22 / 43
~東への旅~
不穏
しおりを挟む
さらに数日、順調に旅を続けていたユールたちは、ついにセッスニルの城壁を拝める丘を越えた。
「ユール様、もうすぐ着きそうですよ」
「ええ」
テオの報告に返事を返し、ユールは窓の外からセッスニルの城壁を眺める。
セッスニルはヴァルハラを抜けば公爵領で一番東にある都市で、ヴァルハラを囲う魔の森から最も近い街でもある。他の街と比べて冒険者ギルドの活動は最も活発な街で、魔物の数が最も多いゆえ、腕利きの冒険者が好んで来訪するらしい。
今まで立ち寄った街の中で特に立派な城壁を眺めながら、ユールはさすがだな、と思う。魔の森に一番近いセッスニルは、魔物による襲撃も多いと聞く。そのため街の防壁も頑丈で、街の警備は厳しいのだとか。
「どうするの?」
窓の外から馬車の中に視線を向け、ウルズたちに聞いた。
「え…?」
「そういう約束だったでしょ?セッスニルまでは送るけど、ここからあとはどうするの?」
「…………」
ウルズたちが揃って沈黙する。決心は未だ固まっていないらしい。
「まあ、私たちもしばらくここにいるから、その間に決めておいて。セッスニルにとどまるか、私たちと来るか」
「……はい」
この街には3日ぐらい滞在する予定だから考える時間はたっぷりあるでしょう。
「テオ、あとどのくらいで着きそう?」
「もうすぐですよー」
テオの宣言したとおり、白い馬車と二頭の馬はそんなにかからずセッスニルの正門前に到着した。
「街に入りたいのですが」
「……この時期はあんまオススメしねえぜ?」
「ご忠告ありがとうございます。でも大丈夫なんで」
「……そうかい。何かあっても自己責任だかっな?」
少し入街手続きを渋っている門番だったが、ユールが涼しい顔で言い切ると呆れたようにため息をついた。
「自分の身は自分で守れよ?ようこそ、セッスニルへ」
重い正門が開き、ユールたちはセッスニルへ入って行った。
まず最初に感じたのは、街全体を包んでいる、どこか不穏な空気だった。
「ねえ、ノルン。ちょっと街の空気が重いと思わない?」
「重いですね。ちょっとおどろおどろしいというか」
「俺的には何か不安ごとを抱えてる感じに思えますが」
街並みは非常に立派だった。冒険者稼業もなかなか儲かるので、その稼ぎは強くなればなるほど多くなる。ゆえに腕利きの冒険者がたくさんいるセッスニルには多くの金が集まる。
「冒険者ギルドに行こう」
「そうですね。ギルドでなら何かわかるかもしれませんね」
そういうわけで、一行は冒険者ギルドに向かうことになった。
馬車と馬を指定されたスペースに預け、ユールたちはギルドに入る。ノルンとウルズたちはまた残してきた。
ギルドの中は緊迫していた。完全武装している冒険者がその辺をうろついていて、カウンターではギルド職員がバタバタと駆け回っていて、なにやらただならぬ雰囲気だった。
「すみません。なにやらただならぬ様子ですが、何かあるのですか?」
気を利かせてきれたのか、テオが通りすがった冒険者に聞いた。
「ん?なんだ、見ない顔だな」
「先ほどこの街に来たばかりですから」
「新参者か。なら知らなくてしょうがねえな。今、はぐれワイバーンの群れが近づいてるんだ。それでその襲撃への準備が行われてるとこなんだ」
「ワイバーンの群れ、ですか?」
「ああ、毎年この時期になると来るんだ。襲撃してくる時としてこない時があるんだが、今年は群れの進路的に襲ってきそうなんだ」
「そうなんですか。ありがとうございます」
冒険者にお礼を言って、テオはユールのところに戻ってきた。
「だそうですよ」
「ワイバーンの群れね」
「ワイバーンって、確かランクAの魔物ですよね?」
「そうね。緊急依頼でも発令されているのかな?」
「どうでしょう?一度カウンターに聞きに行ってみましょう」
テオの言い分に頷き、ユールはカウンターに向かう。
「すみません。ワイバーンの群れが近づいていると聞きましたが」
「ええ、そうです。現在住民の方々には避難勧告を出しているところです」
「防衛依頼は出ているんですか?」
「出ています。受注可能のランクはC以上。基礎報酬金は光金貨5枚。活躍によって追加報酬もあります。ワイバーンの素材は討伐した冒険者に所有権があります」
ユールが尋ねると、受付嬢は丁寧に説明してくれた。
「だって」
「どうします?」
「受けたいけど、私たちってCランクあったかな?」
「あるはずですよ。オーク集落を壊滅させた時にランクCになっているはずです」
「そうなの?」
全然把握してなかった。
「じゃあ受けるってことでいい?」
「構いませんよ」
「すいませーん。防衛依頼を受けたいのですが」
「………………………わかりました。ではこちらの書類にサインしてください」
長い長い沈黙が落ちたが、受付嬢はしぶしぶといった様子で受付登録の紙を差し出した。そんな受付嬢のことは一切気にせず、ユールはけろっと用紙にサインする。
「受付は完了しました。2階で詳しい説明を受けることができますので、必要であればどうぞ」
説明会があると。セッスニルは初めてなので、説明は受けることにした。
「終わった」
ギルドの2階で防衛依頼の説明を受け、ユールたちはギルドを出た。ユールがギルドに入ってから1時間ほどが経過していた。
「割とあっさり終わりましたよね」
「そうね。大して難しいことはなかったわ」
ユールたちが受けた説明はすこぶる簡単で、明日にワイバーンの群れがやってくることが予想されるので、今日中に準備を整えて、明日の朝7時にセッスニル東門の外に集合すること。個別に助っ人を連れてくるのは構わないこと。死んでも自己責任であること。とかその程度である。
「」
「」
「え?ワイバーン?ワイバーンがいるんですか?どこに?」
「ここにはいないわよ。これから来るの」
「おお、なるほど!それはいつですか?」
「決行は明日だって」
ユールはノルンに防衛依頼について話して聞かせた。
「ふぅーん。助っ人って自由なんですね」
「ソロで活動してる人への配慮じゃない?」
「まあ俺たちにはあまり縁のないはな…………」
「あの!」
テオの声が誰かの声に遮られた。振り向くと、そこにはウルズ、ヴェルザンディ、スクルドの三人が立っていた。
「私たちを討伐に連れて行ってください」
「ワイバーン退治に?」
「はい。あなた方の力をこの目で見たいのです。これから皆さんについていくかどうかを決めるためにも」
「…遊びに行くわけではないのだけど?」
「わかっています。ですが私は見極めたいのです。これからの自分たちの未来のために」
「………」
「スクルドの"目"で見ればすぐわかるでしょう。でも私たちは、自分たちの目で見て、判断したいのです。だから連れて行ってください」
ウルズが堂々とユールを見ながら告げる。この三姉妹はいつもウルズが意思表示しているが、後ろに控えているヴェルザンディもスルクドもウルズと同じ意思を瞳に宿していた。
「……後方支援しかできないよ?」
「それでも構いません。連れて行ってください。自分たちの身は自分たちで守ります」
「………まあ、構わないわ」
ユールが許可を出すと、ホッとしたように笑う三姉妹。数日前までギャロルビルグの裏路地でおどおどしてた子たちには見えないかな。
「…………」
「な、なんですか?」
「ウルズたちって、不思議な子だよね」
「「「あなたに言われたくありません!」」」
…?なぜ?不思議だと思うんだけど。
「ユール様、もうすぐ着きそうですよ」
「ええ」
テオの報告に返事を返し、ユールは窓の外からセッスニルの城壁を眺める。
セッスニルはヴァルハラを抜けば公爵領で一番東にある都市で、ヴァルハラを囲う魔の森から最も近い街でもある。他の街と比べて冒険者ギルドの活動は最も活発な街で、魔物の数が最も多いゆえ、腕利きの冒険者が好んで来訪するらしい。
今まで立ち寄った街の中で特に立派な城壁を眺めながら、ユールはさすがだな、と思う。魔の森に一番近いセッスニルは、魔物による襲撃も多いと聞く。そのため街の防壁も頑丈で、街の警備は厳しいのだとか。
「どうするの?」
窓の外から馬車の中に視線を向け、ウルズたちに聞いた。
「え…?」
「そういう約束だったでしょ?セッスニルまでは送るけど、ここからあとはどうするの?」
「…………」
ウルズたちが揃って沈黙する。決心は未だ固まっていないらしい。
「まあ、私たちもしばらくここにいるから、その間に決めておいて。セッスニルにとどまるか、私たちと来るか」
「……はい」
この街には3日ぐらい滞在する予定だから考える時間はたっぷりあるでしょう。
「テオ、あとどのくらいで着きそう?」
「もうすぐですよー」
テオの宣言したとおり、白い馬車と二頭の馬はそんなにかからずセッスニルの正門前に到着した。
「街に入りたいのですが」
「……この時期はあんまオススメしねえぜ?」
「ご忠告ありがとうございます。でも大丈夫なんで」
「……そうかい。何かあっても自己責任だかっな?」
少し入街手続きを渋っている門番だったが、ユールが涼しい顔で言い切ると呆れたようにため息をついた。
「自分の身は自分で守れよ?ようこそ、セッスニルへ」
重い正門が開き、ユールたちはセッスニルへ入って行った。
まず最初に感じたのは、街全体を包んでいる、どこか不穏な空気だった。
「ねえ、ノルン。ちょっと街の空気が重いと思わない?」
「重いですね。ちょっとおどろおどろしいというか」
「俺的には何か不安ごとを抱えてる感じに思えますが」
街並みは非常に立派だった。冒険者稼業もなかなか儲かるので、その稼ぎは強くなればなるほど多くなる。ゆえに腕利きの冒険者がたくさんいるセッスニルには多くの金が集まる。
「冒険者ギルドに行こう」
「そうですね。ギルドでなら何かわかるかもしれませんね」
そういうわけで、一行は冒険者ギルドに向かうことになった。
馬車と馬を指定されたスペースに預け、ユールたちはギルドに入る。ノルンとウルズたちはまた残してきた。
ギルドの中は緊迫していた。完全武装している冒険者がその辺をうろついていて、カウンターではギルド職員がバタバタと駆け回っていて、なにやらただならぬ雰囲気だった。
「すみません。なにやらただならぬ様子ですが、何かあるのですか?」
気を利かせてきれたのか、テオが通りすがった冒険者に聞いた。
「ん?なんだ、見ない顔だな」
「先ほどこの街に来たばかりですから」
「新参者か。なら知らなくてしょうがねえな。今、はぐれワイバーンの群れが近づいてるんだ。それでその襲撃への準備が行われてるとこなんだ」
「ワイバーンの群れ、ですか?」
「ああ、毎年この時期になると来るんだ。襲撃してくる時としてこない時があるんだが、今年は群れの進路的に襲ってきそうなんだ」
「そうなんですか。ありがとうございます」
冒険者にお礼を言って、テオはユールのところに戻ってきた。
「だそうですよ」
「ワイバーンの群れね」
「ワイバーンって、確かランクAの魔物ですよね?」
「そうね。緊急依頼でも発令されているのかな?」
「どうでしょう?一度カウンターに聞きに行ってみましょう」
テオの言い分に頷き、ユールはカウンターに向かう。
「すみません。ワイバーンの群れが近づいていると聞きましたが」
「ええ、そうです。現在住民の方々には避難勧告を出しているところです」
「防衛依頼は出ているんですか?」
「出ています。受注可能のランクはC以上。基礎報酬金は光金貨5枚。活躍によって追加報酬もあります。ワイバーンの素材は討伐した冒険者に所有権があります」
ユールが尋ねると、受付嬢は丁寧に説明してくれた。
「だって」
「どうします?」
「受けたいけど、私たちってCランクあったかな?」
「あるはずですよ。オーク集落を壊滅させた時にランクCになっているはずです」
「そうなの?」
全然把握してなかった。
「じゃあ受けるってことでいい?」
「構いませんよ」
「すいませーん。防衛依頼を受けたいのですが」
「………………………わかりました。ではこちらの書類にサインしてください」
長い長い沈黙が落ちたが、受付嬢はしぶしぶといった様子で受付登録の紙を差し出した。そんな受付嬢のことは一切気にせず、ユールはけろっと用紙にサインする。
「受付は完了しました。2階で詳しい説明を受けることができますので、必要であればどうぞ」
説明会があると。セッスニルは初めてなので、説明は受けることにした。
「終わった」
ギルドの2階で防衛依頼の説明を受け、ユールたちはギルドを出た。ユールがギルドに入ってから1時間ほどが経過していた。
「割とあっさり終わりましたよね」
「そうね。大して難しいことはなかったわ」
ユールたちが受けた説明はすこぶる簡単で、明日にワイバーンの群れがやってくることが予想されるので、今日中に準備を整えて、明日の朝7時にセッスニル東門の外に集合すること。個別に助っ人を連れてくるのは構わないこと。死んでも自己責任であること。とかその程度である。
「」
「」
「え?ワイバーン?ワイバーンがいるんですか?どこに?」
「ここにはいないわよ。これから来るの」
「おお、なるほど!それはいつですか?」
「決行は明日だって」
ユールはノルンに防衛依頼について話して聞かせた。
「ふぅーん。助っ人って自由なんですね」
「ソロで活動してる人への配慮じゃない?」
「まあ俺たちにはあまり縁のないはな…………」
「あの!」
テオの声が誰かの声に遮られた。振り向くと、そこにはウルズ、ヴェルザンディ、スクルドの三人が立っていた。
「私たちを討伐に連れて行ってください」
「ワイバーン退治に?」
「はい。あなた方の力をこの目で見たいのです。これから皆さんについていくかどうかを決めるためにも」
「…遊びに行くわけではないのだけど?」
「わかっています。ですが私は見極めたいのです。これからの自分たちの未来のために」
「………」
「スクルドの"目"で見ればすぐわかるでしょう。でも私たちは、自分たちの目で見て、判断したいのです。だから連れて行ってください」
ウルズが堂々とユールを見ながら告げる。この三姉妹はいつもウルズが意思表示しているが、後ろに控えているヴェルザンディもスルクドもウルズと同じ意思を瞳に宿していた。
「……後方支援しかできないよ?」
「それでも構いません。連れて行ってください。自分たちの身は自分たちで守ります」
「………まあ、構わないわ」
ユールが許可を出すと、ホッとしたように笑う三姉妹。数日前までギャロルビルグの裏路地でおどおどしてた子たちには見えないかな。
「…………」
「な、なんですか?」
「ウルズたちって、不思議な子だよね」
「「「あなたに言われたくありません!」」」
…?なぜ?不思議だと思うんだけど。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる