363 / 387
自分の声は聞こえますか?
笑え
しおりを挟む
「それでも懲りずに、俺が、やめねぇっつったら……どうすんだよ?」
彰人さんが呆れたように言う。僕はそれを、黙って聞いていた。
「やめないで、お前の『勇気』が切れるのを待って、奇襲したら? ……お前、負けちまうんじゃねぇのか? 俺らにさ」
「……この『勇気』は、あなたがスキルを切るまで続きます」
「なら三時間経過して死んで終わりだな」
ははっと、乾いた笑いをこぼした彰人さんは、僕を見た。……まっすぐな瞳で、じっと、僕を……。
「…………でも、俺の敗けだな」
「……いいん、ですか?」
「仕方ねぇよ。……生きたいって思っちまったんだから」
ふわりと、あたたかい光が彰人さんを包み込んだ。光は、ほんの数秒で消えてなくなる。……それを確認した彰人さんは僕を見て、微笑んだ。いつも通りの、やさしい眼差しで。
「……わりぃけど、もう一回、回復魔法、かけてくれ。体動かなくってよ……」
「いいですよ、もちろん。……ケアル」
「ウタ殿」
「ん、なに?」
「まぁ、さっき言ったみたいに、俺が奇襲するんじゃって思ってるんだろうな、ドラくんは。Unfinishedで一番慎重で、臆病なドラゴンだからな」
彰人さんがけらけらと笑う。そこには、もう戦おうと言う意思は見えなかった。それを見て警戒を解いたのか、ドラくんは大きくため息をつき「余計なお世話だ」と呟く。
「……アキヒト、もう大丈夫?」
スラちゃんが心配そうに僕と彰人さんを交互に見る。僕はそんなスラちゃんに笑いかけ、彰人さんを見た。
「おうよ! もう元気だ! ピンピンしてるぜ?」
「ほんと!? よかったぁー!」
「…………」
彰人さんは、もう大丈夫そうだ。僕は立ち上がり、サラさんたちの方へ目をやる。フローラの新しいスキルで、HPやMPは全回復しているようだ。アリアさんと、サラさんと、エドさん。それからポロンとフローラ。五人で話している。
「……お、ウタ。全く、お前にはしてやられたな」
サラさんが僕を見ると、そう垢抜けた様子で笑う。エドさんは呆れきっているようで、その隣で頭を抱えていた。
「全く……アリア様もウタも、考えが浅い……行ったところでどうしようもないはずだというのに」
「だーかーら! おいらたちさっきから言ってるだろ? おいらたちは、成長してるんだい! どうしようもないことないし、自分の心に嘘ついて、やりたいことをやらないより、やってから後悔する方がずっといいんだい!」
「私たちは、一人じゃありませんしね」
「それでも心配なんだよ。なー? エド」
「サラ様までからかわないでいただけますか? 俺は真剣なんですが」
「悪かった悪かった」
はははと軽く笑ってから、小さく息をつき、サラさんは僕らを見た。
「あー……えっとな。エマに、声、かけてやってくれないか? たぶん……それがないと、立ち直れないと思うんだ」
「エマ……」
「俺に声をかけたのは、他でもないエマだ。危険をおかしてでも止めよう、傷ついても止めよう、傷つけても止めよう、その命を守ろう……ってな」
「自分で提案して、自分で決めた『作戦』だったんだ、一世一代の。……結果、それを破られちゃったんだから、しんどいだろうな」
……僕は、ただ先に進みたい、みんなを助けたいって思いで、その作戦を破壊した。けど……それと同じか、それ以上の想いをもって、エマさんはこの作戦を決意していた。
……壊してしまった僕らは、ここから先に進んで、例え死んだとしても……やるだけのことはやったからと、自分にいいわけが出来るんだろう。
しかし……エマさんは、もしこの先僕らが死ぬようなことがあれば、強い自己嫌悪に苛まれるだろう。自分の力不足で、僕らの命を奪うことになってしまったと。
「ウタ、行こうか」
「…………」
アリアさんの声に、僕は小さくうなずいた。
エマさんは僕らから少し離れた木の影に座り込み、顔を埋めていた。表情は読み取れないけれど……声は、痛いほどに良く聞こえた。
『ごめんなさい……ごめんなさい、ごめんなさい……守れなかったの……守りたかったのに、死んでしまう。死なないなんて言葉……希望にならないって、わかってたのに……』
「エマ……」
アリアさんが、エマさんの肩にそっと手を置く。……その体が、ほんの少しピクリと震えた。
「すまない、エマ……お前の気持ちを、裏切るようなことをしてしまった」
「で、でも……僕ら、本当に、生きて帰ってきますから、だから」
「分からないわ、そんなの」
ピシャリといい放たれて、なにも返せなかった。
「格上の相手に挑んで、大丈夫? 死なない? そんな不確かなことに頼れない。……だからこの手で止めようとしたの手で」
でも、と、エマさんは顔をあげ、自虐的な笑みを浮かべる。
「守られてたのは……結局私の方」
それから、僕らを見て、すがるように言う。
「ひとつだけ、お願い聞いてくれる?」
「……聞けることなら」
「ありがとう。……Unfinishedに、お願い」
エマさんは、願った。僕らに。
「私がここで絶望しないように、私が朽ちて消えないように……どうか、笑って。
辛くても苦しくても、笑ってください」
僕らは、この悲痛な願いに、うなずくしかなかった。
彰人さんが呆れたように言う。僕はそれを、黙って聞いていた。
「やめないで、お前の『勇気』が切れるのを待って、奇襲したら? ……お前、負けちまうんじゃねぇのか? 俺らにさ」
「……この『勇気』は、あなたがスキルを切るまで続きます」
「なら三時間経過して死んで終わりだな」
ははっと、乾いた笑いをこぼした彰人さんは、僕を見た。……まっすぐな瞳で、じっと、僕を……。
「…………でも、俺の敗けだな」
「……いいん、ですか?」
「仕方ねぇよ。……生きたいって思っちまったんだから」
ふわりと、あたたかい光が彰人さんを包み込んだ。光は、ほんの数秒で消えてなくなる。……それを確認した彰人さんは僕を見て、微笑んだ。いつも通りの、やさしい眼差しで。
「……わりぃけど、もう一回、回復魔法、かけてくれ。体動かなくってよ……」
「いいですよ、もちろん。……ケアル」
「ウタ殿」
「ん、なに?」
「まぁ、さっき言ったみたいに、俺が奇襲するんじゃって思ってるんだろうな、ドラくんは。Unfinishedで一番慎重で、臆病なドラゴンだからな」
彰人さんがけらけらと笑う。そこには、もう戦おうと言う意思は見えなかった。それを見て警戒を解いたのか、ドラくんは大きくため息をつき「余計なお世話だ」と呟く。
「……アキヒト、もう大丈夫?」
スラちゃんが心配そうに僕と彰人さんを交互に見る。僕はそんなスラちゃんに笑いかけ、彰人さんを見た。
「おうよ! もう元気だ! ピンピンしてるぜ?」
「ほんと!? よかったぁー!」
「…………」
彰人さんは、もう大丈夫そうだ。僕は立ち上がり、サラさんたちの方へ目をやる。フローラの新しいスキルで、HPやMPは全回復しているようだ。アリアさんと、サラさんと、エドさん。それからポロンとフローラ。五人で話している。
「……お、ウタ。全く、お前にはしてやられたな」
サラさんが僕を見ると、そう垢抜けた様子で笑う。エドさんは呆れきっているようで、その隣で頭を抱えていた。
「全く……アリア様もウタも、考えが浅い……行ったところでどうしようもないはずだというのに」
「だーかーら! おいらたちさっきから言ってるだろ? おいらたちは、成長してるんだい! どうしようもないことないし、自分の心に嘘ついて、やりたいことをやらないより、やってから後悔する方がずっといいんだい!」
「私たちは、一人じゃありませんしね」
「それでも心配なんだよ。なー? エド」
「サラ様までからかわないでいただけますか? 俺は真剣なんですが」
「悪かった悪かった」
はははと軽く笑ってから、小さく息をつき、サラさんは僕らを見た。
「あー……えっとな。エマに、声、かけてやってくれないか? たぶん……それがないと、立ち直れないと思うんだ」
「エマ……」
「俺に声をかけたのは、他でもないエマだ。危険をおかしてでも止めよう、傷ついても止めよう、傷つけても止めよう、その命を守ろう……ってな」
「自分で提案して、自分で決めた『作戦』だったんだ、一世一代の。……結果、それを破られちゃったんだから、しんどいだろうな」
……僕は、ただ先に進みたい、みんなを助けたいって思いで、その作戦を破壊した。けど……それと同じか、それ以上の想いをもって、エマさんはこの作戦を決意していた。
……壊してしまった僕らは、ここから先に進んで、例え死んだとしても……やるだけのことはやったからと、自分にいいわけが出来るんだろう。
しかし……エマさんは、もしこの先僕らが死ぬようなことがあれば、強い自己嫌悪に苛まれるだろう。自分の力不足で、僕らの命を奪うことになってしまったと。
「ウタ、行こうか」
「…………」
アリアさんの声に、僕は小さくうなずいた。
エマさんは僕らから少し離れた木の影に座り込み、顔を埋めていた。表情は読み取れないけれど……声は、痛いほどに良く聞こえた。
『ごめんなさい……ごめんなさい、ごめんなさい……守れなかったの……守りたかったのに、死んでしまう。死なないなんて言葉……希望にならないって、わかってたのに……』
「エマ……」
アリアさんが、エマさんの肩にそっと手を置く。……その体が、ほんの少しピクリと震えた。
「すまない、エマ……お前の気持ちを、裏切るようなことをしてしまった」
「で、でも……僕ら、本当に、生きて帰ってきますから、だから」
「分からないわ、そんなの」
ピシャリといい放たれて、なにも返せなかった。
「格上の相手に挑んで、大丈夫? 死なない? そんな不確かなことに頼れない。……だからこの手で止めようとしたの手で」
でも、と、エマさんは顔をあげ、自虐的な笑みを浮かべる。
「守られてたのは……結局私の方」
それから、僕らを見て、すがるように言う。
「ひとつだけ、お願い聞いてくれる?」
「……聞けることなら」
「ありがとう。……Unfinishedに、お願い」
エマさんは、願った。僕らに。
「私がここで絶望しないように、私が朽ちて消えないように……どうか、笑って。
辛くても苦しくても、笑ってください」
僕らは、この悲痛な願いに、うなずくしかなかった。
0
あなたにおすすめの小説
3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜
幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。
転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。
- 週間最高ランキング:総合297位
- ゲス要素があります。
- この話はフィクションです。
【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する
ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。
きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。
私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。
この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない?
私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?!
映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。
設定はゆるいです
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜
伽羅
ファンタジー
【幼少期】
双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。
ここはもしかして異世界か?
だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。
ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。
【学院期】
学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。
周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
悪徳領主の息子に転生しました
アルト
ファンタジー
悪徳領主。その息子として現代っ子であった一人の青年が転生を果たす。
領民からは嫌われ、私腹を肥やす為にと過分過ぎる税を搾り取った結果、家の外に出た瞬間にその息子である『ナガレ』が領民にデカイ石を投げつけられ、意識不明の重体に。
そんな折に転生を果たすという不遇っぷり。
「ちょ、ま、死亡フラグ立ち過ぎだろおおおおお?!」
こんな状態ではいつ死ぬか分かったもんじゃない。
一刻も早い改善を……!と四苦八苦するも、転生前の人格からは末期過ぎる口調だけは受け継いでる始末。
これなんて無理ゲー??
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる