チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない

植木鉢たかはし

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それは一輪の花のように

――

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 ――――。
 ――ようやく、聞こえた。そう思った。

 はっと気がついた時には……目の前に、アリアさんの顔があって……ボロボロと涙を流すアリアさんがいて……傷だらけの、アリアさんがいて…………。


「…………!」


 僕はそのとき、ようやく気がついた。ようやく……ようやく自分がしたことの大きさに気がついて、アリアさんに震える手を伸ばした。


「アリ、ア……さん…………」

「…………羽汰……?」

「ごめ……っ、ごめんなさい……。アリアさん……髪……髪飾りが…………」


 アリアさんの、金色の綺麗な髪。アリアさんが、常に身に付けていた髪飾り。それが、そこにはなかった。
 長かった髪は、肩より少し上のところで雑に切り裂かれていて、ちょうどその辺りて髪を束ねていた髪飾りは、その場所に見当たらない。

 まさかと辺りを見渡せば……紫色の、ガラスの破片のようなものが目に飛び込んできた。
 あぁ……また、


「とりかえしのつかない事をしてしまった。……とか、思ってるんだろ、羽汰」

「……だって、アリアさんの……大事なっ…………」

「…………いいんだ」

「よくないですっ! アリアさんの、お母さんと、お父さんの、形見……そんな、大事な髪飾り…………僕っ、こわし」

「羽汰。……申し訳ないと思ってるなら、やることも、言うことも違う」

「…………え」


 アリアさんは剣を置き、代わりに手をついた。そして、ゆっくりと二つ三つ息をして、僕を見た。……どこまでも見透かされるような赤い眼だ。


「羽汰……私たちは、これから、元の世界に帰る。私はお前と生きたいんだ。お前となら、これから、ディランを救うことだって出来ると信じてるんだ。
 ……たくさんの人を待たせている、行かなきゃいけない。…………分かるよな?」

「…………はい」

「……でも、その前に」


 アリアさんは僕の上から退けば、僕のことをじっと見てくる。……僕は、体を起こし、その目を見た。


「……何が言いたいか、分かるか?」

「……はい」

「…………ん」


 僕は……その体を抱き締めた。いつの間にか凍え、小さく震えていたその体を、抱き締めた。
 抱き締められたアリアさんは、僕の服をぎゅっと握りしめ、止まりかけていた涙を、再びポロポロと溢れさせた。すがるように泣くその姿は、痛いくらいに胸を締め付けた。


「…………死にたいなんて、言うなよ……?」

「……もう、言いません」

「絶対だからな? 絶対、自分から死にたいなんて、言うなよ?」

「はい。……言いません」

「言わなきゃいいって問題じゃないからな?」

「分かってますよ。思わないようにだってします」

「ようにするんじゃなくて、思うな……っ」


 …………アリアさんは、本当に優しい人だ。少し、呆れてしまうほどに。
 僕は、アリアさんの大切な大切な髪飾りを壊して、綺麗な髪を切り落として、傷つけて、めちゃくちゃにしたというのに。アリアさんはそれを……責めることは決してしない。堪えている部分もあるだろう。でもきっと、これは――。


(本当に、僕のことを……大切に想ってくれてたんだ。形見である『物』よりも、僕という、一人の『人』を、アリアさんは……)

「……羽汰」


 アリアさんは、僕の肩辺りに顔を埋めたまま、ぼそりと呟く。


「……過去、見てきた。充希ってのが、どんなやつなのかも、わかった」

「…………」

「私な……あんな風に笑う『ヤナギハラ・ウタ』を、見たことがなかった。『ヤナギハラ・ウタ』は、罪を背負っていた。なによりも自分自身が許すことのできない罪を、背負った存在だった」


 アリアさんの前にいる僕は、いつもそれを隠していた。前科持ちだと知られれば、きっとアリアさんは嫌悪し、僕から離れていってしまうだろうと、勝手に思っていたからだ。……それは、僕の杞憂でしかなかったのだけれど。


「でもな……記憶の中の羽汰は、『柳原羽汰』であって、『ヤナギハラ・ウタ』ではなかった。……罪なんて知らない、明るくて、純粋な、見てて思わず笑ってしまうくらいお気楽な……『柳原羽汰』だった」


 あの頃の僕は、幼くて、なにも考えていなかった。思ったことをそのままに行動に移して、失敗した。そうなるなんてこと想像もしないで、毎日を過ごしていた。今思えば、あまりにもバカだったと言えるだろう。


「……思うんだ、羽汰。『勇気』を発動させるには、『自分の限界を越える』必要があるんだろう?」


 アリアさんの言葉に、僕はうなずく。僕は……その先に続く言葉を、なんとなく察していた。


「僕はずっと……罪を背負った『ヤナギハラ・ウタ』の限界を、越えてきました。そんな気が、するんです」

「…………」

「後先考えずに行動できた『柳原羽汰』には、もう絶対に戻れないと思っていたし、そのころのバカな自分には、もう二度と戻るもんかと思っていた。あんな世界、あんな自分に、戻ったところでなんになるんだって」


 でも違う。
 それを越えなければならなかったのだ。
 『ヤナギハラ・ウタ』ではなく、『柳原羽汰』の限界を越えなくてはいけなかったのだ。

 過去という殻を割って、その先に進むという、『勇気』
 それがきっと、僕の――


「――いけるな? 羽汰」

「――はいっ!」


 自分の限界を越えろ、柳原羽汰っ!
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