チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない

植木鉢たかはし

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届かない想いに身を寄せて

止めないで

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「さっき落ちた拍子で『勇気』は切れてる。無茶しないでね」


 攻撃対象は、僕から、テラーさんへと変わる。黒い剣をガーディアで受け止めながら、テラーさんはディランさんを僕から遠ざける。
 ……個性の塊'sのガーディアは、強力だ。魔王の攻撃を易々と受け止めてしまうくらいには、強いのだ。しかし、テラーさんは一撃受けるごとにガーディアを張り直す。それは石橋を叩いているからじゃない。……実際、ガーディア一枚で一撃しか防げていないのだ。
 そんな馬鹿な。あの様子……三時のおやつも使っているはず。それなのに、なんで。

 ふと、ほんの少しだけガーディアのタイミングが遅れる。それを見逃さず、ディランさんは剣を振り上げる。


「――おさく!」


 瞬間、テラーさんが叫ぶ。とたんにディランさんの背後にはおさくさんが現れ、その手にはいつもの刀が握られていた。


「侍の心得」


 ディランさんを背後から7発の強力な斬擊が襲う。それらは全て命中し、それによって隙が出来たのをいいことに、テラーさんも右手を前につき出す。


「光宿りし絶望を此方に」


 突き出された右手から閃光のような……いや、闇のような、そんな、訳の分からない魔法が放たれる。ディランさんの体を貫通したそれは、反対側にあった城の壁を『消す』

 ……僕は、ふと思った。テラーさんとおさくさん……二人はもしかして、本気でディランさんを殺そうとしているのではないか。
 ……生まれたのは強い抵抗心だった。僕はディランさんの方へ駆けていこうとした。しかし、何かに足、体を捕らえられ転び、前に進むことが出来ない。ハッとそちらに目をやれば、植物の蔦が、僕の体に巻き付いていた。プランツファクトリー。そんなスキルを、テラーさんは持っていたはずだ。


「……おさく」

「これはヤバイですねー、奥さん」

「そうですねー、ふざけないとやってられないですね」


 そんな言葉を交わす二人。二人の視線の先には……。


「――メリーバッドエンド」


 ほぼ無傷で立つ、ディランさんの姿があった。
 彼から、黒い霧が発生する。それらは意思を持ち、一つ一つの形になって、おさくさんとテラーさんに襲いかかる。


「……うちらじゃきついね」

「だね……」


 『それ』の攻撃が届くかどうかの時、おさくさんとテラーさんは足を強く踏み込み、そこから消えた。かと思えば、上から別の声が振ってくる。


「ドラゴン召喚!」


 その声と同時に現れるのは三体のドラゴン。それは黒い影をどんどん消し去っていく。そして、それに被さるようにもう一つの声。


「ジャッジメントー!」


 空に現れる巨大な魔方陣。そこから放たれる閃光。……アイリーンさんのジャッジメントと、ドロウさんが使役するドラゴンたちによって、黒い影は消滅した。


「ウタくーん! チョコあげとくね」

「アイリーンさん……この、状況って……」

「説明してる暇は、今はない……かな。ただ一つ私たちから言えるのは、」


 ドロウさんはしっかりと僕を見て、言った。


「私たちのこと、止めないで」


 ディランさんが再び剣を抜き、こちらへ勢いよく向かってくる。それを、アイリーンさんとドロウさんは防がない。受け止めもしないし避けもしない。その代わりに、


「……おっと、強い強い。いいねぇ、この手応え。さすが『自己防衛の勇気』ってとこかな」


 ジュノンさんは、ディランさんと僕らの間に入り込み、静かに微笑みながらその剣を受け、押し返す。押し返した勢いのまま、飛び出し、剣を振りかぶる。振りかぶったそれは、瞬時に大鎌へと姿を変えた。


「――侵略す」


 ディランさんの体が、中を舞う。その体が地につく前に、ジュノンさんは再び鎌を振る。


「運命だから? 不可能だって? ……そんなの誰が決めたって言うのさ。ほんと――どうでもいいし」


 血飛沫が舞う。はじめて、ディランさんにダメージが入った。
 ……違う。目に見えていなかっただけで、あの体には個性の塊'sからの攻撃による傷が、確かに残っていた。それに気づいたのは、僕だけだ。なぜなら僕の頭には、


『苦しい……痛い……死にたく、ない』


 僕の耳には確実に、痛みに、苦しみに、たった一人で耐えるディランさんの声が聞こえていた。
 一瞬、また空間に違和感を感じた。と思ったら、ディランさんはジュノンさんの背後をとり、剣を振り上げていた。


「……カプリチオ」


 それも全て分かっていると言うように、ジュノンさんはディランさんに魔法を放つ。……確実にダメージを与えていく。


「ダークネスランス」


 もしも……このまま、言われるがままに眺めていたとして、個性の塊'sは……ディランさんをどうするだろうか。
 僕の視界の端に、ドラくんたちを介抱しつつ、城の崩れた壁から僕らを心配そうに見下ろしているアリアさんの姿が見えた。

 ディランさんの足がもつれ、倒れる。その隙を決して見逃さず、ジュノンさんは、巨大な魔方陣を形成する。僕はそれを知っている。あれは……魔王を、倒したときに放った……。

 僕はとっさに、自分に巻き付いていた蔦を焼き払い、走り出した。ディランさんとジュノンさんの間。止める周りの声を全て掻き消して、ディランさんの前の立ちふさがった。
 ジュノンさんは攻撃の手を止めようとしない。僕は……ディランさんを守るため、呪文を唱える。


「シエルト!」
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