376 / 387
それは一輪の花のように
――
しおりを挟む
――――。
――ようやく、聞こえた。そう思った。
はっと気がついた時には……目の前に、アリアさんの顔があって……ボロボロと涙を流すアリアさんがいて……傷だらけの、アリアさんがいて…………。
「…………!」
僕はそのとき、ようやく気がついた。ようやく……ようやく自分がしたことの大きさに気がついて、アリアさんに震える手を伸ばした。
「アリ、ア……さん…………」
「…………羽汰……?」
「ごめ……っ、ごめんなさい……。アリアさん……髪……髪飾りが…………」
アリアさんの、金色の綺麗な髪。アリアさんが、常に身に付けていた髪飾り。それが、そこにはなかった。
長かった髪は、肩より少し上のところで雑に切り裂かれていて、ちょうどその辺りて髪を束ねていた髪飾りは、その場所に見当たらない。
まさかと辺りを見渡せば……紫色の、ガラスの破片のようなものが目に飛び込んできた。
あぁ……また、
「とりかえしのつかない事をしてしまった。……とか、思ってるんだろ、羽汰」
「……だって、アリアさんの……大事なっ…………」
「…………いいんだ」
「よくないですっ! アリアさんの、お母さんと、お父さんの、形見……そんな、大事な髪飾り…………僕っ、こわし」
「羽汰。……申し訳ないと思ってるなら、やることも、言うことも違う」
「…………え」
アリアさんは剣を置き、代わりに手をついた。そして、ゆっくりと二つ三つ息をして、僕を見た。……どこまでも見透かされるような赤い眼だ。
「羽汰……私たちは、これから、元の世界に帰る。私はお前と生きたいんだ。お前となら、これから、ディランを救うことだって出来ると信じてるんだ。
……たくさんの人を待たせている、行かなきゃいけない。…………分かるよな?」
「…………はい」
「……でも、その前に」
アリアさんは僕の上から退けば、僕のことをじっと見てくる。……僕は、体を起こし、その目を見た。
「……何が言いたいか、分かるか?」
「……はい」
「…………ん」
僕は……その体を抱き締めた。いつの間にか凍え、小さく震えていたその体を、抱き締めた。
抱き締められたアリアさんは、僕の服をぎゅっと握りしめ、止まりかけていた涙を、再びポロポロと溢れさせた。すがるように泣くその姿は、痛いくらいに胸を締め付けた。
「…………死にたいなんて、言うなよ……?」
「……もう、言いません」
「絶対だからな? 絶対、自分から死にたいなんて、言うなよ?」
「はい。……言いません」
「言わなきゃいいって問題じゃないからな?」
「分かってますよ。思わないようにだってします」
「ようにするんじゃなくて、思うな……っ」
…………アリアさんは、本当に優しい人だ。少し、呆れてしまうほどに。
僕は、アリアさんの大切な大切な髪飾りを壊して、綺麗な髪を切り落として、傷つけて、めちゃくちゃにしたというのに。アリアさんはそれを……責めることは決してしない。堪えている部分もあるだろう。でもきっと、これは――。
(本当に、僕のことを……大切に想ってくれてたんだ。形見である『物』よりも、僕という、一人の『人』を、アリアさんは……)
「……羽汰」
アリアさんは、僕の肩辺りに顔を埋めたまま、ぼそりと呟く。
「……過去、見てきた。充希ってのが、どんなやつなのかも、わかった」
「…………」
「私な……あんな風に笑う『ヤナギハラ・ウタ』を、見たことがなかった。『ヤナギハラ・ウタ』は、罪を背負っていた。なによりも自分自身が許すことのできない罪を、背負った存在だった」
アリアさんの前にいる僕は、いつもそれを隠していた。前科持ちだと知られれば、きっとアリアさんは嫌悪し、僕から離れていってしまうだろうと、勝手に思っていたからだ。……それは、僕の杞憂でしかなかったのだけれど。
「でもな……記憶の中の羽汰は、『柳原羽汰』であって、『ヤナギハラ・ウタ』ではなかった。……罪なんて知らない、明るくて、純粋な、見てて思わず笑ってしまうくらいお気楽な……『柳原羽汰』だった」
あの頃の僕は、幼くて、なにも考えていなかった。思ったことをそのままに行動に移して、失敗した。そうなるなんてこと想像もしないで、毎日を過ごしていた。今思えば、あまりにもバカだったと言えるだろう。
「……思うんだ、羽汰。『勇気』を発動させるには、『自分の限界を越える』必要があるんだろう?」
アリアさんの言葉に、僕はうなずく。僕は……その先に続く言葉を、なんとなく察していた。
「僕はずっと……罪を背負った『ヤナギハラ・ウタ』の限界を、越えてきました。そんな気が、するんです」
「…………」
「後先考えずに行動できた『柳原羽汰』には、もう絶対に戻れないと思っていたし、そのころのバカな自分には、もう二度と戻るもんかと思っていた。あんな世界、あんな自分に、戻ったところでなんになるんだって」
でも違う。
それを越えなければならなかったのだ。
『ヤナギハラ・ウタ』ではなく、『柳原羽汰』の限界を越えなくてはいけなかったのだ。
過去という殻を割って、その先に進むという、『勇気』
それがきっと、僕の――
「――いけるな? 羽汰」
「――はいっ!」
自分の限界を越えろ、柳原羽汰っ!
――ようやく、聞こえた。そう思った。
はっと気がついた時には……目の前に、アリアさんの顔があって……ボロボロと涙を流すアリアさんがいて……傷だらけの、アリアさんがいて…………。
「…………!」
僕はそのとき、ようやく気がついた。ようやく……ようやく自分がしたことの大きさに気がついて、アリアさんに震える手を伸ばした。
「アリ、ア……さん…………」
「…………羽汰……?」
「ごめ……っ、ごめんなさい……。アリアさん……髪……髪飾りが…………」
アリアさんの、金色の綺麗な髪。アリアさんが、常に身に付けていた髪飾り。それが、そこにはなかった。
長かった髪は、肩より少し上のところで雑に切り裂かれていて、ちょうどその辺りて髪を束ねていた髪飾りは、その場所に見当たらない。
まさかと辺りを見渡せば……紫色の、ガラスの破片のようなものが目に飛び込んできた。
あぁ……また、
「とりかえしのつかない事をしてしまった。……とか、思ってるんだろ、羽汰」
「……だって、アリアさんの……大事なっ…………」
「…………いいんだ」
「よくないですっ! アリアさんの、お母さんと、お父さんの、形見……そんな、大事な髪飾り…………僕っ、こわし」
「羽汰。……申し訳ないと思ってるなら、やることも、言うことも違う」
「…………え」
アリアさんは剣を置き、代わりに手をついた。そして、ゆっくりと二つ三つ息をして、僕を見た。……どこまでも見透かされるような赤い眼だ。
「羽汰……私たちは、これから、元の世界に帰る。私はお前と生きたいんだ。お前となら、これから、ディランを救うことだって出来ると信じてるんだ。
……たくさんの人を待たせている、行かなきゃいけない。…………分かるよな?」
「…………はい」
「……でも、その前に」
アリアさんは僕の上から退けば、僕のことをじっと見てくる。……僕は、体を起こし、その目を見た。
「……何が言いたいか、分かるか?」
「……はい」
「…………ん」
僕は……その体を抱き締めた。いつの間にか凍え、小さく震えていたその体を、抱き締めた。
抱き締められたアリアさんは、僕の服をぎゅっと握りしめ、止まりかけていた涙を、再びポロポロと溢れさせた。すがるように泣くその姿は、痛いくらいに胸を締め付けた。
「…………死にたいなんて、言うなよ……?」
「……もう、言いません」
「絶対だからな? 絶対、自分から死にたいなんて、言うなよ?」
「はい。……言いません」
「言わなきゃいいって問題じゃないからな?」
「分かってますよ。思わないようにだってします」
「ようにするんじゃなくて、思うな……っ」
…………アリアさんは、本当に優しい人だ。少し、呆れてしまうほどに。
僕は、アリアさんの大切な大切な髪飾りを壊して、綺麗な髪を切り落として、傷つけて、めちゃくちゃにしたというのに。アリアさんはそれを……責めることは決してしない。堪えている部分もあるだろう。でもきっと、これは――。
(本当に、僕のことを……大切に想ってくれてたんだ。形見である『物』よりも、僕という、一人の『人』を、アリアさんは……)
「……羽汰」
アリアさんは、僕の肩辺りに顔を埋めたまま、ぼそりと呟く。
「……過去、見てきた。充希ってのが、どんなやつなのかも、わかった」
「…………」
「私な……あんな風に笑う『ヤナギハラ・ウタ』を、見たことがなかった。『ヤナギハラ・ウタ』は、罪を背負っていた。なによりも自分自身が許すことのできない罪を、背負った存在だった」
アリアさんの前にいる僕は、いつもそれを隠していた。前科持ちだと知られれば、きっとアリアさんは嫌悪し、僕から離れていってしまうだろうと、勝手に思っていたからだ。……それは、僕の杞憂でしかなかったのだけれど。
「でもな……記憶の中の羽汰は、『柳原羽汰』であって、『ヤナギハラ・ウタ』ではなかった。……罪なんて知らない、明るくて、純粋な、見てて思わず笑ってしまうくらいお気楽な……『柳原羽汰』だった」
あの頃の僕は、幼くて、なにも考えていなかった。思ったことをそのままに行動に移して、失敗した。そうなるなんてこと想像もしないで、毎日を過ごしていた。今思えば、あまりにもバカだったと言えるだろう。
「……思うんだ、羽汰。『勇気』を発動させるには、『自分の限界を越える』必要があるんだろう?」
アリアさんの言葉に、僕はうなずく。僕は……その先に続く言葉を、なんとなく察していた。
「僕はずっと……罪を背負った『ヤナギハラ・ウタ』の限界を、越えてきました。そんな気が、するんです」
「…………」
「後先考えずに行動できた『柳原羽汰』には、もう絶対に戻れないと思っていたし、そのころのバカな自分には、もう二度と戻るもんかと思っていた。あんな世界、あんな自分に、戻ったところでなんになるんだって」
でも違う。
それを越えなければならなかったのだ。
『ヤナギハラ・ウタ』ではなく、『柳原羽汰』の限界を越えなくてはいけなかったのだ。
過去という殻を割って、その先に進むという、『勇気』
それがきっと、僕の――
「――いけるな? 羽汰」
「――はいっ!」
自分の限界を越えろ、柳原羽汰っ!
0
あなたにおすすめの小説
3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜
幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。
転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。
- 週間最高ランキング:総合297位
- ゲス要素があります。
- この話はフィクションです。
【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する
ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。
きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。
私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。
この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない?
私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?!
映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。
設定はゆるいです
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜
伽羅
ファンタジー
【幼少期】
双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。
ここはもしかして異世界か?
だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。
ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。
【学院期】
学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。
周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
悪徳領主の息子に転生しました
アルト
ファンタジー
悪徳領主。その息子として現代っ子であった一人の青年が転生を果たす。
領民からは嫌われ、私腹を肥やす為にと過分過ぎる税を搾り取った結果、家の外に出た瞬間にその息子である『ナガレ』が領民にデカイ石を投げつけられ、意識不明の重体に。
そんな折に転生を果たすという不遇っぷり。
「ちょ、ま、死亡フラグ立ち過ぎだろおおおおお?!」
こんな状態ではいつ死ぬか分かったもんじゃない。
一刻も早い改善を……!と四苦八苦するも、転生前の人格からは末期過ぎる口調だけは受け継いでる始末。
これなんて無理ゲー??
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる