声を漏らして笑う。
それから二人は冷静にフィオデナルドに鞄の説明と現状を話す。
フィオデナルドも鞄を見た時はジンクスさん程では無いものの普段の様子とは別人のようにかなり驚いていた。
「私の見解だと値段は全てを考慮して金貨200枚は妥当だと思います」
「…に、200枚!?」
これまで黙って聞いていた私も思わず声を上げる。
「私はこの鞄にならそれだけ出せますし、多分、他の冒険者もそのくらいなら出します」
「そんなにか…」
「私の予測よりもはるか高いですね」
「二人とも二つ大事なことを忘れています」
フィオデナルドはそういうと、笑顔から真剣な表情に変える。
まず一つ目。
私が貴族と関わりたく無いということ。それが値段を釣り上げるのにどう関わってくるかというと、簡単に言えば費用対効果だという。
貴族は珍しいだの、流行だのが大好きでこの鞄もそれに該当する。だが、反対に貴族には見栄も大切で、例えば遠出をする際に帯同する馬車が少ない=荷物が少ない=お金がない、と見られてしまうのだとか。何とも不憫な話しだ。
金貨200枚は貴族でも伯爵階級以上でなくてはなかなか手が出せない。無理して買うと自慢は出来ても見栄を張れなくなる。
二つ目。
ここがダンジョン都市であるということ。
初めは何を言い出すのかと思ったが、こっちの話しの方が私は興味が惹かれた。
現在フローネには上級と言われているダンジョンが三つある。そのどれもがまだ攻略途中でここ32年は攻略が止まったままなのだとか。
その原因の一つに物資の問題がある。
ダンジョンは基本的に10階層毎にワープポータルが存在していて、自身が進んだ階層までしか飛ぶ事はできない。
階を下がるごとに強くなっていく魔物に対応するためにはポーションなどのそれなりの物資や武器の予備などが必要で攻略組はどんなに高くても皆、《収納》の指輪ないし腕輪を持っているそう。
「煉獄は67階層、深海は65階層、森林においては49階層…どれも後半の階層で物資が足りず苦戦を強いられています。そこに何のリスクもないこの鞄が有ればどうなると思いますか?」
「「…」」
「言うまでもありませんね」
二人は言葉を無くしたわけではなく冷静に考えを巡らせているようだ。
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