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届かない想いに身を寄せて
悪魔の定義について
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『悪魔』というのは、特殊職業の一つだ。……ということはほとんど、いや、ほぼ100%知られていないだろう。なぜなら、悪魔になったやつは『人間』が嫌いなものが多い。それも、その『人間』そのものじゃなくて、人間が人間だからこそ持つ『感情』というものが、反吐が出るほど嫌いなのだ。
特に、憐れみだとか、同情だとか、正義だとか……そういう感情が大嫌いなものだ。だから悪魔になるのだ。そして、大抵は喜ぶのだ。これで自分は、自分の大嫌いな『人間』でなくなることが出来る。だから、『人間』の中の『悪魔』という特殊職業ではなく、『悪魔』という種族として生きることを望む。結果ステータスから職業が消え、種族としての『悪魔』が産まれた。
俺もそうだ。
人間らしい勘違いが、偽善が、大嫌いだった。
それを一番はじめに理解したのはいつだったか。そうだ、目の前で母親が魔物に殺され死んだとき。俺は、周りが悲しむのを見て、一人涙一つ溢さないまま、ただ思っていたのだ。
『俺じゃなくてよかった』
あいつらきっと、みんなそう思っているのだ。父親がおらず、一人になった俺を憐れみつつも、誰一人助けようとなんかしなかった。日常を路上に堕とし、それでよしとして見て見ぬふりをした。
上っ面だけ『いい人』であろうとして、中では何を言っているか分からない。そんな『人間』が嫌だ、嫌いだと思っていたら、ある日、悪魔になっていた。
驚いたか? 確かに驚いた。でも、それ以上に喜びが大きかった。これで偽善まみれの勘違い野郎、人間様とはおさらばだ! ……ってな。
あぁ、確かに嬉しかった。あの喜びは間違いじゃない。
悪魔になってから知ったが、悪魔は眠らなくていい。眠くならないのだ。いくら運動しても魔法を使っても、全く眠くならないから、眠る必要がないのだ。
悪魔は食べなくていい。腹なんて減らない。人が無様にあわてふためく様子は食事以上に魅力的なのだ。食事に裂く時間が惜しい。
悪魔は群れなくていい。基本独り身なのだ。仲間なんて概念はない。そもそも、そういった繋がりが嫌で悪魔になったやつがほとんどだから当たり前なのかもしれない。
……しばらくしてから、俺は思ったのだ。
「つまらない」と。
ひどく退屈だった。眠らなければ朝も夜も関係ない。腹が減らなければ、食欲というものがなくなる。食に対する好きも嫌いも消える。誰とも話さなくなって、言葉を忘れかけたりもした。それはさすがに不便だと影で造った人形と話した。
あぁ、つまらない、つまらない!
それに耐えきれなくなって、戦争を起こしてみた。人間をそそのかして、心を揺さぶって、争わせてみた。
……何もないよりはましだ。その程度だった。ただの戦争に、興味を失った。
それから俺は、本を読んでみた。人間が書いたくだらないものと思って侮蔑していてが、逆に人間の馬鹿馬鹿しい心情やらなんやらがつらつらと書かれていて、まぁ悪くなかった。ジャンルなんか気にしない。適当だ。
……ある一冊の本を読んだ。よくある物語だったが、ラストシーンは興味深かった。共に生きてきた、戦ってきた、信じていた親友に裏切られて、主人公が死ぬ。そんなエンディングだ。なぜかその親友はそのあとに泣いていたが、俺の興味があるのはそっちじゃない。
そうか、信じきっていたやつに裏切られると、普通に死ぬより辛いのか。
その表情を見てみたくなった。
俺はあえて人として、クラーミルの城へ行き、雇ってもらうように頼んでみた。驚くほどあっさりと許可され、次の日から働いた。それも住み込みだ。
悪魔が常に近くにいるというのに……国王も女王も穏やかに笑っていた。無知というのは恐ろしいものだ。
二人に子供が出来、育ち、戴冠式を経て王位が継承された。レイナ・クラーミルとロイン・クラーミル。二人がまだ赤ん坊のときから、俺は、クラーミルを裏切り、その絶望の表情を見るためだけに働いてきた。恭しい態度も、敬語も、マナーと常識も、なにより、信頼を得るために振り撒いていた優しさも、そのときのためだけのものだった。
『ブー』
『……レイナ様、どうなさいました?』
『あっこ!』
『…………』
あぁ、でも、そうなのか?
『……仕方ないですね。少しだけですよ』
『あぅぅ……ローも、ローも!』
『分かりましたよ、ロイン様』
あのとき。赤子だった二人を抱き上げた時に共に抱えた感情は……あれは、なんだったのだろう。
何かあたたかくて、何か…………。
『あら……ふふ』
『女王陛下』
『あなたがそんな幸せそうに笑うなんて。……二人が、あなたにも幸せを運んでくれたのね』
『……私は笑ってていましたか?』
『えぇ、とても』
拒絶していた。それは間違いない。
でも……だからこそ、俺はあの時、笑っていたんだろうか。
無様で、馬鹿馬鹿しくて、愚かで、醜い……そのくせ求めるものはいっちょ前な人間……彼らはまだ、そういう人間ではなかった。
あの時俺にあったのは、人としての『感情』なのか? それとも……そう勘違いしただけの『なにか』なのか?
俺は結局、悪魔にも人間にもなりきれなかったのだ。
これは、無様な『なにか』の走馬灯。
特に、憐れみだとか、同情だとか、正義だとか……そういう感情が大嫌いなものだ。だから悪魔になるのだ。そして、大抵は喜ぶのだ。これで自分は、自分の大嫌いな『人間』でなくなることが出来る。だから、『人間』の中の『悪魔』という特殊職業ではなく、『悪魔』という種族として生きることを望む。結果ステータスから職業が消え、種族としての『悪魔』が産まれた。
俺もそうだ。
人間らしい勘違いが、偽善が、大嫌いだった。
それを一番はじめに理解したのはいつだったか。そうだ、目の前で母親が魔物に殺され死んだとき。俺は、周りが悲しむのを見て、一人涙一つ溢さないまま、ただ思っていたのだ。
『俺じゃなくてよかった』
あいつらきっと、みんなそう思っているのだ。父親がおらず、一人になった俺を憐れみつつも、誰一人助けようとなんかしなかった。日常を路上に堕とし、それでよしとして見て見ぬふりをした。
上っ面だけ『いい人』であろうとして、中では何を言っているか分からない。そんな『人間』が嫌だ、嫌いだと思っていたら、ある日、悪魔になっていた。
驚いたか? 確かに驚いた。でも、それ以上に喜びが大きかった。これで偽善まみれの勘違い野郎、人間様とはおさらばだ! ……ってな。
あぁ、確かに嬉しかった。あの喜びは間違いじゃない。
悪魔になってから知ったが、悪魔は眠らなくていい。眠くならないのだ。いくら運動しても魔法を使っても、全く眠くならないから、眠る必要がないのだ。
悪魔は食べなくていい。腹なんて減らない。人が無様にあわてふためく様子は食事以上に魅力的なのだ。食事に裂く時間が惜しい。
悪魔は群れなくていい。基本独り身なのだ。仲間なんて概念はない。そもそも、そういった繋がりが嫌で悪魔になったやつがほとんどだから当たり前なのかもしれない。
……しばらくしてから、俺は思ったのだ。
「つまらない」と。
ひどく退屈だった。眠らなければ朝も夜も関係ない。腹が減らなければ、食欲というものがなくなる。食に対する好きも嫌いも消える。誰とも話さなくなって、言葉を忘れかけたりもした。それはさすがに不便だと影で造った人形と話した。
あぁ、つまらない、つまらない!
それに耐えきれなくなって、戦争を起こしてみた。人間をそそのかして、心を揺さぶって、争わせてみた。
……何もないよりはましだ。その程度だった。ただの戦争に、興味を失った。
それから俺は、本を読んでみた。人間が書いたくだらないものと思って侮蔑していてが、逆に人間の馬鹿馬鹿しい心情やらなんやらがつらつらと書かれていて、まぁ悪くなかった。ジャンルなんか気にしない。適当だ。
……ある一冊の本を読んだ。よくある物語だったが、ラストシーンは興味深かった。共に生きてきた、戦ってきた、信じていた親友に裏切られて、主人公が死ぬ。そんなエンディングだ。なぜかその親友はそのあとに泣いていたが、俺の興味があるのはそっちじゃない。
そうか、信じきっていたやつに裏切られると、普通に死ぬより辛いのか。
その表情を見てみたくなった。
俺はあえて人として、クラーミルの城へ行き、雇ってもらうように頼んでみた。驚くほどあっさりと許可され、次の日から働いた。それも住み込みだ。
悪魔が常に近くにいるというのに……国王も女王も穏やかに笑っていた。無知というのは恐ろしいものだ。
二人に子供が出来、育ち、戴冠式を経て王位が継承された。レイナ・クラーミルとロイン・クラーミル。二人がまだ赤ん坊のときから、俺は、クラーミルを裏切り、その絶望の表情を見るためだけに働いてきた。恭しい態度も、敬語も、マナーと常識も、なにより、信頼を得るために振り撒いていた優しさも、そのときのためだけのものだった。
『ブー』
『……レイナ様、どうなさいました?』
『あっこ!』
『…………』
あぁ、でも、そうなのか?
『……仕方ないですね。少しだけですよ』
『あぅぅ……ローも、ローも!』
『分かりましたよ、ロイン様』
あのとき。赤子だった二人を抱き上げた時に共に抱えた感情は……あれは、なんだったのだろう。
何かあたたかくて、何か…………。
『あら……ふふ』
『女王陛下』
『あなたがそんな幸せそうに笑うなんて。……二人が、あなたにも幸せを運んでくれたのね』
『……私は笑ってていましたか?』
『えぇ、とても』
拒絶していた。それは間違いない。
でも……だからこそ、俺はあの時、笑っていたんだろうか。
無様で、馬鹿馬鹿しくて、愚かで、醜い……そのくせ求めるものはいっちょ前な人間……彼らはまだ、そういう人間ではなかった。
あの時俺にあったのは、人としての『感情』なのか? それとも……そう勘違いしただけの『なにか』なのか?
俺は結局、悪魔にも人間にもなりきれなかったのだ。
これは、無様な『なにか』の走馬灯。
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