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~領地改革~
猫かぶり三人組
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ヴァルハラの改革が始まって半年。
その日、ユールはノルンとテオを連れて冒険者の箱庭へ遊びにきた。週末にはできるだけ遊びにくるようにしていたが、なんやかんやでゆっくりできなかったから、今回は週末3日間お泊りのつもりで来た。
ちなみに雪うさぎのセラは、店のマスコットに正式に就任しました。セラがお店をうろつき始めてからお客の人数が倍になったからだ。主に女性客が。素晴らしいマスコット効果である。
今では買い物ではなく、セラをモフりにくるためだけに来店する女性すらいるという人気っぷりである。
うん、セラちゃんはかわいいよね。
お互いがより円滑に連絡を取り合えるようにするため、現在ポータルの設置を急いでいる。ポータルというのはいわゆる瞬間移動のマジックアイテムで、固定された二箇所の間であれば、誰でも瞬時に移動できる代物だ。
いつものようにゲートの魔法を開き、店の一階に飛んだんだが……。
「え!?ちょっ……な、なんで……と、とりあえずこっちです!」
いきなりグズルーンに二階に押し込まれた。
「グズルーン?どうしたの、いきなり」
「静かにしててください。今ちょうど面倒な場面なんです」
「面倒?」
「あの人たち、しつこいんですよ」
耳を澄ませてみると、お店の入り口からグラムと誰かの話し声が聞こえてきた。
「ですから知らないと何度も申し上げているではありませんか」
「公爵家の情報に間違いなどない」
「どうしてここだと言い切るのですか?ここには本当に"世界樹"の方々などいませんよ?」
「隠しても無駄だ。ここの店で時たま"世界樹"のメンバーに酷似した三人組が出入りしていることは調べがついている」
「いないものはいないのですが」
「ならばここで待たせてもらう。必ず"世界樹"を連れて来いという公爵様のお達しだからな」
げ。ユミルだ。懸念はしてたけど、やっぱり追っかけ回していたか。
「いちゃもんつけにきたのね」
「俺たちはもう活動してないと思うんですけどね」
「クズはお呼びでないのよ」
公爵という単語に反応し、ノルンが瞬時に毒舌モードに入った。久々に聞いたな、ノルンの毒舌。
しかしテオの言う通り、ここ半年間"世界樹"は活動していない。領地にたどり着くまでに有名になりすぎた自覚はあったから、公爵からのいちゃもんを回避するためにギルドには一切立ち入らなかった。
どうやらクソ公爵は相当しつこいらしい。半年間追いかけ回して、まだ諦めてないのか。
「ねえ、グズルーン。あの人たちいつから来てるの?」
「ここ1週間は毎日ですよ。いつも閉店前だからお客様を理由に追い返せないですし」
「厄介すぎるでしょ」
「それでいつも夜まで居座るんですよ」
「いい迷惑だわ」
軽くストーキングされてる気がする。
「どうしようかしら?」
「諦めて帰ってもらうしかないですね」
「どうやって諦めてもらおうか?」
「そっくりさんってことにすればいいのでは?」
………ん?
「ノルン、ナイスだわ。そうしよう」
ノルンが素晴らしい提案をしてくれました。そうね、他人の空似だってことにすればいいんだ。
「俺たちの姿をごまかすってことですね」
「ええ。それもちょっとだけ。9割にてるけど別人ってことにすれば彼らも諦めてくれるんじゃないかしら?」
「でも見た目変えるだけでいいんですか?もっと本格的に違うってアピールした方が良くないですか?」
ノルンの言うことに一理ある。確かに見た目だけごまかしても騙しきれないかもしれないね。
「じゃあ、猫をかぶろう」
「「猫をかぶる??」」
「あのー、ユール様……。マジですか?」
「マジですよ」
「テオ、腹を括って。私も頑張るから」
「いや……この性格設定はおかしいでしょ………」
今、ユーリたちは店の外にいる。店内からゲートを使って外に移動したのだ。
作戦会議の結果、"クソ公爵に綺麗すっぱりきっぱり諦めてもらおう"作戦は、見た目の偽装と性格の偽装で乗り越えることとなった。見た目が似てても性格が真逆だったら、公爵も人違いだと諦めてくれるんじゃないかと踏んだのだ。
今の三人の見た目はこちら。
ユールはほとんど変化なし。髪の長さも髪の色も変えていない。左目の前に垂らしている髪も手を加えていない。ただ一つ変化ポイントは、この髪の下の左目が、右目と同じ水色になっていることだ。
テオは髪の長さも黒髪もそのままで、瞳の色を深い紫色に変えてもらった。パッと見黒に見えるが、光が当たれば紫だとわかる仕様である。
ノルンの方は金髪と瞳の色を変えずに、顔立ちを大人っぽくした。この顔のおかげで、ノルンは三人の中で"頼れるお姉さん"風のポジションにいる。サイドテールの向きを逆にしたことに意味はない。ノルンの希望だったので。
「二人とも、ちゃんと演技してね?」
「わかっています!私は"ネチネチと愚痴を延々に言い続ける根暗な女"ですね!」
「ユール様、いじめですかこれは。なぜ俺の性格設定が"女性を口説きまくるチャラ男"なんですか。参考できる人もいないのにどう演じろと?」
「そこは意地と根性で」
「とんでもない無茶ぶりですね!?」
「……だって、テオの正反対の性格って、それしか思いつかなかったんだもの」
「…………………………………はぁ。どこまで本物っぽく見えるかはわかりませんが、とりあえずグズルーンを口説きますよ」
「ごめん、ありがとう。あとで新しい調理道具を一式揃えてあげるよ」
「頑張ります」
「やっぱり現金な奴だわ」
「それと、これが終わったらグラムに事情説明しておいてください。じゃないと俺はつまみ出されます」
「あ、それは大丈夫よ。安心して」
テオ、安心していいよ。シスコンなグラムにはきっちり状況を解説しておくから。
というわけで店の前にやってきた。公爵家の使いはすでに店の中に入っているようだ。中から言い合っている声が聞こえる。
店の入り口前に立ち、ユールは大きく深呼吸する。そしてドアをじっと見ると、勢いよくバーンと開けた。
『どーもおはこんばんにちわ!今日も遊びにきましたー!』
(※演技中の主人公たちのセリフは全てこの鍵カッコで囲います)
満面の笑みを浮かべながら。
『あっ!!またきてくれたんですね!ユーリさん!!』
『今日も来ちゃった!だってルンちゃんと話すの楽しいのだもの!』
『ノナンさんもディトさんもよく来てくれました!』
『グズルーン、(一週間)君に会えなくて(友人として)寂しかったよ。今度こそ僕とデートしないかい?』
『もう!ディトさんったら!』
『まったく、世も末だわ。ストーカー予備軍ってのはいるのね。しつこいったらありゃしないんだから。あいつ(公爵)、あの時はあんなことしてくれやがったよね。あ、あとこういうのもあったな。それからこんなのもあったし、あれも………(以下略)』
公爵家の使いとグラムが呆気に取られているのをわき目に、スタコラサッサと演技を進めるユールたち。
まさに、お前ら誰だ?状態である。
『あれー?だぁれ?このおじちゃんたち』
「お、おじちゃん……」
『ん?誰ですかこの人たち?僕の逢瀬を邪魔しにきたのですか?』
『ぐちぐちぐちぐちぐちぐち……………』
「き、君たちは………?」
「"世界樹"にそっくりですね」
「でも待ってください。性格が真逆です」
公爵家の使いたちは、案の定ユールたちを見てびっくり仰天している。戸惑ったように顔を見合わせている。
『ごめんなさい、多分この子達なんです。最近よく店にきてくれていますし、外観も良く似てますからきっと他のお客様も勘違いしたんだと思います。ね、お兄ちゃん』
「え?え、ええ……その通りです」
「はぁ………」
「いやしかし……これは似すぎでは………」
『そうなんですよねー!ユーリは"世界樹"のリーダーさんにそっくりってよく言われるの!だから身なりもそっくりにしてみたの!どう?』
「え、えっと………そっくりです」
「その左目を隠してる髪は……?」
『ん?この髪の下?普通の目だよ。だってリーダーさんってこんな髪型なんでしょ?真似してみたのよ!ほら、左目も青だよ!』
「本当だ………!」
「赤じゃない。左目が赤くない!」
「他の二人もよく見たら報告と全然違いますね」
「報告では金髪の少女はあんなに大人の女性ではないし、あんな根暗でもありませんでしたよ」
「黒髪の少年も、あれ…よく見たら紫色の目ですよ。それに性格は生真面目だったはず。女性を口説くような人物ではないはずです」
どうやら使いの人は、全員が"人違い"路線に流れてくれたらしい。
というかクソ公爵、ユグドラシル・リーヴを"世界樹"に疑ってたんだね。じゃなきゃオッドアイの情報とか出てこないよ。ボロを出してやるつもりはないけど。
「すまない。見た目があまりにも似ていたから、人違いしてしまったようだ」
そう言って公爵家の使いたちはユールたちに頭を下げ、「おい、人違いだったよ」「また振り出しじゃねえかよ」とか言いながら店を出て行った。
作戦大成功。
公爵家の使いが見えなくなり、気配も察知できなるのを確認すると、ユールは顔に貼り付けていた仮面の笑みを即座に引っぺがした。肩が凝った。
「終わったわ」
「ユール様………とりあえずグラムをなんとかしてください」
「私は案外楽しかったですよ?愚痴を延々言い続けるのもいいかもしれません」
「ノルンさんはいつも公爵の悪口ばっかり言ってますもんね」
見せつける人間がいなくなれば、演技もパレードも必要ない。一瞬でいつものノリとテンションに戻る4人。ユールは今にも怒りで爆発しそうなグラムに状況解説に行った。
シスコンなお兄ちゃん、鎮まりたまえ。
「グズルーン、違うんだからな?あれは断じてそういうことではないぞ?お前からもあとでグラムに説明しておいてくれ」
「わかってますよ。でもちょっとドキドキしちゃった。あんな風に男の人に口説かれたことないもの」
「あれは頼むから忘れてくれ………」
「私もテオにそんな風に口説いて欲しいわ……。彼女なのに……」
「いや……!!口説っ、え、えーっと……!?」
「ノルンさん、無茶ぶりはダメです。テオさんは純真なんです。キスだってハイレベルなんですから、好きな人を口説き落とすなんてもっとできませんよ」
「ちょっと!?グズルーン!?」
「お二人さん、顔真っ赤ですよー。爆発しますよー」
ユールがグラムに丁寧な解説をしている後ろで、ノルンたちは何やら桃色な会話をしている。最近は改革などでドタバタしていたけど、ノルンとテオのラブラブっぷりは相変わらずらしい。
まあ、仲睦まじいのはいいことだけどね。
その日、ユールはノルンとテオを連れて冒険者の箱庭へ遊びにきた。週末にはできるだけ遊びにくるようにしていたが、なんやかんやでゆっくりできなかったから、今回は週末3日間お泊りのつもりで来た。
ちなみに雪うさぎのセラは、店のマスコットに正式に就任しました。セラがお店をうろつき始めてからお客の人数が倍になったからだ。主に女性客が。素晴らしいマスコット効果である。
今では買い物ではなく、セラをモフりにくるためだけに来店する女性すらいるという人気っぷりである。
うん、セラちゃんはかわいいよね。
お互いがより円滑に連絡を取り合えるようにするため、現在ポータルの設置を急いでいる。ポータルというのはいわゆる瞬間移動のマジックアイテムで、固定された二箇所の間であれば、誰でも瞬時に移動できる代物だ。
いつものようにゲートの魔法を開き、店の一階に飛んだんだが……。
「え!?ちょっ……な、なんで……と、とりあえずこっちです!」
いきなりグズルーンに二階に押し込まれた。
「グズルーン?どうしたの、いきなり」
「静かにしててください。今ちょうど面倒な場面なんです」
「面倒?」
「あの人たち、しつこいんですよ」
耳を澄ませてみると、お店の入り口からグラムと誰かの話し声が聞こえてきた。
「ですから知らないと何度も申し上げているではありませんか」
「公爵家の情報に間違いなどない」
「どうしてここだと言い切るのですか?ここには本当に"世界樹"の方々などいませんよ?」
「隠しても無駄だ。ここの店で時たま"世界樹"のメンバーに酷似した三人組が出入りしていることは調べがついている」
「いないものはいないのですが」
「ならばここで待たせてもらう。必ず"世界樹"を連れて来いという公爵様のお達しだからな」
げ。ユミルだ。懸念はしてたけど、やっぱり追っかけ回していたか。
「いちゃもんつけにきたのね」
「俺たちはもう活動してないと思うんですけどね」
「クズはお呼びでないのよ」
公爵という単語に反応し、ノルンが瞬時に毒舌モードに入った。久々に聞いたな、ノルンの毒舌。
しかしテオの言う通り、ここ半年間"世界樹"は活動していない。領地にたどり着くまでに有名になりすぎた自覚はあったから、公爵からのいちゃもんを回避するためにギルドには一切立ち入らなかった。
どうやらクソ公爵は相当しつこいらしい。半年間追いかけ回して、まだ諦めてないのか。
「ねえ、グズルーン。あの人たちいつから来てるの?」
「ここ1週間は毎日ですよ。いつも閉店前だからお客様を理由に追い返せないですし」
「厄介すぎるでしょ」
「それでいつも夜まで居座るんですよ」
「いい迷惑だわ」
軽くストーキングされてる気がする。
「どうしようかしら?」
「諦めて帰ってもらうしかないですね」
「どうやって諦めてもらおうか?」
「そっくりさんってことにすればいいのでは?」
………ん?
「ノルン、ナイスだわ。そうしよう」
ノルンが素晴らしい提案をしてくれました。そうね、他人の空似だってことにすればいいんだ。
「俺たちの姿をごまかすってことですね」
「ええ。それもちょっとだけ。9割にてるけど別人ってことにすれば彼らも諦めてくれるんじゃないかしら?」
「でも見た目変えるだけでいいんですか?もっと本格的に違うってアピールした方が良くないですか?」
ノルンの言うことに一理ある。確かに見た目だけごまかしても騙しきれないかもしれないね。
「じゃあ、猫をかぶろう」
「「猫をかぶる??」」
「あのー、ユール様……。マジですか?」
「マジですよ」
「テオ、腹を括って。私も頑張るから」
「いや……この性格設定はおかしいでしょ………」
今、ユーリたちは店の外にいる。店内からゲートを使って外に移動したのだ。
作戦会議の結果、"クソ公爵に綺麗すっぱりきっぱり諦めてもらおう"作戦は、見た目の偽装と性格の偽装で乗り越えることとなった。見た目が似てても性格が真逆だったら、公爵も人違いだと諦めてくれるんじゃないかと踏んだのだ。
今の三人の見た目はこちら。
ユールはほとんど変化なし。髪の長さも髪の色も変えていない。左目の前に垂らしている髪も手を加えていない。ただ一つ変化ポイントは、この髪の下の左目が、右目と同じ水色になっていることだ。
テオは髪の長さも黒髪もそのままで、瞳の色を深い紫色に変えてもらった。パッと見黒に見えるが、光が当たれば紫だとわかる仕様である。
ノルンの方は金髪と瞳の色を変えずに、顔立ちを大人っぽくした。この顔のおかげで、ノルンは三人の中で"頼れるお姉さん"風のポジションにいる。サイドテールの向きを逆にしたことに意味はない。ノルンの希望だったので。
「二人とも、ちゃんと演技してね?」
「わかっています!私は"ネチネチと愚痴を延々に言い続ける根暗な女"ですね!」
「ユール様、いじめですかこれは。なぜ俺の性格設定が"女性を口説きまくるチャラ男"なんですか。参考できる人もいないのにどう演じろと?」
「そこは意地と根性で」
「とんでもない無茶ぶりですね!?」
「……だって、テオの正反対の性格って、それしか思いつかなかったんだもの」
「…………………………………はぁ。どこまで本物っぽく見えるかはわかりませんが、とりあえずグズルーンを口説きますよ」
「ごめん、ありがとう。あとで新しい調理道具を一式揃えてあげるよ」
「頑張ります」
「やっぱり現金な奴だわ」
「それと、これが終わったらグラムに事情説明しておいてください。じゃないと俺はつまみ出されます」
「あ、それは大丈夫よ。安心して」
テオ、安心していいよ。シスコンなグラムにはきっちり状況を解説しておくから。
というわけで店の前にやってきた。公爵家の使いはすでに店の中に入っているようだ。中から言い合っている声が聞こえる。
店の入り口前に立ち、ユールは大きく深呼吸する。そしてドアをじっと見ると、勢いよくバーンと開けた。
『どーもおはこんばんにちわ!今日も遊びにきましたー!』
(※演技中の主人公たちのセリフは全てこの鍵カッコで囲います)
満面の笑みを浮かべながら。
『あっ!!またきてくれたんですね!ユーリさん!!』
『今日も来ちゃった!だってルンちゃんと話すの楽しいのだもの!』
『ノナンさんもディトさんもよく来てくれました!』
『グズルーン、(一週間)君に会えなくて(友人として)寂しかったよ。今度こそ僕とデートしないかい?』
『もう!ディトさんったら!』
『まったく、世も末だわ。ストーカー予備軍ってのはいるのね。しつこいったらありゃしないんだから。あいつ(公爵)、あの時はあんなことしてくれやがったよね。あ、あとこういうのもあったな。それからこんなのもあったし、あれも………(以下略)』
公爵家の使いとグラムが呆気に取られているのをわき目に、スタコラサッサと演技を進めるユールたち。
まさに、お前ら誰だ?状態である。
『あれー?だぁれ?このおじちゃんたち』
「お、おじちゃん……」
『ん?誰ですかこの人たち?僕の逢瀬を邪魔しにきたのですか?』
『ぐちぐちぐちぐちぐちぐち……………』
「き、君たちは………?」
「"世界樹"にそっくりですね」
「でも待ってください。性格が真逆です」
公爵家の使いたちは、案の定ユールたちを見てびっくり仰天している。戸惑ったように顔を見合わせている。
『ごめんなさい、多分この子達なんです。最近よく店にきてくれていますし、外観も良く似てますからきっと他のお客様も勘違いしたんだと思います。ね、お兄ちゃん』
「え?え、ええ……その通りです」
「はぁ………」
「いやしかし……これは似すぎでは………」
『そうなんですよねー!ユーリは"世界樹"のリーダーさんにそっくりってよく言われるの!だから身なりもそっくりにしてみたの!どう?』
「え、えっと………そっくりです」
「その左目を隠してる髪は……?」
『ん?この髪の下?普通の目だよ。だってリーダーさんってこんな髪型なんでしょ?真似してみたのよ!ほら、左目も青だよ!』
「本当だ………!」
「赤じゃない。左目が赤くない!」
「他の二人もよく見たら報告と全然違いますね」
「報告では金髪の少女はあんなに大人の女性ではないし、あんな根暗でもありませんでしたよ」
「黒髪の少年も、あれ…よく見たら紫色の目ですよ。それに性格は生真面目だったはず。女性を口説くような人物ではないはずです」
どうやら使いの人は、全員が"人違い"路線に流れてくれたらしい。
というかクソ公爵、ユグドラシル・リーヴを"世界樹"に疑ってたんだね。じゃなきゃオッドアイの情報とか出てこないよ。ボロを出してやるつもりはないけど。
「すまない。見た目があまりにも似ていたから、人違いしてしまったようだ」
そう言って公爵家の使いたちはユールたちに頭を下げ、「おい、人違いだったよ」「また振り出しじゃねえかよ」とか言いながら店を出て行った。
作戦大成功。
公爵家の使いが見えなくなり、気配も察知できなるのを確認すると、ユールは顔に貼り付けていた仮面の笑みを即座に引っぺがした。肩が凝った。
「終わったわ」
「ユール様………とりあえずグラムをなんとかしてください」
「私は案外楽しかったですよ?愚痴を延々言い続けるのもいいかもしれません」
「ノルンさんはいつも公爵の悪口ばっかり言ってますもんね」
見せつける人間がいなくなれば、演技もパレードも必要ない。一瞬でいつものノリとテンションに戻る4人。ユールは今にも怒りで爆発しそうなグラムに状況解説に行った。
シスコンなお兄ちゃん、鎮まりたまえ。
「グズルーン、違うんだからな?あれは断じてそういうことではないぞ?お前からもあとでグラムに説明しておいてくれ」
「わかってますよ。でもちょっとドキドキしちゃった。あんな風に男の人に口説かれたことないもの」
「あれは頼むから忘れてくれ………」
「私もテオにそんな風に口説いて欲しいわ……。彼女なのに……」
「いや……!!口説っ、え、えーっと……!?」
「ノルンさん、無茶ぶりはダメです。テオさんは純真なんです。キスだってハイレベルなんですから、好きな人を口説き落とすなんてもっとできませんよ」
「ちょっと!?グズルーン!?」
「お二人さん、顔真っ赤ですよー。爆発しますよー」
ユールがグラムに丁寧な解説をしている後ろで、ノルンたちは何やら桃色な会話をしている。最近は改革などでドタバタしていたけど、ノルンとテオのラブラブっぷりは相変わらずらしい。
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