14 / 387
駆け出し転生者ウタ
後ろ姿
しおりを挟む
いつだったろう……小さいときに、魔物に襲われたことがある。当時の私のレベルは、2。対して、現れたウルフたちはレベル30で四匹もいた。
必死になって逃げ回るうちに、どこが街への道なのかも分からなくなって、途方にくれた。
崖は、下からみると、巨大な石の怪物だった。それを背にして四匹のウルフに追い詰められた。じりじりと間合いを詰められ、もう、ダメだと思った。
人生ではじめて『助けて』と口にした。助けて、助けて、と。必死に叫んだ。視界には涙が滲み、全てが歪んで見えた。怖くて怖くて、ぎゅっと目を閉じた瞬間、ウルフが私に飛びかかるのを感じた。
『……大丈夫、ですか?』
『…………え?』
固く閉じた目を開けると、そこには、私と同い年くらいの、一人の少年が笑っていた。青く、透き通るような髪とアメジスト色の目。彼は、不可能を可能にする、奇跡を起こせる人物だった。
私に飛びかかろうとしたウルフたちは、みんな、空中で制止していたのだ。驚いて目を丸くする私に、彼は言った。
『助けてって、聞こえたんで』
『え……あ……』
『今から時間を動かすけど、大丈夫。僕が全部倒すから』
そして、彼が私に背を向けると、時間は動きだし、ウルフは勢いを留めることなく襲いかかってくる。
その首を、彼はたった一本の剣だけで落とした。血飛沫が舞い、とても平和とは言えない幼い記憶の中で、彼の後ろ姿だけが、力強く輝く太陽となっていた。
彼は、私の英雄になった。
『……えっと、ありが、とう』
『どういたしまして。アリア様……ですよね?』
『え、あ、うん』
『お屋敷まで送りますよ! 行きましょう!』
……あいつは、強かったなぁ。どんな相手でも物怖じせずに立ち向かっていった。姉とは違って真面目だし。
婚約……となったときには、恥ずかしいのと嬉しいので、どうにかなりそうだった。でも、あいつも嫌じゃなさそうで、安心した。
あいつみたいになりたくて、あいつと一緒にいて、遜色ない人間になりたくて、レベルをあげ、頑張ったつもりだった。
でも結局、無理だった。歯が立たなかった。
真っ黒い鱗を持ったドラゴン。あんなのが街にいったら、今度こそ……。そう思って、倒そうとした。加護を使って、水魔法の熟練度をあげた。でもびくともしない。傷一つ付かない。気がついたら……視界が、ひっくり返っていた。
吹き飛ばされた先にあったのは、皮肉にもあの崖で。石の壁に打ち付けられ、意識が持っていかれそうになる。
今、あいつはここにいない。
それでも……私が、強く求めているからだろう。
「アリアさんっ……アリアさん!」
目の前にいる『こいつ』は『あいつ』の幻だ。
◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈
「……ウ、タ…………」
「アリアさん! よ、よかった……。いや、状況考えてよくはないけど、とりあえず、生きててくれて本当によかったです!」
「ぷるぷるっ!」
吹き飛ばされ、壁に打ち付けられたアリアさんにかけより、何度も呼び掛け、ようやく返事が聞けた。それだけでも、大きな安心になった。
……見かけには、とても無事とは言えなかった。アリアさんの左足には大きな傷があり、今でも血が滴っている。一瞬気が遠くなったがスラちゃんが起こしてくれた。ありがとう、本当に。ここで寝たらマジで永眠だわ。
「逃げますよ、アリアさん! 僕、あんなのと戦えないんだから!」
「……ダメだ」
「何がダメなんですか!? 逃げましょうよ! 結界を破るほどの大きさじゃないって!」
「……大きさは、そう、だとしても……あれは、黒い」
「……黒い?」
色が、強さと関係あるのか? 分からないけど、このアリアさんの感じ、多分……すごく強い。って、
「なおさら一回引きましょうよ! こんな状態で戦えるんですか?!」
「でも……国民を、巻き込む、訳には…………」
「…………」
僕は、ふと思ってしまった。
「アリアさんって、バカなんですか?」
「……は」
「バカですよね? めっちゃ大バカですよね!? だって、自分を犠牲にしてみんな助けたって、そんなの、何の意味もないですからね!?」
「いや」
「それに、アリアさんが戻ってきてないって分かったら、国民のおよそ99.9%はここに来ますからね。洗剤の除菌率と同じくらいの割合で来ますからね。ほんとですよ!
それだけ、アリアさんはこの国に必要な人なんですよ!」
「…………」
「とにかく、僕はひきずってでも、あなたをお屋敷まで連れていきますから! ヘタレの決意ってこわいんですよ?! 普段決意しないから、その決意ってめっちゃ強いんですから!」
僕はそういいながら、アリアさんの腕を肩にまわし、本当に半分引きずって街へと急いだ。そもそも、怪我しているこの足じゃあ満足に動けないだろうし。
スラちゃんは僕が道を見失わないようにリードしてくれてる。
「ウタ……」
「なんですか?! ヘタレで貧弱な僕だって、やるときゃやるんですよ! 置いてけとか聞きませんからね!」
「なんで……キレてんだよ……」
「アリアさんがあまりにもバカだからです!」
「そう、か…………、ウタ……」
「だからなんですか!」
「……ごめんな」
「…………いいですよ、別に。アリアさんも、助けてくれたじゃないですか。それに、まだ助かってないし」
「……ウタ…………」
「……なんですか」
「お前は…………――」
その先の言葉は、聞けなかった。
「グォォォォォォ!」
「っ!?」
「ぷるるるっ!」
僕らのすぐ近くに、真っ黒いドラゴンが迫っていた。
必死になって逃げ回るうちに、どこが街への道なのかも分からなくなって、途方にくれた。
崖は、下からみると、巨大な石の怪物だった。それを背にして四匹のウルフに追い詰められた。じりじりと間合いを詰められ、もう、ダメだと思った。
人生ではじめて『助けて』と口にした。助けて、助けて、と。必死に叫んだ。視界には涙が滲み、全てが歪んで見えた。怖くて怖くて、ぎゅっと目を閉じた瞬間、ウルフが私に飛びかかるのを感じた。
『……大丈夫、ですか?』
『…………え?』
固く閉じた目を開けると、そこには、私と同い年くらいの、一人の少年が笑っていた。青く、透き通るような髪とアメジスト色の目。彼は、不可能を可能にする、奇跡を起こせる人物だった。
私に飛びかかろうとしたウルフたちは、みんな、空中で制止していたのだ。驚いて目を丸くする私に、彼は言った。
『助けてって、聞こえたんで』
『え……あ……』
『今から時間を動かすけど、大丈夫。僕が全部倒すから』
そして、彼が私に背を向けると、時間は動きだし、ウルフは勢いを留めることなく襲いかかってくる。
その首を、彼はたった一本の剣だけで落とした。血飛沫が舞い、とても平和とは言えない幼い記憶の中で、彼の後ろ姿だけが、力強く輝く太陽となっていた。
彼は、私の英雄になった。
『……えっと、ありが、とう』
『どういたしまして。アリア様……ですよね?』
『え、あ、うん』
『お屋敷まで送りますよ! 行きましょう!』
……あいつは、強かったなぁ。どんな相手でも物怖じせずに立ち向かっていった。姉とは違って真面目だし。
婚約……となったときには、恥ずかしいのと嬉しいので、どうにかなりそうだった。でも、あいつも嫌じゃなさそうで、安心した。
あいつみたいになりたくて、あいつと一緒にいて、遜色ない人間になりたくて、レベルをあげ、頑張ったつもりだった。
でも結局、無理だった。歯が立たなかった。
真っ黒い鱗を持ったドラゴン。あんなのが街にいったら、今度こそ……。そう思って、倒そうとした。加護を使って、水魔法の熟練度をあげた。でもびくともしない。傷一つ付かない。気がついたら……視界が、ひっくり返っていた。
吹き飛ばされた先にあったのは、皮肉にもあの崖で。石の壁に打ち付けられ、意識が持っていかれそうになる。
今、あいつはここにいない。
それでも……私が、強く求めているからだろう。
「アリアさんっ……アリアさん!」
目の前にいる『こいつ』は『あいつ』の幻だ。
◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈
「……ウ、タ…………」
「アリアさん! よ、よかった……。いや、状況考えてよくはないけど、とりあえず、生きててくれて本当によかったです!」
「ぷるぷるっ!」
吹き飛ばされ、壁に打ち付けられたアリアさんにかけより、何度も呼び掛け、ようやく返事が聞けた。それだけでも、大きな安心になった。
……見かけには、とても無事とは言えなかった。アリアさんの左足には大きな傷があり、今でも血が滴っている。一瞬気が遠くなったがスラちゃんが起こしてくれた。ありがとう、本当に。ここで寝たらマジで永眠だわ。
「逃げますよ、アリアさん! 僕、あんなのと戦えないんだから!」
「……ダメだ」
「何がダメなんですか!? 逃げましょうよ! 結界を破るほどの大きさじゃないって!」
「……大きさは、そう、だとしても……あれは、黒い」
「……黒い?」
色が、強さと関係あるのか? 分からないけど、このアリアさんの感じ、多分……すごく強い。って、
「なおさら一回引きましょうよ! こんな状態で戦えるんですか?!」
「でも……国民を、巻き込む、訳には…………」
「…………」
僕は、ふと思ってしまった。
「アリアさんって、バカなんですか?」
「……は」
「バカですよね? めっちゃ大バカですよね!? だって、自分を犠牲にしてみんな助けたって、そんなの、何の意味もないですからね!?」
「いや」
「それに、アリアさんが戻ってきてないって分かったら、国民のおよそ99.9%はここに来ますからね。洗剤の除菌率と同じくらいの割合で来ますからね。ほんとですよ!
それだけ、アリアさんはこの国に必要な人なんですよ!」
「…………」
「とにかく、僕はひきずってでも、あなたをお屋敷まで連れていきますから! ヘタレの決意ってこわいんですよ?! 普段決意しないから、その決意ってめっちゃ強いんですから!」
僕はそういいながら、アリアさんの腕を肩にまわし、本当に半分引きずって街へと急いだ。そもそも、怪我しているこの足じゃあ満足に動けないだろうし。
スラちゃんは僕が道を見失わないようにリードしてくれてる。
「ウタ……」
「なんですか?! ヘタレで貧弱な僕だって、やるときゃやるんですよ! 置いてけとか聞きませんからね!」
「なんで……キレてんだよ……」
「アリアさんがあまりにもバカだからです!」
「そう、か…………、ウタ……」
「だからなんですか!」
「……ごめんな」
「…………いいですよ、別に。アリアさんも、助けてくれたじゃないですか。それに、まだ助かってないし」
「……ウタ…………」
「……なんですか」
「お前は…………――」
その先の言葉は、聞けなかった。
「グォォォォォォ!」
「っ!?」
「ぷるるるっ!」
僕らのすぐ近くに、真っ黒いドラゴンが迫っていた。
0
あなたにおすすめの小説
3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜
幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。
転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。
- 週間最高ランキング:総合297位
- ゲス要素があります。
- この話はフィクションです。
【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する
ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。
きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。
私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。
この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない?
私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?!
映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。
設定はゆるいです
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜
伽羅
ファンタジー
【幼少期】
双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。
ここはもしかして異世界か?
だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。
ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。
【学院期】
学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。
周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
悪徳領主の息子に転生しました
アルト
ファンタジー
悪徳領主。その息子として現代っ子であった一人の青年が転生を果たす。
領民からは嫌われ、私腹を肥やす為にと過分過ぎる税を搾り取った結果、家の外に出た瞬間にその息子である『ナガレ』が領民にデカイ石を投げつけられ、意識不明の重体に。
そんな折に転生を果たすという不遇っぷり。
「ちょ、ま、死亡フラグ立ち過ぎだろおおおおお?!」
こんな状態ではいつ死ぬか分かったもんじゃない。
一刻も早い改善を……!と四苦八苦するも、転生前の人格からは末期過ぎる口調だけは受け継いでる始末。
これなんて無理ゲー??
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる