チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない

植木鉢たかはし

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届かない想いに身を寄せて

殺意

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 思考が、停止した。目の前に写っていた『物』が瞬時に消え、赤いもので視界が染め上げられたのだ。冷静さなど、どこかに飛んでいった。
 僕はゆっくりと、視線を下に写す。……赤の中に、せめて転がっていてくれればよかったものを、『それ』はグシャリとつぶれ、砕け、この一瞬で原型を完全に崩されていた。

 赤の中に、『白』と『黒』が見えた。ころりと転がったそれと、目があった。ぞわりと背中が震え、僕は後ずさり、そのまま地面に座り込む。目を逸らしたい。逸らしたくて逸らしたくてたまらないのに、なぜか目を背けることが出来ない。嫌な汗が吹き出し、がくがくと震える。以前『目』が合ったまま、僕は何も言えず、何も出来ないままだった。
 後ろから、レイナさんの悲鳴と、何かの物音と、レイナさんを介抱するようなアリアさんの声が聞こえる。それをなんとか理解し、落ち着こうと息を吸った瞬間、

 目の前にあった『目』を、誰かの足が踏み潰した。
 ぐちゃりと嫌な音をたて、眼球は潰れ、何かの液体でそこが濡れる。僕はゆっくりと、その足を辿って上に視線を移す。


「……ぁ、え…………?」


 黒い瞳、灰色の髪。……彼の姿に、僕は見覚えがあった。それは、あの時……あの森の中で弱りきっていた、僕に笑いかけた、花を託した……アリアさんの…………。


「ウタ殿っ!」


 僕の前に、ドラくんが入り込む。いつの間にか人の姿に戻っていたドラくんは、僕の体を後ろに無理矢理に引っ張り、自分の背に隠す。


「大丈夫か!? ウタ殿、しっかりしろ! お主が取り乱していては皆、死ぬかもしれないぞ!」


 ドラくんの言葉が響く。それでなんとか、冷静になる。落ち着きを取り戻す。そうか、僕を落ち着かせるために人に戻ったんだなぁ、なんてことをのんきに考えていた。
 しかし、目の前の事実を理解し飲み込むには、僕には時間が足らなすぎた。だって……目の前にいるのは、ディラン・キャンベル。しかし、それは前に会ったときの表情と、雰囲気と、まるで違っていて……。
 優しさや寂しさ、悲しみ、やるせなさ、その中に確かに感じた強さ……それらは、今の彼から全く感じ取れない。感じるのは明確な『殺意』であり、それはこの場にいる全員……アリアさんを含めた全員に、向けられていた。

 アリアさんは……そう思って少しだけ振り向いたところ、アリアさんは、未だに落ち着けていないレイナさんを胸に抱き、背中をさすり、倒れてしまったロインさんを背に隠して気遣いつつ、視線はディランさんに向けていた。そして、ぽつりと呟いたのだ。


「…………あいつは、誰だ?」


 と、殺意が近くなる。見れば闇魔法で作り出した剣を手に、ディランさんが僕……否、その前にいるドラくんに向かって攻撃を仕掛けようとしていた。
 瞬間僕は、直感していた。この攻撃を受けたら……ドラくんは、死ぬ。


「セイントチェイン!」


 ドラくんを守るように、鎖を振り回す。鎖は黒い剣を受け止め、その威力を殺す。……しかし、防ぎきれない。それは勢いをほんの少しゆるめ、ドラくんを襲う。
 ドラゴンであるとはいえ、人の体は脆い。急所は外れたようだが、ドラくんは右肩から左の腹にかけて斜に深く切りつけられ、血を吹き出す。そして、剣の勢いに負けたように後ろに倒れこんだ。
 僕はドラくんを後ろで受け止め、ゆっくりと地面に寝かせる。そして、聖剣を取りだし、光魔法を宿す。


「……ディランさん」


 ディランさんは、まるで『自分以外を全て排除する』ように、僕に殺意を向け、剣を振りかぶる。僕は両手で剣を握りしめてそれを受けた。……が、強すぎる。強い衝撃に体は耐えきれず、後ろの壁まで吹き飛ばされ、打ち付けられる。
 追い討ちをかけるように剣が襲いかかってくる。なんとかそれよければ、黒い剣は壁に強く叩きつけられ……壁が、床が、崩れる。


「……え」


 僕らの体は、ふわりと宙に浮いた。僕はアリアさんたちの方へ目をやる。……あそこまで崩れてはいないようだ。よかった。


「ウタっ?!」


 僕らは落ちていく。その途中、ディランさんは剣を振りかぶった。そして、落ちていくその勢いのまま、剣を僕に叩きつける。
 重力加速度……だっけ。それに加え剣の衝撃も加わり、僕の体はなすすべもなく地面に打ち付けられた。

 ……このシャツがグッドオーシャンフィールド製品じゃなければ、死んでいただろう。体が動かない。痛みなのかなんなのか分からないが、息もままならない。気が遠くなってくる。
 動けない僕の視界の端で、ディランさんは静かに地面に降りると、剣を握り直し、僕に向かって走り、振りかぶり、そして振り下ろす。


「――ガーディア」


 そしてその剣は、黒いバリアにより、僕に届かなかった。閉じかけた瞳を開け、上を見上げると、長い黒髪をふわりと風になびかせながら、最強の魔法使いは息をついた。


「危ない危ない……。いやー、強いね」

「…………テラー、さ……」

「……私がいるってことは、どういうことか分かるよね?」


 ……個性の塊's。
 一瞬だけホッとした僕に、なにか、とてつもない不安がのし掛かった。それは、ほんの少しの違和感なのかもしれない。

 魔王と戦っていたときだってそうだった。個性の塊'sはいつだって、誰だって、強い相手であればあるはど楽しんでいるように思えた。僕の偏見かもしれない。でも、そう見えた。一見ピンチに見えても、サクッとその上をいくのだ。
 しかし……テラーさんが一瞬浮かべた表情は、なにか、葛藤の影のようなものが見えた、気がしたのだ。
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