今夜カフェの片隅で

ろびんぴっく

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1章

少年とオーナー

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「いらっしゃいませ」

「こんにちは」

「右奥の席には座らぬよう、お願いします」

いつものセリフを並べるオーナー。
初来店の少年には、オーナーの一言は不思議なものだった。
しかし、聞く言葉も見当たらず、軽く頷いて真ん中の椅子に腰をかけた。

「素敵なお店ですね。
おすすめのものとか、ありますか?」

「カプチーノですね。
私が妻と作ったんですよ。もう、その妻も居ませんがね」

「は、はは。
じゃあ、カプチーノをお願いします」

「かしこまりました」

オーナーの背中を少年は見つめていた。
あぁ、見たいな。

「お名前をお伺いしても?」

佐々木ささき悠人ゆうとです」

「佐々木さんは、学生さんですか?
なぜこの場所を?」

「はい。高校1年です。
僕、カフェを建てたくて。今日は気分転換に森を散歩していたら、ここを」

「高校生ですか!良いですねぇ。
お好きな女性とか、いらっしゃるんですか?」

「え、えぇ、ま、まぁ」

照れたように頭を掻いた悠人に、オーナーは微笑みかけた。

「恋する少年にぴったりですね。
このカプチーノは」

「わっ!」

「お味はいかがですか?」

「すごく、美味しいですっ!
な、なんだろう、その、えっと、わぁっ
感動するなぁ・・・!」

悠人は、空になったカップを見つめていた。
カフェを建てるには、それなりに技術がいる。
だけど、父も母も反対しているし、兄だって反対している。
だけど、恋する彼女を振り向かせるには、これしかない。

「あの」

「良いですよ」

「え?」

「あなたを雇いましょう。
好きな子を、振り向かせられるといいですね」

「はい!!」

オーナーは何もかもわかっているらしい。
こうして、僕は夏休みの3ヶ月、このオーナーの元で働くことになった。
自宅から2時間の距離を考えると厳しいけど、良い勉強になるだろう。
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