139 / 387
声にならない声を聞いて
特殊職
しおりを挟む
「あ、アリア、ちゃんと食べられたのね」
僕が空になったお皿を持ってくると、エマさんが食器を洗いながらそう笑う。
「まぁ、あのときは熱もあって食欲ないみたいでしたからね。昨日今日は食べられてるんで、体力の回復も早くなるはずですよ!」
エマさんは、あの日からアリアさんの顔を見ていないようだ。アリアさんが会いたがらないからというのが主な理由だが、その意思を尊重し続けると言うのもなかなかだ。エマさんだって、アリアさんのことが心配なはずなのに……。
台所にならんで、一緒にお皿を洗う。洗いながら、僕はさっきの会話を思い出して、こんなことを聞いてみた。
「アリアさんのお母さんって、蘇生師だったんですよね?」
「なぁに、急に」
そんな風に笑いながらも、エマさんはうなずいた。
「そうよ。世界で一人だけの、ね」
「かなり特殊ですよねー、そういうの。普通は……えっと、僕が見たことあるのだと、村人とか、冒険者とか、そういうのばっかりで。そもそも世界に一人だけなんて」
「そりゃそうよ。蘇生師は特殊職だもの」
「特殊職? ……特殊な職業ってことですか?」
洗剤の泡を水で洗い流す。水をきって食器をかごに立てていく。あまり数は多くなかったから、あっという間に終わった。
終わってしまうと、エマさんは置いてあったふきんで手を拭き、テーブルの椅子に腰かける。僕も同じように手を拭いて、椅子に座った。
「そうそう、特殊職業。単純に数が少ないとかそういうのじゃなくて、なるために条件が何重にもあったりとか、なり方が分からなかったりとか、そもそも存在しているのかすら怪しいのとか。そういうののことをいうの」
「へぇ……。例えば、どんなのがあるんですか?」
少し顎に手を当てて考えたあと、エマさんが言う。
「例えば……そうね、『勇者』なんてのは特殊職よ。存在はしていたけれど、その職に就くための手順とかは誰も知らない。本人もね」
そういえば個性の塊'sは勇者パーティーだったんだよな。急に神様に呼び出されたとかで。……確かに、なり方は分からない。
「あとは『翻訳師』とかね。言語能力に異常なほど長けていて、全世界の言葉どころか、魔物や動物、植物の言葉まで分かるなんて言われてるわ」
「へぇー! それすごいですね!」
「私も会ったことないのだけど、会えたら、仕事を頼みたいわ。会話してみたい子がいるのよ」
「……魔物ですか?」
「まさか。魔物じゃないわよ」
よ、よかった。エマさんのことだから魔物とかと話しててもおかしくないような気がしてしまった。杞憂だったか。
「鬼よ」
「わぁーお」
逆にもっとすごいのきた。あ、あれか。疑心暗鬼の鬼さんか。そういえば鬼とか使役できましたねこの人。
「いざということもあるだろうし、一度話してみたくてね」
「でもまぁ……気持ちは分かりますけどね」
僕もスラちゃんと話してみたいし。……スラちゃんもドラくんみたいにお話しできたらいいのになぁ。
「スラちゃんのこと? でも、ウタくんはスラちゃんの言ってること、分かるんだと思ってたわ」
「なんとなくですよ。アリアさんとは違いますし、ちゃんと一言一句分かってる訳じゃないです」
「アリアのは分かるのね」
「まぁ……はい」
このときエマさんの頭に過ったのは、やはりアリアさんへの心配だろう。僕だって逆の立場だったら心配で心配で仕方なかったと思う。
「まぁ、そんな感じでね。特殊職は山のようにあるわ。こういう職業ないかなーって思い付くものはきっと全部あると思うの。
人によっては、神様も特殊職の発展型か、その一つなんじゃないかって言ってるくらいなのよ」
「へぇ……」
……僕を送り出した神様は、今、どこで何をしているんだろう? 僕みたいな人をどこかに送り出しているのかな? それとも、なにもせずにぼんやりとこっちを見ているのかな? それか、ペットに餌やったりとか?
個性の塊'sは、言動から察するに、なんどか神様と会っているようだ。まぁ、あんな人たちを放っておくわけにもいかないってのも理由としてあったのかもしれないが、それでも僕は、神様に会えるのが、少なからず羨ましかった。
「……僕、神様ともう一回会ってみたいです」
「どうしたの急に」
エマさんは少しからかうようにそう言って笑ったけど、僕は真剣だった。
「色々聞きたいことがあります。どうして僕を転生させたのかー、とか。どうして何も言ってくれなかったのかー、とか。
もしかして転生初日にドラゴンと出くわしたのはわざと?! とか。聞きたいこと一杯あるんです。僕の『使命』とか『役割』についても、僕はなにも聞かされていませんから」
それに……と、僕は言おうとして、躊躇ってしまって、声に出すのはやめた。
……本当に僕の神様が神様だったなら、どうか教えてほしい。
自分を犠牲にして笑うアリアさん。
責任を感じつつも、必死に前に進もうとしていたアリアさん。
一つの壁を壊して、外に出たアリアさん。
そんなアリアさんが、なぜ、こんな想いをしなければならないのか。
神様なら…………知ってる、でしょう?
アリアさんになにか罪があるのか?
ないならなんで?
なんでここまで……アリアさんを追い詰める必要があるんですか。
僕が空になったお皿を持ってくると、エマさんが食器を洗いながらそう笑う。
「まぁ、あのときは熱もあって食欲ないみたいでしたからね。昨日今日は食べられてるんで、体力の回復も早くなるはずですよ!」
エマさんは、あの日からアリアさんの顔を見ていないようだ。アリアさんが会いたがらないからというのが主な理由だが、その意思を尊重し続けると言うのもなかなかだ。エマさんだって、アリアさんのことが心配なはずなのに……。
台所にならんで、一緒にお皿を洗う。洗いながら、僕はさっきの会話を思い出して、こんなことを聞いてみた。
「アリアさんのお母さんって、蘇生師だったんですよね?」
「なぁに、急に」
そんな風に笑いながらも、エマさんはうなずいた。
「そうよ。世界で一人だけの、ね」
「かなり特殊ですよねー、そういうの。普通は……えっと、僕が見たことあるのだと、村人とか、冒険者とか、そういうのばっかりで。そもそも世界に一人だけなんて」
「そりゃそうよ。蘇生師は特殊職だもの」
「特殊職? ……特殊な職業ってことですか?」
洗剤の泡を水で洗い流す。水をきって食器をかごに立てていく。あまり数は多くなかったから、あっという間に終わった。
終わってしまうと、エマさんは置いてあったふきんで手を拭き、テーブルの椅子に腰かける。僕も同じように手を拭いて、椅子に座った。
「そうそう、特殊職業。単純に数が少ないとかそういうのじゃなくて、なるために条件が何重にもあったりとか、なり方が分からなかったりとか、そもそも存在しているのかすら怪しいのとか。そういうののことをいうの」
「へぇ……。例えば、どんなのがあるんですか?」
少し顎に手を当てて考えたあと、エマさんが言う。
「例えば……そうね、『勇者』なんてのは特殊職よ。存在はしていたけれど、その職に就くための手順とかは誰も知らない。本人もね」
そういえば個性の塊'sは勇者パーティーだったんだよな。急に神様に呼び出されたとかで。……確かに、なり方は分からない。
「あとは『翻訳師』とかね。言語能力に異常なほど長けていて、全世界の言葉どころか、魔物や動物、植物の言葉まで分かるなんて言われてるわ」
「へぇー! それすごいですね!」
「私も会ったことないのだけど、会えたら、仕事を頼みたいわ。会話してみたい子がいるのよ」
「……魔物ですか?」
「まさか。魔物じゃないわよ」
よ、よかった。エマさんのことだから魔物とかと話しててもおかしくないような気がしてしまった。杞憂だったか。
「鬼よ」
「わぁーお」
逆にもっとすごいのきた。あ、あれか。疑心暗鬼の鬼さんか。そういえば鬼とか使役できましたねこの人。
「いざということもあるだろうし、一度話してみたくてね」
「でもまぁ……気持ちは分かりますけどね」
僕もスラちゃんと話してみたいし。……スラちゃんもドラくんみたいにお話しできたらいいのになぁ。
「スラちゃんのこと? でも、ウタくんはスラちゃんの言ってること、分かるんだと思ってたわ」
「なんとなくですよ。アリアさんとは違いますし、ちゃんと一言一句分かってる訳じゃないです」
「アリアのは分かるのね」
「まぁ……はい」
このときエマさんの頭に過ったのは、やはりアリアさんへの心配だろう。僕だって逆の立場だったら心配で心配で仕方なかったと思う。
「まぁ、そんな感じでね。特殊職は山のようにあるわ。こういう職業ないかなーって思い付くものはきっと全部あると思うの。
人によっては、神様も特殊職の発展型か、その一つなんじゃないかって言ってるくらいなのよ」
「へぇ……」
……僕を送り出した神様は、今、どこで何をしているんだろう? 僕みたいな人をどこかに送り出しているのかな? それとも、なにもせずにぼんやりとこっちを見ているのかな? それか、ペットに餌やったりとか?
個性の塊'sは、言動から察するに、なんどか神様と会っているようだ。まぁ、あんな人たちを放っておくわけにもいかないってのも理由としてあったのかもしれないが、それでも僕は、神様に会えるのが、少なからず羨ましかった。
「……僕、神様ともう一回会ってみたいです」
「どうしたの急に」
エマさんは少しからかうようにそう言って笑ったけど、僕は真剣だった。
「色々聞きたいことがあります。どうして僕を転生させたのかー、とか。どうして何も言ってくれなかったのかー、とか。
もしかして転生初日にドラゴンと出くわしたのはわざと?! とか。聞きたいこと一杯あるんです。僕の『使命』とか『役割』についても、僕はなにも聞かされていませんから」
それに……と、僕は言おうとして、躊躇ってしまって、声に出すのはやめた。
……本当に僕の神様が神様だったなら、どうか教えてほしい。
自分を犠牲にして笑うアリアさん。
責任を感じつつも、必死に前に進もうとしていたアリアさん。
一つの壁を壊して、外に出たアリアさん。
そんなアリアさんが、なぜ、こんな想いをしなければならないのか。
神様なら…………知ってる、でしょう?
アリアさんになにか罪があるのか?
ないならなんで?
なんでここまで……アリアさんを追い詰める必要があるんですか。
0
あなたにおすすめの小説
3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜
幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。
転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。
- 週間最高ランキング:総合297位
- ゲス要素があります。
- この話はフィクションです。
【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する
ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。
きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。
私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。
この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない?
私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?!
映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。
設定はゆるいです
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜
伽羅
ファンタジー
【幼少期】
双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。
ここはもしかして異世界か?
だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。
ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。
【学院期】
学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。
周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
悪徳領主の息子に転生しました
アルト
ファンタジー
悪徳領主。その息子として現代っ子であった一人の青年が転生を果たす。
領民からは嫌われ、私腹を肥やす為にと過分過ぎる税を搾り取った結果、家の外に出た瞬間にその息子である『ナガレ』が領民にデカイ石を投げつけられ、意識不明の重体に。
そんな折に転生を果たすという不遇っぷり。
「ちょ、ま、死亡フラグ立ち過ぎだろおおおおお?!」
こんな状態ではいつ死ぬか分かったもんじゃない。
一刻も早い改善を……!と四苦八苦するも、転生前の人格からは末期過ぎる口調だけは受け継いでる始末。
これなんて無理ゲー??
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる