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新たな患者さん
しおりを挟む「またかい、ワッツァ!」
「ごめん、お袋!!」
ソーマの充血の理由をウッカリ聞いた僕がソーマによって三度果てた時、階下からこんな声が聞こえてきた。
ソーマと僕はチェックアウトしようとやっとこさ湯浴みと身支度をして、扉を出たところだった。
階段の上から様子を伺っていたら、
「ごめん。俺、上のお客さんに朝ごはん届けてくるから!」
と、駆け上がってきた青年と目が合った。
「あれ…お客さん、もしかしてチェックアウトですか?」
ソーマは了承のため口を開いたようだったけれど、僕が一瞬早く、
「違いますよ。できたらもう一晩延長したいのですが…?」
「はい。こちらのお部屋は空いてますので大丈夫ですよ。ありがとうございます。」
笑顔で返された。
ぐぅ~キュルキュルぐぅ……
返事は僕の腹の虫だ。
「こちらへ運んでくれ。」
ソーマのひと声で、僕とソーマと宿の青年はソーマの匂いの濃い室内へとまた戻ってきた。
「あ…」
子種の匂いに気付いた宿の青年は、ひと声発すると、朝食の載った金属のトレーを熔かした。
熱を加えた訳でもないのに、夏のアイスクリームのように文字通り溶けてしまったトレーは、ソーマが咄嗟に土魔法で盆を作って代用した。
宿の青年は慌てながらもサイドテーブルの上に盆を着地させると、膝を折って額を床にめり込ませるようにすると、
「申し訳ございませんでした!!」
それは、最近見なくなったソーマのお詫びスタイルを彷彿とさせる程の見事な土下座だった。
ソーマと顔を見合わせた僕は、大仰に顔を上げさせようとするソーマを制して訳を訊ねる。
すると案の定、
「実は、私の受けた呪いの所為で、気が散ると手に触れたものを軟らかくしてしまうのです。」
と話す。
僕はソーマに、助けてあげたいという気持ちを込めて視線を送る。
ソーマはそれに応えるように自然に僕の額にキスを落とすと、青年─ワッツァさんと言うそうだ─に、僕の素性を明かした。
「そういった訳で、ワッツァが解呪を望むなら、今からここでケイを抱きなさい。」
言うと、窓際に椅子を一脚運び、窓枠で頬杖をつくようにして落ち着いた。
「え? 今から…ですか?」
ワッツァさんが訊ねると、ソーマは面倒くさそうにこちらへ振り返り、
「誰かがワッツァを探しに来た時に、受け答えする者が必要だろう?
私のことは空気だと思って。」
ソーマは言うと、野良猫を追い払うかのように逆さ向きにした手の甲をこちらに向けて、パタパタと振った。
僕とワッツァさんは顔を見合わせて苦笑い。
けれど、時間を惜しむようにワッツァさんの手を引きベッドへ向かった。
ベッドはいつの間にか整えられ、ソーマの濃ゆい香りも消えていた。
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