12 / 387
駆け出し転生者ウタ
五月雨
しおりを挟む
「ささ! 好きな席に座って! おぉ! スライムじゃないか! かわいいなぁー使役してんのか?! で、なに食べる? おすすめは玉子サンドだよ!」
「え、あ、じゃあそれで」
「はいよぉ!」
おずおずと店に入り、お座敷になっている席の一角に座る。お座敷と言っても掘りこたつのようになっていて、正座せずに座れる。ほとんどが四人掛けだが二人席もあって、僕は二人席の方に座った。
朝早いということもあってか、店内には僕しかいない。すっと鼻をつく木の匂いが懐かしい。初級氷魔法を発動させ、スラちゃんにご飯をあげつつ、そんなことを考える。
……なんか、母親の実家にでも帰省した気分だ。なにこれ。すごく安心する。今まで全く知らない世界で戸惑っていたのに、急に日本。とてつもない安心感だ。
「はいよ! 玉子サンドおまち!」
「はやっ!」
「へへ。早さとうまさが売りなもんでな。まぁ食ってみぃ、うまいからよ」
食パンにだし巻き玉子を挟んだだけのような素朴な玉子サンド。お皿に並んだ三つのうち、ひとつを手に取り口に運ぶ。
「うまっ!」
「だろだろ?」
とても懐かしい味がした。フワフワした玉子とパン。二つの味が合わさって、素朴ながら絶妙なバランスを生み出している。
「本当に美味しいです! 玉子も、出汁が効いてていいですね!」
「出汁……にいちゃん、出汁って言ったか!?」
「え?! あ、はい。言いましたけど……」
な、なんだろう。なにか僕、変なこと言ったかなぁ。と、そう思っていると、
「お前、日本人か!?」
「え!? あ、はい!」
反射的に答えた瞬間、玉子サンドを持っていない方の手を握って、上下にブンブン振られた。
「やったぜ! やっと日本からの転生者か! 寂しかったんだよぉ、俺は!」
「ちょ、ちょっと一旦落ち着きませんかぁ!?」
おじいちゃん……立石彰人さんの話によると、彰人さんは30年前、ここに転生したらしい。魔物を倒すのはあまりにも筋が悪く、諦め、ここで喫茶店を開くことにした。
転生者が多いこの地なら同じ日本人も現れるかと思い、店内を分かりやすいこの装飾にしたらしいが、30年間日本人の転生者が現れることはなく、諦めかけていたときに僕が来たと、そういうことらしい。
「黒髪黒目でも日本人じゃなかったりしたからよぉ……。ま、俺の髪はもう白いけどな! でも、出汁が通じて、もしかしてって思ったら、やっぱそうなのかぁ! 日本は出汁文化だもんな! いやー、待ったかいがあったぜ! 柳原羽汰、良い名前じゃないか!
まぁまぁ、ゆっくりと話そうぜ、な?」
「はぁ」
彰人さんは僕の向かい側の席に座り、にこにこしながら僕に話しかける。……た、食べにくい。
「俺がこっちに来たのは平成元年のことだけどよ、なんか変わったことあったか?」
「まぁ、いろいろありましたね。僕がよく知っているところだと……あぁ、大きな震災がありましたよ、世界的な規模の、本当に大きいやつ」
「なんだって? 一体どこで?」
「東北の方なんですけど、かなりの被害が出て……」
「…………そうか。明るい、話題はないか?」
「えっと……あ! その震災のあとに、東京五輪の開催が決まりましたよ!」
「本当か!? いやぁ、見たかったなぁ!」
「はい、僕も見たかったです」
「見ずにこっちに来ちまったのか?」
「はぁ」
「そりゃ災難だったな」
「あっ、あと、和食がユネスコの無形文化遺産に登録されたりとか」
「和食が!?」
「はい。あ、そうですよ! 消費税が8%になったんですよ!」
「うわそれ本当か? 俺らのときは確か3%……というか、元々無かったからなぁ」
「……ていうか、今年、平成最後なんですよ」
「ぬぁ?! て、天皇陛下が亡くなられたのか?!」
「いや、そうじゃなくて、生前退位って言って――」
そんなジャパニーズトークをしながら玉子サンドを食べ進め、あっさりと完食。美味しかった、普通に。
「……ていうか、僕と話してる間、人一人も来ませんでしたね」
「この時間は少ないのさ。来るとしたらアリア様とエマちゃんくらいだね」
そういえばよく来ると言っていた。
「実は僕、今、アリアさんのところにお世話になっていて」
「アリア様のとこか! いいねぇ、思春期の男の子には刺激が強いんじゃないのか?」
「やめてください!」
それから一息ついて、落ち着いた口調で、彰人さんは語る。
「アリア様は、良いお方だよ。誰にでも親切にしてくださる。この国のみんな、アリア様が大好きさ。彼女の身になにかが起こると知ったら、迷わずに助けにいくだろうさ。
……だって、アリア様ならそうするだろう?」
「…………そうですね」
「ぷるぷるっ!」
アリアさんは、いい人だ。それは分かっている。会って二日も経っていない僕にだって、分かる。
「な、羽汰。あれでいて、寂しがりやみたいなんだ、アリア様は」
「そうなんですか?」
想像できない。僕の中のアリアさんは、ひたすらに強かった。
「あぁ。だから、アリア様の側にいてやってくれ。アリア様は断るだろうが、その方が、きっといい」
だから、
「少し、考えさせてください」
すぐには返事ができなかった。
ヘタレな僕とアリアさんじゃ……僕なんて、頼りがいもない。
「僕じゃあ……アリアさんに、頼りっきりになってしまいますから」
「……そうか」
少し悲しそうに笑う彰人さんの顔が、やけに脳裏に焼き付いた。
◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈
「お会計、銅貨1枚鉄貨2枚だよ」
「結構高いー!」
「こういうところはちゃっかりしてるのさ」
「え、あ、じゃあそれで」
「はいよぉ!」
おずおずと店に入り、お座敷になっている席の一角に座る。お座敷と言っても掘りこたつのようになっていて、正座せずに座れる。ほとんどが四人掛けだが二人席もあって、僕は二人席の方に座った。
朝早いということもあってか、店内には僕しかいない。すっと鼻をつく木の匂いが懐かしい。初級氷魔法を発動させ、スラちゃんにご飯をあげつつ、そんなことを考える。
……なんか、母親の実家にでも帰省した気分だ。なにこれ。すごく安心する。今まで全く知らない世界で戸惑っていたのに、急に日本。とてつもない安心感だ。
「はいよ! 玉子サンドおまち!」
「はやっ!」
「へへ。早さとうまさが売りなもんでな。まぁ食ってみぃ、うまいからよ」
食パンにだし巻き玉子を挟んだだけのような素朴な玉子サンド。お皿に並んだ三つのうち、ひとつを手に取り口に運ぶ。
「うまっ!」
「だろだろ?」
とても懐かしい味がした。フワフワした玉子とパン。二つの味が合わさって、素朴ながら絶妙なバランスを生み出している。
「本当に美味しいです! 玉子も、出汁が効いてていいですね!」
「出汁……にいちゃん、出汁って言ったか!?」
「え?! あ、はい。言いましたけど……」
な、なんだろう。なにか僕、変なこと言ったかなぁ。と、そう思っていると、
「お前、日本人か!?」
「え!? あ、はい!」
反射的に答えた瞬間、玉子サンドを持っていない方の手を握って、上下にブンブン振られた。
「やったぜ! やっと日本からの転生者か! 寂しかったんだよぉ、俺は!」
「ちょ、ちょっと一旦落ち着きませんかぁ!?」
おじいちゃん……立石彰人さんの話によると、彰人さんは30年前、ここに転生したらしい。魔物を倒すのはあまりにも筋が悪く、諦め、ここで喫茶店を開くことにした。
転生者が多いこの地なら同じ日本人も現れるかと思い、店内を分かりやすいこの装飾にしたらしいが、30年間日本人の転生者が現れることはなく、諦めかけていたときに僕が来たと、そういうことらしい。
「黒髪黒目でも日本人じゃなかったりしたからよぉ……。ま、俺の髪はもう白いけどな! でも、出汁が通じて、もしかしてって思ったら、やっぱそうなのかぁ! 日本は出汁文化だもんな! いやー、待ったかいがあったぜ! 柳原羽汰、良い名前じゃないか!
まぁまぁ、ゆっくりと話そうぜ、な?」
「はぁ」
彰人さんは僕の向かい側の席に座り、にこにこしながら僕に話しかける。……た、食べにくい。
「俺がこっちに来たのは平成元年のことだけどよ、なんか変わったことあったか?」
「まぁ、いろいろありましたね。僕がよく知っているところだと……あぁ、大きな震災がありましたよ、世界的な規模の、本当に大きいやつ」
「なんだって? 一体どこで?」
「東北の方なんですけど、かなりの被害が出て……」
「…………そうか。明るい、話題はないか?」
「えっと……あ! その震災のあとに、東京五輪の開催が決まりましたよ!」
「本当か!? いやぁ、見たかったなぁ!」
「はい、僕も見たかったです」
「見ずにこっちに来ちまったのか?」
「はぁ」
「そりゃ災難だったな」
「あっ、あと、和食がユネスコの無形文化遺産に登録されたりとか」
「和食が!?」
「はい。あ、そうですよ! 消費税が8%になったんですよ!」
「うわそれ本当か? 俺らのときは確か3%……というか、元々無かったからなぁ」
「……ていうか、今年、平成最後なんですよ」
「ぬぁ?! て、天皇陛下が亡くなられたのか?!」
「いや、そうじゃなくて、生前退位って言って――」
そんなジャパニーズトークをしながら玉子サンドを食べ進め、あっさりと完食。美味しかった、普通に。
「……ていうか、僕と話してる間、人一人も来ませんでしたね」
「この時間は少ないのさ。来るとしたらアリア様とエマちゃんくらいだね」
そういえばよく来ると言っていた。
「実は僕、今、アリアさんのところにお世話になっていて」
「アリア様のとこか! いいねぇ、思春期の男の子には刺激が強いんじゃないのか?」
「やめてください!」
それから一息ついて、落ち着いた口調で、彰人さんは語る。
「アリア様は、良いお方だよ。誰にでも親切にしてくださる。この国のみんな、アリア様が大好きさ。彼女の身になにかが起こると知ったら、迷わずに助けにいくだろうさ。
……だって、アリア様ならそうするだろう?」
「…………そうですね」
「ぷるぷるっ!」
アリアさんは、いい人だ。それは分かっている。会って二日も経っていない僕にだって、分かる。
「な、羽汰。あれでいて、寂しがりやみたいなんだ、アリア様は」
「そうなんですか?」
想像できない。僕の中のアリアさんは、ひたすらに強かった。
「あぁ。だから、アリア様の側にいてやってくれ。アリア様は断るだろうが、その方が、きっといい」
だから、
「少し、考えさせてください」
すぐには返事ができなかった。
ヘタレな僕とアリアさんじゃ……僕なんて、頼りがいもない。
「僕じゃあ……アリアさんに、頼りっきりになってしまいますから」
「……そうか」
少し悲しそうに笑う彰人さんの顔が、やけに脳裏に焼き付いた。
◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈
「お会計、銅貨1枚鉄貨2枚だよ」
「結構高いー!」
「こういうところはちゃっかりしてるのさ」
0
あなたにおすすめの小説
3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜
幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。
転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。
- 週間最高ランキング:総合297位
- ゲス要素があります。
- この話はフィクションです。
【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する
ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。
きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。
私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。
この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない?
私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?!
映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。
設定はゆるいです
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜
伽羅
ファンタジー
【幼少期】
双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。
ここはもしかして異世界か?
だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。
ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。
【学院期】
学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。
周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
悪徳領主の息子に転生しました
アルト
ファンタジー
悪徳領主。その息子として現代っ子であった一人の青年が転生を果たす。
領民からは嫌われ、私腹を肥やす為にと過分過ぎる税を搾り取った結果、家の外に出た瞬間にその息子である『ナガレ』が領民にデカイ石を投げつけられ、意識不明の重体に。
そんな折に転生を果たすという不遇っぷり。
「ちょ、ま、死亡フラグ立ち過ぎだろおおおおお?!」
こんな状態ではいつ死ぬか分かったもんじゃない。
一刻も早い改善を……!と四苦八苦するも、転生前の人格からは末期過ぎる口調だけは受け継いでる始末。
これなんて無理ゲー??
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる